二十四節気の花絵

イラストレーターの水上多摩江さんが描いた季節の花に合わせた、
二十四節気のお話と花毎だけの花言葉。

第百七話 立秋の花絵「酔芙蓉」

2023.08.08

life


2023年8月8日から二十四節気は「立秋」に

秋はじまりの節気です。
「秋」の字が付いているものの、実際の季節は暑さが最も厳しいため、理解し難いと思われがちな節気です。しかし、二十四節気を並べてみると立秋は昼夜の長さの基準である夏至と秋分の中間地点にあたり、ここから徐々に秋が深まっていく目印の節気であることがわかります。

立秋の行事「五山送り火」
毎年8月16日は京都の代表的な伝統行事のひとつである五山送り火が行われます。
大文字焼きの名でも知られるこの行事は、京都の街を囲む五つの山に「大」「妙法」「船形」「左大文字」「鳥居形」の文字や図形が炎で描かれ、お盆の締めくくりと夏の終わりを告げる幻想的な京都の風物詩です。


「酔芙蓉」

□開花時期:8~10月
□学名:Hibiscus mutabilis f. versiclor
□分類:アオイ科 フヨウ属
□和名:酔芙蓉(スイフヨウ)
□英名:Cotton rosemallow
□原産地:中国(園芸品種)

フヨウ属にはたくさんの仲間があり、フヨウをはじめ、ムクゲやハイビスカスなど、約250種が存在。特にハイビスカスは園芸品種が豊富で5,000品種近くの種類があるとされています。

今回ご紹介している酔芙蓉はフヨウの園芸品種で、朝から夕方にかけて白からピンク、やがて紅色へと色が変化して、翌朝には萎む一日花です。色が変化する様子がお酒に酔っていく姿に例えられ、この名が付けれたといわれています。

色の変化のしくみ
酔芙蓉の色が変化するのはアントシアニンの合成によるものです。25度以下の気温では合成が進みづらいため白色ですが、25度以上になると急速に進み、ピンク~紅色へと色づきます。紫外線で色付くようにも思えますが、こちらは影響がないことが分かっています。

国宝『紅白芙蓉図』
室町時代には観賞されていたとされるフヨウですが、同時代に伝来した国宝『紅白芙蓉図(こうはくふようず)』*は酔芙蓉がモチーフであると考えられています。
この作品は南宋時代の宮廷画家 李迪(りてき)の代表作とされるもので、だんだんと花開くまだ白い花と、ピンクに色づいた花がそれぞれ二つの図に描かれており、つぼみから満開に移り変わって行く姿と色の経過が表現された作品です。

*東京国立博物館蔵、制作年度1197年


花毎の花言葉・酔芙蓉「再生」

時間とともに変化する花の色から付けられた一般的な花言葉は「心変わり」や「幸せの再来」などです。また、学名につけられたムタビリスはラテン語で「変化しやすい」という意味から付けられています。

一方、フヨウの原産地の中国では、後蜀*(こうしょく)の時代の皇帝がフヨウをたいへん好み、都である成都のいたるところにこの花を植えたそうです。その後も華やかに栄えるおめでたい花として花鳥画や詩歌に表されてきました。

暑い季節、一日の内につぼみから満開に、さらに白からピンクに色づき、そして日暮れには紅色になり萎み、また次から次へとそれを繰り返す……酔芙蓉には優美で繊細な姿とは裏腹に何度でも再生する、秘めたエネルギーを感じます。
古の人がこの花が縁起よきものとして捉えていたのは、美と力を兼ね備えた花だからだったのではないでしょうか。

明日の朝、また生まれ変わって新たな花を咲かせる酔芙蓉に「再生」という花言葉を贈りたいと思います。


文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子

水上多摩江

イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など