第百三十九話 清明の花絵「小手毬」
2026.04.05
暮life

2026年4月5日から二十四節気は「清明(せいめい)」に
「清明」とは、空気が澄み、花が咲き、生きものが活動を始める季節を表す節気です。
春分を過ぎて安定した暖かさが感じられるようになり、草木の緑も日ごとに濃さを増していきます。
桜が見ごろを迎える地域も多く、日本の春が最も華やぐ時季のひとつです。
清明の季節感
■ 桜の満開から終わりへ
清明のころになると、春を象徴するソメイヨシノは満開の時期を過ぎ、少しずつ花びらを散らし始めます。
風に舞う花びらは地面を淡く染め、水辺では流れた花びらが帯のように連なります。
この様子は「花筏(はないかだ)」と呼ばれ、満開とはまた異なる春の美しさとして親しまれてきました。
咲き誇る姿だけでなく、散り際の風情までを愛でる感性も、日本の桜文化の特徴のひとつといえるでしょう。
■ 春の主役が移り変わる頃
ソメイヨシノが終わるころ、入れ替わるように八重桜などの開花が始まります。
花びらを幾重にも重ねた八重桜は、華やかな姿が特徴で、さまざまなピンクや白、黄緑など色幅も豊か。春の後半を彩る桜として親しまれています。
またこのころには、庭木として親しまれてきた花木も見ごろを迎えます。
雪柳や山吹、小手毬、モッコウバラなど、小さな花を枝いっぱいに咲かせる植物が、満開の桜の後の景色に軽やかな変化をもたらします。
満開の桜が春の高まりを告げる花だとすれば、こうした花木は、春の深まりを感じさせる存在といえるかもしれません。
春の深まりに連なる白い毬 ─ 小手毬
□出回り時期:3月~5月
□香り:あり
□学名:Spiraea cantoniensis
□分類:バラ科 シモツケ属
□別名:鈴懸(すずかけ)
□英名:Reeves spirea、Bridal wreath
□原産地:中国
小手毬(コデマリ)は、細くしなやかな枝に小さな白い花を無数に咲かせる落葉低木です。ひとつひとつは小花ですが、半球状の花序となって枝いっぱいに咲く姿が特徴です。
流れるように枝が広がる自然な樹形も魅力で、庭木として古くから親しまれてきました。
枝物として切り花に用いられることも多く、春を代表する花材のひとつです。
■ 名前の由来
「小手毬」という名前は、小さな手毬のように丸く咲く花姿に由来します。
他にも、「鈴懸(すずかけ)」という別名も。これは連なる白い花の様子が、山伏の装束に付けられた鈴懸の飾りに似ていることから名付けられた、日本的な呼び名です。
■ 歴史と文化
小手毬は、江戸時代にはすでに観賞植物として知られており、17世紀の文献にその名が見られます。
記録としては、1645年の『毛吹草』に「小てまり」、1673年の『草花魚貝虫類写生図』に「こでまり」、1681年の『花壇綱目』に「小手鞠」、1684年の『立華正道集』には「すずかけ」、1694年の貝原益軒『花譜』には「鈴掛」と記されています。
貝原益軒は『花譜』の中で、小手毬について「一株から多くの茎が集まって生じ、春の終わりに白い房状の花を咲かせる」と記し、庭に植えて楽しむ花として紹介しています。また、残春の景色を補う花木として評価されていたこともうかがえます。
江戸時代は園芸文化が大きく発展した時代であり、多くの花木が庭木として普及しました。小手毬もそのひとつで、桜の後に咲く春の花木として、庭の景色をつなぐ役割を担っていたと考えられます。
華やかな主役の花というよりも、季節の移ろいの中で景色に軽やかさを添える花木として、日本の庭園文化の中で親しまれてきた植物といえるでしょう。
■ 近縁種とシモツケ属の植物
コデマリはバラ科 シモツケ属(Spiraea)に属する植物で、この仲間には日本の山野に自生するシモツケ(Spiraea japonica)などが知られています。
シモツケは初夏に淡紅色の花を咲かせる日本の在来種で、古くから庭木として利用されてきました。一方、コデマリは中国原産とされ、日本には江戸時代までに渡来した園芸植物と考えられています。
同じシモツケ属でも、シモツケが初夏に赤やピンク、白花を咲かせるのに対し、コデマリは春に白花を咲かせる点が特徴で、季節の異なる花木として庭園の中で使い分けられてきました。
また、近縁種にはシジミバナ(Spiraea prunifolia)があります。小手毬によく似た白花を咲かせる植物で、八重咲きの花が特徴です。こちらも江戸時代にはすでに栽培されていたことが知られています。
■ 園芸品種
現在では、白い花以外にも葉色や花姿に特徴があるコデマリの園芸品種が流通しています。
コデマリは、一重咲きの小花が半球状に集まって咲く花木ですが、幾重にも花弁が重なる八重咲きの品種もあり、より華やかな表情を見せるものもあります。
『ピンクアイス』は、白く芽吹く新芽と淡いピンク色の蕾が特徴の品種で、開花すると白花が咲き、時期による変化が楽しめます。
また『ゴールドファウンテン』は、明るい黄金色の葉が特徴の品種。芽吹きの時期には特に鮮やかな葉色が目を引きます。
このようにコデマリは、古くから親しまれてきた花木であると同時に、現代の園芸文化の中でも新たな魅力が見出され続けている植物です。
花毎の花ことば・小手毬「洒脱」
小手毬は、枝垂れる枝に繊細で品のある花を咲かせます。
その佇まいから「優雅」、また花が連なって咲く様子から「友情」という花ことばが生まれました。
しかし、小手毬の魅力は花姿だけでは語り尽くせません。
弓なりに伸び、流れるように広がる枝の自然な姿。
ところどころに蕾を残し、時をずらしながら咲く花々。
彩りを添える小さな葉の瑞々しさ、そして、ふと気づくほどの淡く甘い香り。
力みのないまま美しく佇むその姿には、優雅でありながらどこか奔放な気配があります。
花毎では、この肩肘張らないエレガンスを持つ花に「洒脱」という花ことばを添えました。
いにしえの人々も、異国からもたらされたこの花の、優雅でありながら奔放な姿に、桜とはまた異なる晩春の趣を見出したのかもしれません。
文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子
水上多摩江
イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など

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