第二十四話「ハワイの色彩に見立てる」
2024.06.01
贈gift
この世にある美しいものを花に見立てたら──
こんな難問に応えるのは、百戦錬磨のトップデザイナー。そのままでも美しいものを掛け合わせて魅せるのが夢の花屋です。
第二十四話は「ハワイの色彩」に見立てたブーケ。手掛けるのは第一園芸を代表するデザイナーのひとりである、志村紀子。
ここからは花屋の店先でオーダーした花の出来上がりを待つような気持ちでお楽しみください。
ハワイの色彩
ハワイの色といえば、ビビッドな色合いが思い浮かびませんか?
これはただのイメージではなく、実際に太陽光の波長が関係しています。赤道に近いハワイなどの地域では、太陽との距離が近いため、暖色がより一層鮮やかに感じられ、彩度の高い色に対する感覚が敏感になります。
一方、赤道から離れた場所では、寒色や彩度の低い色がより美しく感じられるため、こうした色が好まれる傾向にあります。さらに、空気中のチリや水分量も影響するので、太陽光を遮る要素が少ない地域では色が澄んで見え、反対に遮る要素が多い地域ではくすんだ色に見えます。
そして、ハワイ諸島の8つの島にはそれぞれ、島の花(レイの素材)と色が制定さています。
ハワイ島は赤、花はオヒアレフア。マウイ島はピンク、花はロケラニ。カホオラヴェ島はグレー、植物はヒナヒナ。ラナイ島はオレンジ、花はカウナオア。モロカイ島は緑、ククイの花。オアフ島は黄色、花はイリマ。カウアイ島は紫、モキハナの実。ニイハウ島は白、こちらだけニイハウシェルと呼ばれる貝殻です。
これらの色を並べてみると、ハワイの島々が虹のように表されていて、それぞれの島の美しさを表しているようです。この地が「地上の楽園」と呼ばれる理由は、自然が織り成す美しい色彩が日常の一部として存在するからなのでしょう。ハワイに広がる色のパレットは、訪れる人々をいつも魅了し続けます。
見立ての舞台裏
用意されたのは鮮やかな色の花や葉。
このブーケの主役が「ヘリコニア」。黄色と赤の部分は花ではなく苞で、この中に花が包まれています。ヘリコニアは色や形が異なる種が約100種あるとされていて、今回使用したのは苞が下を向いて付いているタイプです。ヘリコニアのユニークな形には意味があり、ハチドリなどの鳥によって受粉を行う鳥媒花のため、鳥が見つけやすい色、とまりやすい形と固さをしています。
大きな黒い葉は「ドラセナ ブラックタイ」。今回は右手の大きな葉をそのまま使用せず、手で少しづつ裂いて、左手のアレカヤシのような姿にしていきます。
志村が最初に手に取ったのはヘリコニア。人が持つとその大きさがお分かりいただけると思いますが、高さ1メートル以上ある巨大サイズです。
まるでブラシのような、その名も「ブラシノキ」が加わりました。この花は、先ほどハワイの島々に制定されている花でご紹介した「オヒアレフア」にも似ています。
「アンスリウム」が加わりました。アンスリウムは19世紀の終わりにイギリスから伝わり、ハワイを中心に品種改良が行われた花です。ハート型のシルエットをしているので、ハワイではバレンタインデーの花として人気だそう。
ブーケの中心に入っているオレンジとネイビーのコントラストが鮮やかな花は「ストレリチア レギナエ」。花が美しい羽根飾を持つ極楽鳥に似ていることから、別名「極楽鳥花」とも呼ばれます。
ブーケの足もとにオレンジとピンクの「モカラ」を加えています。
全てを束ねて完成です!
完成、ハワイの色彩に見立てたブーケ
ハワイの色彩に見立てたブーケが完成しました。
「私が得意なビビッドな色の組み合わせを、大好きなトロピカルフラワーを使って作ったブーケです。デザインを考えたときに、この花のラインナップはハワイのイメージ!と思って、後付けでテーマを選びました(笑)」
「へリコニアは花屋ではほとんど置いていない花ですが、この特大の花を使ってブーケを作ってみたいと思ったんです。まさに『夢の花屋』ですね」
こちらは背景をオレンジ色に変えて撮影したものです。ピンクの背景とはがらりと雰囲気が変わります。
今回の花材:利休草、ブラシノキ(カリステモン)、ストレリチア レギナエ、モカラ(カリプソ、サイアムゴールド)、タバリアファン、ヘリコニア、モンステラ、アンスリウム(ラックローズ、スイートロージー)、ドラセナ ブラックタイ
ハワイの色彩に見立てたブーケはいかがでしたでしょうか。前作の「春のパリに見立てたブーケ」とは、同じフラワーデザイナーが作ったとは思えないほど、全く違った雰囲気のブーケでした。
それぞれ個性豊かな色や形を持つ花々が集まり、どんなデザインになるのかとドキドキしながら見守っていましたが、あっという間にハワイらしさ満点のブーケが完成しました。ハワイの色彩をまといながらも、どこか都会的な印象がある、とてもスタイリッシュなデザインのブーケは都会の夏にもぴったり似合うようです。
「夢の花屋」ではトップデザイナーならではの、鋭い観察眼や丁寧な仕事が形になる様子まで含めて、お伝えしていきたいと思っております。
こんな見立てが見てみたい…というご希望がございましたら、ぜひメッセージフォームからお便りをお寄せください。
第二十五話予告
次回は新井光史が登場。琳派の名作に見立てます。7月1日(月)午前7時に開店予定です!
志村紀子 Noriko Shimura
東京生まれ。国内を代表するホテル、外資系大手ラグジュアリーホテルのウェディングやパーティー装花に携わり、帝国ホテルプラザ店で活躍。現在は第一園芸を代表するデザイナーとして、Noriko Shimuraブランドを展開。他にも社内スタッフ教育部門の講師、対外的なワークショップ講師、各種商品提案、空間装飾のデザインなどを担当している。
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