二十四節気の花絵

イラストレーターの水上多摩江さんが描いた季節の花に合わせた、
二十四節気のお話と花毎だけの花言葉。

第八十六話 立冬の花絵「もみじ」

2021.11.07

life


2021年11月7日から二十四節気は「立冬」に

立春、立夏、立秋「立」の字が付いた季節を分ける四つの節気ひとつが「立冬」です。
二十四節気ではここからが冬のはじまりです。

急な冷え込みが功を奏したのか、2021年の関東の立冬はここ数年来にはまれな、鮮やかに色づいた木々を見かけます。
気象庁による生物季節観測累年表の一つにカエデの紅葉日の記録がありますが、記録が始まった1953年の東京での紅葉は11月8日。
途中観測記録がない年があり、再び観測された1981年になると11月21 日に。以来、2020年までは11月下旬以降となっています。
ヒトにとっては、暖冬は過ごしやすいともいえますが、植物には適応が難しい気候となりつつあるようです。


「もみじ(イロハモミジ)」

□学名:Acer palmatum
□分類:ムクロジ科 / カエデ属
□和名:いろは紅葉、伊呂波紅葉
□別名:タカオモミジ、イロハカエデ
□英名:Japanese maple
□原産地:東アジア

紅葉と書いて「もみじ」とも読みますが、辞書を引いてみると、一番目には「秋に草木の葉が赤や黄色に色づくこと。またその葉」などと書かれています。
万葉集にも秋に色づいた植物が詠まれていますが、この当時は「黄葉」と書いて「もみち」と読み、特定の植物を表した言葉ではなく、秋になって色が変わった草木の総称であったようです。

そして二番目に書かれているのが「カエデの別名、またはその葉」。
さまざまな植物の中でも際立った色変わりをするカエデ類を、色づく葉の総称である「もみじ」と呼ぶようになったと考えられています。

モミジとカエデ
カエデの品種は約150種あり、そのうち日本国内の在来種は約30種。これらの中でモミジと呼ばれているのは「イロハモミジ」「オオモミジ」「ヤマモミジ」の3種ですが、園芸品種となると多数の品種があり、葉の色が黒味を帯びているもの、極細いものなどさまざまな姿のモミジが存在しています。
ちなみに、盆栽の場合は葉の切れ込みが深いものを「モミジ」、浅いものが「カエデ」と呼ばれますが、植物学ではこうした見分け方の定義はないとされています。

イロハモミジ
多くの場合「もみじ」といえばこの「イロハモミジ」を指します。
名前の由来は5~7枚に分かれた葉の切れ込みを手にみたて「いろはにほへと」と数えたことだとか。
一方、カエデは葉の形がカエルの手に似ていることに由来する、というのが定説のようです。


花毎の花言葉・もみじ「時の魔法」

カエデやモミジの花言葉にも花言葉があり、「大切な思い出」「美しい変化」といった言葉が付けられています。
葉の色が変化することから、こうした言葉が付けられたのでしょう。
紅葉のしくみをひも解いてみると、ヒトと同じような個性が見えてきます。

そもそもなぜ緑の葉が赤くなるのかというと、緑の色素「クロロフィル」がなくなるにつれ、赤い色素「アントシアニン」が作られるからなのです。アントシアニンは昼夜に寒暖差があり、紫外線に強くあたると増えて、赤がきれいに発色するため、こうした条件が揃っている場所に紅葉の名所があるのです。

更に、紅葉や黄葉する植物は同じ種類、同じ場所でも葉の色づきが違うことがあるのは、ヒトと同じく、個体ごとのDNAの違いから、微妙な違いが生まれるから。
遠目にみれば赤一色のように見えても、一枚一枚の葉も一本一本の木も全て微妙に違うからこそ、見ごたえのある景色を生み出すのです。

それぞれの「もみじ」が受けた、光、風、水、温度、そして植えられた時の違いが、さまざまな赤い色を生み出すのですが、でも、なぜ「赤」である必要があるのかは、未だ明らかになっていません。

いつかその謎が解かれることがあるかもしれませんが、それまでの間は「時の魔法」がかけた、ヒトの感受性に訴えかけるための赤色なのだと思っています。

 

文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子

水上多摩江

イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など