二十四節気の花絵

イラストレーターの水上多摩江さんが描いた季節の花に合わせた、
二十四節気のお話と花毎だけの花言葉。

第百二十七話 穀雨の花絵「芍薬」

2025.04.20

life


2025年4月20日から二十四節気は「穀雨(こくう)」に

さまざまな穀物を潤す春の雨が降るころを表した節気です。
そして、穀雨は春最後の節気。茶摘の歌に出てくる「八十八夜」は立春から数えて88日目にあたり、2025年は5月1日。
「夏も近づく八十八夜」の言葉通り、夏のはじまりはもうすぐそこです。


穀雨の季節感

雨の名前
二十四節気には「雨」が付く節気が二つあり(穀雨、雨水)、どちらも春の節気にあたります。日本では春のみならず、四季折々の雨に名前が付けられていますが、特に春の雨には植物との関わりを表した名前が多くあります。ここでは春の雨につけられた名前の一部をご紹介します。

■2月初旬から2月中旬
「雪解雨」(ゆきげあめ)雪を解かすように降る雨

■3月下旬から4月初旬
「催花雨」(さいかう)菜の花など春の花の開花を促す雨
「桜雨」(さくらあめ)桜の花が咲く頃に降る雨
「紅雨」(こうう)春の花に降り注ぐ雨

■4月全般
「春夕立」(はるゆうだち)「春驟雨」(はるしゅうう)春のにわか雨

■4月中旬から5月初旬
「百穀春雨」(ひゃっこくはるさめ)田畑を潤して芽を出させる雨


「芍薬」

□切り花出回り時期:3月~6月
□香り:あり
□学名:Paeonia lactiflora
□分類:ボタン科ボタン属
□別名:夷薬(エビスグスリ)、夷草(エビスグサ)、ピオニー
□英名:Peony
□原産地:中国北部、朝鮮半島

芍薬の「芍」とは薬の意味がある言葉で、ほぼ「芍薬」にのみに使用される漢字です。その芍に薬という字が付けられた芍薬は「薬の中の薬」という意味を持つ植物です。

歴史
中国では紀元前から薬草として栽培されていたとされる、歴史の古い植物です。日本には平安時代以前に薬草として渡来したとされ、安土桃山時代になると屏風絵として描かれていることから、この時代には観賞用としても親しまれていたようです。
その後、江戸時代に起こった園芸の流行とともに鑑賞用として多用な品種が栽培され、大きく発展した古典園芸植物のひとつです。特に肥後藩では花の品種改良が盛んで、芍薬は肥後六花(芍薬、椿、花菖蒲、朝顔、菊、山茶花)と呼ばれる特産の花となりました。
なお、芍薬には日本で品種改良が行われた「和芍薬」と、主に欧米で改良が進んだ「洋芍薬」があり、和芍薬は一重咲きが多く、洋芍薬は八重咲きで香り高い花が多いのが特徴です。

芍薬と牡丹の違い
姿のみならず、開花期や種類の豊富さなど、芍薬と牡丹はたいへん似た点が多い植物です。分類上では芍薬は草花、牡丹は低木といった大きな違いがありますが、見た目で最もわかりやすいのは茎や葉の違いです。
芍薬は茎が緑色、葉がつややかで切れ込みがありません。一方、牡丹は茎が枝状で茶色、葉にはつやがなく、切れ込みがあります。
また、蕾の形も異なっていて、芍薬はボール状の丸い形をしているのに対し、牡丹は先端がやや尖った雫のような形をしています。

立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花
美しい人を表す喩えとして使われる言葉ですが、もともとは漢方の生薬の使い方を表しているといわれています。
「立てば芍薬」は、気が立っている状態を表し、芍薬の根の生薬を使うと気が落ち着くことに。「座れば牡丹」は、座ってばかりで血の巡りが悪くなった際に、牡丹の根の生薬を使うと改善することから。「歩く姿は百合の花」は、風で花が揺れる様子がふらつくように歩く姿に例えられ、百合の根の生薬が心身症に効果があることを表しています。

薬効
東洋のみならず、西洋でも芍薬は薬効がある植物とされ、属名のパエオニアは、ギリシア神話の医学の神「パイオン」に由来しています。パイオンが冥界の神であるハデスの傷を芍薬の根を使って治療したという神話もその由来のひとつと考えられます。


花毎の花ことば・芍薬「才色兼備」

芍薬には「綽約(しゃくやく)」の「姿がしなやかで優しい姿」という意味から付けられたという説もある、繊細さと華やかさを兼ね備えた姿が魅力の花です。
また、一般的な花ことばには「恥じらい」「謙遜」などがありますが、これは”Blush like a peony”(芍薬のように顔を赤らめる)という英語のことわざに由来しています。一方、日本ではヤマシャクヤクなどが明るさによって、開いたり閉じたりすることに見立てているという考えもあるようです。

さて、今では芍薬の花の美しさが主役のようになっていますが、先にお伝えした「立てば芍薬~」のことわざの捉えられ方に違いがあるように、もともとは薬効が古今東西で重宝されてきた植物です。そこで、新しく花ことばを付けるとしたら、可憐さ、美しさのみならず、優れた才能(=薬効)と美しい姿を兼ね備えた芍薬には「才色兼備」という花ことばもとても似合うと思うのです。


文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子

水上多摩江

イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など