第百三十四話 立冬の花絵「キングプロテア」
2025.11.07
暮life

2025年11月7日から二十四節気は「立冬(りっとう)」に
冬、はじまりの節気です。二十四節気はここからが冬。
「立春」「立夏」「立秋」「立冬」と、季節の節目には「立」のつく節気が置かれ、それぞれが四季の始まりを告げています。
二十四節気は、実際の体感よりも少し早く、季節の扉がそっと開く気配を伝えてくれるようです。
立冬の季節感
■ 紅葉狩り
暦の上では冬の始まりを告げる「立冬」は、朝晩の冷え込みがいっそう強まり、木々の葉が一年で最も鮮やかに色づく時季です。日中はまだ陽ざしがやわらかく、空気の澄んだ景色のなかに、秋の名残がきらめきます。
古くから日本では、この時期に山野を訪ね、色づく葉を鑑賞する風習を「紅葉狩り」と呼びました。「狩る」という言葉には、美しいものを探し求めるという意味があり、平安時代には貴族たちが詩歌を詠み、紅葉を愛でる宴を開いたといわれています。その後、庶民にも広まり、秋を締めくくる季節の楽しみとして今に伝わります。
「紅葉(こうよう)」と「黄葉(おうよう・こうよう)」はいずれも木の葉が色づく現象を指しますが、赤く染まるのが紅葉、黄色く変わるのが黄葉です。楓(かえで)や蔦(つた)は紅葉、銀杏(いちょう)や楢(なら)は黄葉の代表格。これらをまとめて「こうよう」と呼び、いずれも秋の象徴として詩歌にも多く詠まれてきました。
その色の違いは、葉に含まれる色素によるものです。紅葉の赤は、昼夜の気温差と日照によって葉の中で生成されるアントシアニンの発色。一方の黄葉は、葉にもともと含まれているカロチノイドが、葉緑素(クロロフィル)が分解されることで姿を現します。立冬の頃は、昼夜の温度差が大きく、紅葉と黄葉の色彩が最も美しく調和する時季です。
散りゆく葉は、冬の訪れを告げる小さなしるし。枝に残る最後の一枚までを見届けながら、過ぎゆく秋を心に留め、次の季節への準備を始める——紅葉狩りは、自然の理と美しさを味わう、日本人の感性を今に伝える心豊かなひとときです。
花の王冠 ― キングプロテア
□切り花出回り時期:通年(最盛期:10月~12月)
□香り:あり(独特の匂いがあります)
□学名:Protea cynaroides
□分類:ヤマモガシ科 プロテア属
□別名:ジャイアントプロテア、プロテア・キナロイデス
□英名:King Protea
□原産地:南アフリカ
■ キングプロテアとは
キングプロテア(Protea cynaroides)は、ヤマモガシ科プロテア属の植物で、1976年に南アフリカ共和国の国花として制定されました。直径30cmにもなる大輪の花は、同国の多様性と生命力を象徴する存在です。
■ 名前の由来
属名「プロテア」は、ギリシャ神話に登場する変幻自在の神「プロテウス(Proteus)」に由来します。その名の通り、プロテア属の植物は形や色、質感に多様性があり、まさに変化に富んだ姿を見せます。
種小名「cynaroides」は、花の形がアーティチョーク(学名:Cynara scolymus)に似ていることにちなみます。
■ プロテア属の多様性
プロテア属には100種以上の品種が存在し、花の形や色、サイズに豊かなバリエーションがあります。その中でもキングプロテアは、最大級の花を咲かせる代表的な品種で、「ジャイアント・プロテア」とも呼ばれています。
■ 鳥媒花(ちょうばいか)
キングプロテアは、現地では「Suikerbos(スイカーボス)」と呼ばれています。これはアフリカーンス語で「砂糖の茂み」を意味し、英語では「シュガーブッシュ(Sugarbush)」と訳されます。名前の由来は、花が分泌する甘い蜜にあります。
この蜜を求めて、特に南アフリカでは「サンバード」と呼ばれる小さな鳥が花を訪れます。サンバードは、細くて長いくちばしを持ち、花の奥にある蜜を器用に吸うことができる鳥で、蜜を吸う際にサンバードの体に花粉がつき、それが次の花へと運ばれることで、プロテアの受粉が行われます。
花毎の花ことば・キングプロテア「吉報」
キングプロテアの花ことばには、「王者の風格」や「自由自在」などがあります。これらは、ギリシア神話に登場する海神プロテウスにちなんで名付けられたものです。
未来を見通す力を持ちながら、それを語ることを好まず、捕らえられたときにのみ真実を明かすとされるプロテウス。姿を自在に変えながら沈黙を守るその神秘的な在り方は、プロテア属の植物が見せる多様な姿と、環境に応じて変化するしなやかな生命力と重なります。
その象徴性は、プロテア属の中でもひときわ大きな花を咲かせるキングプロテアに現れていて、堂々と咲き誇るその姿には、未来の兆しを静かに見つめるまなざしのような力が宿っているようです。
変化の中にこそ希望がある──そんな思いを込めて、「吉報」という新しい花ことばをキングプロテアに託しました。
この花が、よき知らせの予感をそっと届けてくれることを願って。
文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子
水上多摩江
イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など

「銅版画で愉しむ 二十四節気の花ことば 英訳付き」
『二十四節気の花絵』が書籍になりました。
これまでの連載の中から、二十四節気にまつわるお話と、それぞれの節気に合わせて選りすぐった3つの花絵を収録。合計72の花絵と花ことばを、一冊にまとめました。
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