第百三十五話 大雪の花絵「ポインセチア」
2025.12.07
暮life

2025年12月7日から二十四節気は「大雪(たいせつ)」に
冬がいよいよ深まりゆく節気です。
二十四節気では「大雪」からが本格的な寒さの始まりとされ、山々には雪が積もり、平地にも冬の気配がはっきりと感じられるようになります。
大雪の季節感
大雪の時期、日本各地では年の締めくくりと新しい年の準備が本格化します。
■ 12月8日「事納め」
一年間の農作業や家の諸事をいったん終える日とされる、日本の年中行事のひとつです。
古くは宮中や農村で、神様への奉仕や田畑の仕事を締めくくる節目の日とされました。この日を境に、暮らしは“終わりと始まりの間”に入り、静かな切り替えの時を迎えます。
■ 12月13日 「事始め」
正月を迎えるための仕事を始める日です。煤払いや正月飾りの用意など、年末年始の暮らしを整える伝統的な習慣がこの日から動き出し、年の瀬に向けて空気がきりりと引き締まります。
師走という和風月名に表される通り、大雪は慌ただしい時季の入り口です。
しかし、この時季ならではの行事は、新年への期待を高め、心を弾ませる季節へと気持ちを導いてくれます。
そんな大雪のころから、あちこちを鮮やかに彩るのがポインセチア。
赤い苞葉は、冬の深まりと新年に向けた気持ちの切り替えを象徴するかのように、あたたかな色を灯してくれます。
冬を照らす“聖なる赤” ─ ポインセチア
□開花期:12月~2月
□香り:なし
□学名:Euphorbia pulcherrima
□分類:トウダイグサ科 ユーフォルビア属
□別名:猩々木(しょうじょうぼく)、クリスマスフラワー
□英名:Poinsettia
□原産地:メキシコ中南部、中央アメリカ
■ ポインセチアとは
赤い「花」のように見える部分は花弁ではなく苞葉(ほうよう)です。中心部にある杯状の“サイアチア”と呼ばれる部分が本来の花で、派手な苞葉がそれを囲む構造になっています。
冬期に赤く色づくのは、夜の長さが一定以上になると着色が進み、冬至前後の光条件で自然に発色する短日植物であるためです。
原産地のメキシコでは、先住民ナワ族がこの植物を Cuetlaxōchitl(クエトラショチトル)=“鮮やかな花” と呼び、冬至に再生を象徴する存在として伝えてきたとされます。
■ 名前の由来
・ Poinsettia(ポインセチア)
19世紀前半、メキシコでこの植物に魅了され、アメリカに紹介した外交官ジョエル・ロバーツ・ポインセットにちなむ名前です。
・猩々木(しょうじょうぼく)
日本では、赤い苞葉の色を中国の赤い霊獣「猩々」に見立てて命名。赤は吉兆や魔除けの象徴とされ、日本的な色彩観が反映されています。
・Lobster flower(ロブスターフラワー)
英語圏では、その形がロブスターに似ていることから、こう呼ばれることもあります。
・学名 Euphorbia pulcherrima
種小名 pulcherrima は「最も美しい」を意味し、赤い苞葉の印象深さを物語っています。
■ 歴史
ポインセチアは1820年代、ポインセットによりアメリカにもたらされ、温室園芸の発達とともに北米で広く流通するようになりました。野生では樹高3〜5mの低木ですが、20世紀に鉢物としてコンパクトに育つ品種改良が進み、世界の冬のギフトフラワーの代表格に。
アメリカではポインセットの命日である12月12日が「National Poinsettia Day(ポインセチアの日)」とされ、記念日が設けられるほどの人気を得ました。
日本には明治期に渡来し、昭和後期以降に冬の花として定着。現在では赤・白・ピンク・覆輪など多彩な園芸品種が流通しています。
■ 文化史
ポインセチアがクリスマスの象徴となった背景には、色彩・形態・伝承が重なり合っています。
・ ベツレヘムの星
苞葉が放射状に広がる姿は、キリスト誕生の物語に登場する“ベツレヘムの星”と重ねられ、19世紀の欧米園芸文献で象徴的に記されています。
・ 赤=魔除け
日本・中南米・ヨーロッパの文化に共通して、赤は生命力や守護、魔除けを象徴する色とされます。
メキシコの冬至儀礼や日本の猩々木の命名に示されるように、赤は“境界を守り、再生をもたらす色”として広く受け継がれています。
・ クリスマスの象徴
赤と緑の配色がクリスマスカラーに合致し、冬に自然に色づく短日植物であることから、 “聖なる夜の花(Flores de Noche Buena)”として親しまれてきました。
貧しい少女が道端の草を献じたところ赤い花に変わったというメキシコの伝承も、この花を“クリスマスの奇跡”と結びつけています。
花毎の花ことば・ポインセチア「冬の灯」
ポインセチアには「祝福」「聖夜」「思いやり」など、冬の訪れを象徴する一般的な花ことばが付けられています。これは、赤い苞葉の華やかさや、季節に寄り添うように色づく性質から生まれたものでしょう。
けれども、この花を身近に置いていると、より静かな一面が感じられます。
冷え込みの深まる時季、ポインセチアが部屋にあるだけで、空間にやわらかな明るさとぬくもりが宿る——その佇まいに、花毎では「冬の灯(ともしび)」という花ことばを選びました。
大きな光ではなく、くらしに寄り添う小さな灯りのような存在。
寒い日々の中でも、心を静め、ぬくもりを取り戻すひとときをもたらしてくれる花です。
文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子
水上多摩江
イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など

「銅版画で愉しむ 二十四節気の花ことば 英訳付き」
『二十四節気の花絵』が書籍になりました。
これまでの連載の中から、二十四節気にまつわるお話と、それぞれの節気に合わせて選りすぐった3つの花絵を収録。合計72の花絵と花ことばを、一冊にまとめました。
おやすみ前のひとときなど、心を癒したい時間にぴったりな、大人のための絵本です。英語訳も付いておりますので、海外の方へのギフトにもおすすめです。
WEB連載とはひと味違う、書籍ならではの魅力を、ぜひご堪能ください。
第一園芸の店舗、オンラインショップ、Amazonなどのオンライン書店にてお求めいただけます。
- 花毎TOP
- 暮 life
- 二十四節気の花絵



