二十四節気の花絵

イラストレーターの水上多摩江さんが描いた季節の花に合わせた、
二十四節気のお話と花毎だけの花言葉。

第九十二話 立夏の花絵「ライラック」

2022.05.05

life


2022年5月5日から二十四節気は「立夏」に

夏、一番目の節気が巡ってきました。
立夏のように「立」が付く「立春・立夏・立秋・立冬」はその始まりを表す区切りの節気です。
この立夏の気候といえば一年の中で最も過ごしやすい季節でしたが、近年は短い春から一気に夏、といった気候になり、日本ならではの移ろう季節のグラデーションが薄らいでいるようです。

菖蒲の節句
立夏の始まりにある端午の節句は五節句*のひとつで、別名「菖蒲の節句」とも呼ばれ、菖蒲湯**や軒菖蒲といった風習が現代でも行われています。
これは葉が刀に似ていることや、響きが尚武***に通じることから、武家の男児の成長を願う意味で菖蒲が用いられたという理由もありますが、もともとは旧暦の5月5日(現在の6月初旬)は体調を崩しやすい季節の変わり目であることから、血行促進や疲労回復効果といった薬効が期待できる菖蒲を厄除け(病除け)として用いた行事です。

*1月7日 人日/七草の節気、3月3日 上巳/桃の節句、5月5日 端午/菖蒲の節句、7月7日 七夕/笹竹の節句、9月9日 重陽/菊の節句
**菖蒲湯に使うのは花を楽しむアヤメ科の花菖蒲ではなく、サトイモ科の葉菖蒲です。
***尚武(しょうぶ)=武道、武勇を重んじることの意味

軒菖蒲(のきしょうぶ)
現代ではほとんど見られなくなった風習ですが、京都などでは菖蒲とヨモギを合わせた束を5月4日の夜に玄関の軒に挿し、5月5日の朝に取り除きます。
香りの強い菖蒲とヨモギを人が出入りする場所に置くことで、邪気や厄災を家に入れないという意味があるとともに、湿地を好む植物であることから火除けの意味もあるそうです。


「ライラック」

□開花時期:4月~6月
□香り:あり
□学名:Syringa vulgaris
□分類:モクセイ科ハシドイ属
□和名:紫丁香花(ムラサキハシドイ) 、リラ
□英名:Lilac、Lilas
□原産地:ヨーロッパ南東部、東アジア

ライラックは初夏に咲く、上品な花と甘い香りが特徴の花木です。
ヨーロッパでは4月にスペインやイタリアから開花がはじまり、フランス、イギリス周辺の国々を経て、北欧諸国へと開花がリレーして行きます。
日本の桜のように庭木や街路樹として多く植えられていることから、ライラックの開花シーズンはヨーロッパの方々にとって、桜のようなイメージの花なのかもしれません。
また、日本では北海道の花として有名で、2022年は3年ぶりに「さっぽろライラックまつり」が開催されます。

ライラックの歴史
16世紀後半にオランダの外交官であり植物学者であったブスベックが、オスマントルコの庭園からチューリップやヒヤシンスなどと一緒にライラックの標本をヨーロッパへ送り、各地の庭園に広まったとされています。
18世紀後半ごろから育種が進み、花色が増え、八重咲きの品種が現れたことでライラックに注目が集まります。
19世紀後半になると印象派の画家たちがこぞってライラックをモチーフにした作品を制作。
エドゥアール・マネは「白いライラック」という作品を1882年に描いていますが、同時期に白いライラックがパリの温室で大量に栽培されていたという記述*があり、当時人気の花であったことが計り知れます。
日本には明治時代に紹介され、寒さに強い特性から北海道などの北国で広まりました。

* Gabriele Tergit ”Flowers through the Ages”

ライラックとハシドイ
日本にはライラックと同属で、白い花を咲かせるハシドイ(丁香花)が自生しています。円錐状の香りのよい花が付くことは同じですが、ライラックが低木なのに対して、こちらは10m以上になる高木で、英名ではJapanese tree lilacと呼ばれます。
また、ハシドイという名の語源は不明ですが、枝先に花が集まって咲くことから「端集い」が転じてハシドイになったという説があります。

リラ冷え
日本でライラックといえば北海道といったイメージですが、北海道だけで使われる「リラ冷え」という気象用語があります。
一般には寒の戻り、花冷えといった意味にあたりますが、北海道ではちょうどライラックが開花する5月下旬から6月上旬にかけて、20度台から一気に10度台に冷え込むことがあることから、こうした気象現象をリラ冷えと表します。


花毎の花言葉・ライラック「幸福の香り」

一般的な花言葉には「青春の思い出」「友情」などがありますが、ライラックの咲く季節や姿、香りが若々しさを感じさせることから、こうした言葉が付けられたのかもしれません。

さて、立夏はライラックが花盛りを迎え、甘い香りが漂うころです。この香りには、気持ちを落ち着かせ、明るくする効果があるとされています。
そしてこのころは古来より菖蒲などの香りがある植物で邪気を払う風習や、初夏に緑の香りを運んでくる風を意味する「薫風」という夏の季語もある、香りの季節です。

この時季、もしどこかでライラックを見つけたら、ぜひ花の香りを感じてみてください。
古のひとが菖蒲で邪気を払ったように、ライラックの上品な香りは、もやもやとした気持ちを一掃して、幸せを運んで来てくれるかもしれません。
そんな願いを込めて、ライラックには「幸福の香り」という言葉を託したいと思います。

文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子

【ご案内】次回より掲載時期が毎月後半の節気に変更になります。九十三話は2022年6月21日(夏至)に掲載いたします。

水上多摩江

イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など