二十四節気の花絵

イラストレーターの水上多摩江さんが描いた季節の花に合わせた、
二十四節気のお話と花毎だけの花言葉。

第百二十九話 芒種の花絵「アガパンサス」

2025.06.05

life


2025年6月5日から二十四節気は芒種(ぼうしゅ)」に

芒種の「芒(のぎ)」は稲や麦などイネ科植物の穂先にあるとげのような部分を指していて、「芒のある穀物の種をまくころ」という意味の節気です。
地域によっては梅雨入りと重なることも多く、湿度が高くなりはじめる時季でもあります。


芒種の季節感

徐々に雨の日が増えてくる梅雨の走りのころです。草木の緑が濃くなり、花菖蒲や紫陽花が見ごろを迎えます。
ここでは芒種に行われる行事についてご紹介します。

■田植え
芒種のころは田植えの最盛期。かつてはこの節気を目安に、農村で一斉に田植えが行われていました。現在でも田植え祭や農耕に関する行事が続いている地域があります。

■梅仕事
梅の実が熟す季節でもあり、梅干しや梅酒を仕込む「梅仕事」の時期です。日本の初夏を彩る風物詩のひとつとして親しまれています。

■虫送り
農村部では、害虫を追い払うために火を焚いたり、たいまつを持って田畑を巡る「虫送り」の行事が行われていました。現在では一部の地域に残る伝統行事です。


「アガパンサス」

□切り花出回り時期:4月~7月
□開花期:5月下旬~8月上旬
□香り:なし
□学名:Agapanthus
□分類:ヒガンバナ科ムラサキクンシラン属(アガパンサス属)
□別名:紫君子蘭(むらさきくんしらん)
□英名:African lily、Lily of the Nile
□原産地:南アフリカ

初夏に咲く球根植物

■名前の由来
「アガパンサス(Agapanthus)」は、ギリシャ語の「agape(愛)」と「anthos(花)」に由来し、「愛の花」とも訳されます。この名は18世紀末、フランスの植物学者レリティエによって命名されました。
日本では「紫君子蘭」という別名がありますが、君子蘭とは科属が異なります。

■歴史
南アフリカ原産のアガパンサスは、18世紀にヨーロッパへ渡り、園芸植物として人気を博しました。特にイギリスやフランスの庭園文化の中で好まれ、品種改良も進められました。
日本へは明治期以降に伝わり、手間のかからない育てやすさから、公共施設などにも多く植えられています。

■モネとアガパンサス
印象派の画家クロード・モネは、ジヴェルニーの自邸で多くの植物を育て、それらを作品のモチーフとしました。アガパンサスもそのひとつで、晩年の連作の一部として描かれています。
モネはアガパンサスを含む大作をパリのオランジュリー美術館に展示する構想を抱いていましたが、最終的に展示されたのは《睡蓮》の連作でした。アガパンサスを描いた作品群は構想が未整理のまま遺され、後にアメリカの複数の美術館に分蔵されました。


花毎の花ことば・アガパンサス「揺るぎない愛」

アガパンサスの一般的な花ことばには「恋の訪れ」「ラブレター」などがあります。これはギリシャ語で「愛の花」を意味する名にちなんでいます。
欧米では「Love(愛)」「Affection(親愛)」「Loyalty(忠実/信頼)」といった花ことばがあり、たくさんの花がひとつにまとまって咲く姿が、深い絆や誠実な思いを象徴するものと考えられています。

さて、花毎の花ことば「揺るぎない愛」は、厳しい環境にも順応して咲くアガパンサスの姿と、「agape=無償の愛」という語源を組み合わせたものです。
さまざまな困難の中でも、静かに、そして確かに咲き続けるこの青い花には、
言葉にしなくても伝わる、変わらぬ想い──そのような愛が宿っているのかもしれません。


【ご案内】
「二十四節気の花絵」は今回より毎月前半の節気に移動いたしました。
次回は7月7日(月)小暑の午前7時に公開予定です。

文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子

水上多摩江

イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など