第百三十一話 立秋の花絵「ブーゲンビリア」
2025.08.07
暮life
2025年8月7日から二十四節気は「立秋」に
早くも暦は秋の季節を刻みはじめました。実際には気候も気持ちも夏の真っ只中ではありますが、空は少しずつ高く、日暮れの時間は早くなり、秋のはじまりを感じるころです。
太陽の動きをもとに季節を分ける二十四節気では、立秋が秋の入口。ここから処暑、白露…と六つの節気を経て、秋はゆっくりと深まっていきます。
立秋の季節感
■盂蘭盆(うらぼん)
8月上旬から中旬にかけて、日本各地ではお盆の行事が行われます。
この風習は、仏教の「盂蘭盆会(うらぼんえ)」に由来し、先祖の霊を迎えて供養するという考え方が日本古来の祖霊信仰や年中行事と融合することで、現在のかたちが築かれてきました。
盂蘭盆会の語源は、サンスクリット語の「ウランバナ(逆さ吊り)」にあります。釈迦の弟子・目連尊者が、地獄で苦しむ亡き母を救うために僧侶たちに施しを行ったという説話がもとになっており、この教えが日本に伝わる過程で、民間の風習と結びついていきました。
現在では、8月15日を中心に行われる「旧盆」が全国的に主流となっています。これは、旧暦7月15日にあたる日程で行われていた行事が、新暦導入後も引き継がれたもので、農繁期と重なりにくいことから、各地で8月中旬に定着した経緯があります。一方で、東京など一部の地域では、新暦7月15日前後に行われる「新盆(しんぼん)」の形式も見られます。
お盆の過ごし方は地域によってさまざまで、迎え火や送り火、精霊棚の設置、お墓参りやお仏壇のしつらえのほか、「灯籠流し」や「万灯会(まんどうえ)」、「盆踊り」など、土地に根ざした行事も各地に受け継がれています。
こうした形式やしきたりは時代とともに変化してきましたが、「先祖を迎え、送り、感謝を伝える」という営みは、日本の暮らしの中に今も静かに息づいています。
「ブーゲンビリア」
□開花期:4月~11月(熱帯地域では通年)
□香り:なし
□学名:Bougainvillea
□分類:オシロイバナ科ブーゲンビレア属(イカダカズラ属)
□別名:ブーゲンビレア、筏葛(いかだかずら)、九重葛(ここのえかずら)
□英名:Bougainvillea、Paper Flower
□原産地:中南米
ブーゲンビリアとは
ブーゲンビリアは南アメリカ原産のつる性植物で、熱帯から亜熱帯にかけて広く栽培されています。一般に「花」と思われている部分は、「苞(ほう)」と呼ばれる葉が変化したもので、中央に小さく咲く白い部分が本来の花です。花は比較的早く落ちますが、苞は比較的長期間にわたって色を保ちます。
茎には鋭い棘があり、この植物のもうひとつの特徴といえます。この棘は、本来は花になるはずだった芽が、光や気温、水分といった条件によって花にならず、別のかたちに変化したものとされています。棘は、つるを支える役目を果たすほか、周囲との接触を避けるための防御的な働きもあると考えられています。
開花には周期性があり、「咲いては少し休む」を繰り返します。日照時間が短くなると花芽がつきやすくなる傾向があり、真夏のような強い日差しのもとでは、いったん花が少なくなることもあります。ただし、品種や育てる環境によっては、一年を通して花が見られることもあります。
■名前の由来
ブーゲンビリアの名は、18世紀に活躍したフランスの探検家ルイ・アントワーヌ・ド・ブーガンヴィルに由来します。彼の世界航海に同行した植物学者フィリベール・コメルソンが、リオデジャネイロ近郊でこの植物を採集し、恩師の名にちなんで「Bougainvillea」と命名しました。
現在、属としては約18種が知られており、なかでも「ペーパーフラワー」の名で親しまれる Bougainvillea glabra は、薄紙のような質感の苞が特徴的です。
■名所
南仏・コート・ダジュールにある「ボルム・レ・ミモザ」は、その名のとおりミモザの村として知られていますが、春のミモザのあとには、ブーゲンビリアが村中を彩ります。
また、夢の花屋・第三十六話「サントリーニ島の色彩に見立てる」でも紹介したギリシャ・サントリーニ島も、白と青の建物を背景に咲くブーゲンビリアが美しい景観を生み出しています。
■フリーダ・カーロとブーゲンビリア
フリーダ・カーロ(1907–1954)は、自身の生涯や身体的な経験を主題とする作品で知られる、メキシコ出身の画家です。彼女は伝統的な民族衣装や花をあしらった髪飾りを好み、身につけることで自分を表現していました。
写真の中には、ブーゲンビリアの花を髪に飾っている姿も見られ、この植物が装いのひとつとして取り入れられていたことがわかります。また、フリーダが長年暮らしたメキシコ・コヨアカンの「ラ・カーサ・アスール(青の家)」の庭では、ブーゲンビリアをはじめとする熱帯の植物が育てられていました。
1940年の自画像《とげのネックレスとハチドリ》には、棘のある植物の枝が描かれており、それがブーゲンビリアを想起させるという見方もあります。ただし、どの植物を描いたものかについて、はっきりとした特定はされていません。
花毎の花ことば・ブーゲンビリア「信念」
ブーゲンビリアには「情熱」や「魅力」といった、周囲を包みこむような華やかさを連想させる花ことばが付けられています。
その一方で、茎には花芽として育たなかった部分が鋭い棘となって残ることがあり、気づかず触れると傷ついてしまうことも。これは、植物が環境に適応するために選び取った、生存戦略のひとつといえます。咲くことだけにこだわらず、必要に応じて姿を変えて生き抜く在り方には、きらびやかなだけではない、もうひとつの魅力が感じられます。
花としての華やかさのみならず、したたかな生存戦略を兼ね備えたブーゲンビリアには、「信念」という花ことばもよく似合うと思うのです。
文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子
水上多摩江
イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など
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