二十四節気の花あしらい

旬の花を最後の一輪まで楽しみつくしませんか?
気軽に季節を感じる「花あしらい」のテクニックをご紹介。

第四十九話 芒種の花あしらい「芍薬」

2025.06.05

life

日本では季節の変化を敏感に感じ取り、年中行事や習わしに添った植物を暮らしに取り入れてきました。
「二十四節気の花あしらい」では難しいルールにとらわれず、気軽に季節を感じられる花を楽しむテクニックを第一園芸のトップデザイナー、新井光史がご紹介いたします。


2025年6月5日から二十四節気は芒種に

芒種とは稲や麦などのイネ科植物の種をまくころを示した節気です。
6月の和風月名は「水無月(みなづき)」ですが、古語で「無(な)」は「の」と解釈されることもあり、「水の月」という意味という説が有力です。梅雨の気配が次第に濃くなり、水と関わりが深まる季節のはじまりです。

今回のテーマは「芍薬」。もともとは薬用植物として日本に伝わり、観賞用としても古くから親しまれてきた華やかな花です。曇りがちな時季にロマンティックな彩りを添える芍薬の花あしらいをご紹介します。

一輪を楽しむ

芍薬は一輪であしらうと、姿形の美しさや華やかさが際立ちます。
ここでは、真紅の芍薬「レッドチャーム」を、茎と口径がぴったり合うシンプルな一輪挿しに生けました。すらりとした姿を愛でる花あしらいです。

花材をプラス

レッドチャームに、観葉植物の「ストロマンテ(別名:ウラベニショウ)」の花を添えて、夏の気配を加えました。垂れ下がった葉は、花に付いていた終わりかけのものをあえてそのまま使用し、生命の循環を表現しています。
芍薬はとても華やかな花なので、合わせる植物は控えめなものの方がバランスが取りやすいでしょう。

小さく楽しむ

半八重咲きの品種「コーラルチャーム」を短くカットして生けました。
開いた芍薬は花にボリュームが出ますので、写真のように思い切って短めにカットするのもおすすめです。いきいきとした葉が付いていれば、その葉も活かすことで、フレッシュな印象を演出できます。

こちらは代表的な芍薬の品種「サラベルナール」に斑入りの「ナルコラン」を合わせました。場合によっては、花はきれいでも葉にダメージのある芍薬がありますので、そうしたときには無理に芍薬の葉を使わず、別の葉を添えてみましょう。

集めて飾る

一輪挿しに生けた芍薬を集めて飾ってみましょう。すべて芍薬ですが、同じ品種とは思えないほど、それぞれが個性的な表情を見せてくれます。異なる品種を選んで、1本ずつ飾ったり、組み合わせたりすると、楽しみ方が広がります。

贅沢に楽しむ

8本の赤いレッドチャームをクラシックな花器にざっくりと生けました。モスグリーンの花器と真紅の花が響き合う、重厚感のある花あしらいです。

同じ花器を使って、コーラルチャームを生けました。こちらは葉が少ないので、銅葉のドラセナを加えています。
葉を加えることで、ボリューム感が増し、細い茎でも花が固定しやすくなります。銅葉は合わせ方が難しそうに見えますが、暖色系の花との相性が良く、色を引き立ててくれます。

最後は豪華にレッドチャーム、サラベルナール、コーラルチャームを組み合わせました。芍薬は一輪でもドラマティックですが、こうしてさまざまな種類を合わせると息をのむような美しさに。芍薬は開花すると2、3日で花が一気に散りますが、もし散った花弁があれば素敵な小道具になりますので、そのまま活かして一枚の絵画のようなイメージで生けてみてください。

芍薬を扱うコツ

つぼみの芍薬を咲かせるためにはいくつかのコツがあります。
まず、芍薬は水揚げがあまりよくないので、葉が多い場合はある程度切り落とします。左の写真のように葉がたくさん付いているものであれば、花に近い数枚を残すと、葉からの蒸散が防げます。
葉を落としたら、切り口を斜めにカットして、(葉に水が付かない程度の)深めの水に数時間付けてしっかりと水を吸わせましょう。この時に新聞紙などで真っすぐになるように包んでから水に浸けると、より効果的です。

芍薬を選ぶ場合、極端につぼみが堅いものは花が開かない場合があるので、避けましょう。
また、つぼみに蜜がついていることがあります。べたつく部分があれば、濡らした柔らかい布なのでふき取ると、開花しやすくなります。

芍薬は少し手間のかかる花ですが、満開になったときの美しさや香りは格別です。ぜひ、さまざまな花あしらいに挑戦してみてください。

「芍薬」の基本情報

□切り花出回り時期:3月~6月
□香り:あり
□学名:Paeonia lactiflora
□分類:ボタン科ボタン属
□別名:夷薬(エビスグスリ)、夷草(エビスグサ)、ピオニー
□英名:Peony
□原産地:中国北部、朝鮮半島


花毎でご紹介している芍薬のお話
二十四節気の花絵 第百二十七話 穀雨の花絵「芍薬」


新井光史

神戸生まれ。花の生産者としてブラジルへ移住。その後、サンパウロの花屋で働いた経験から、花で表現することの喜びに目覚める。 2008年ジャパンカップ・フラワーデザイン競技会にて優勝、内閣総理大臣賞を受賞し日本一に輝く。2020年Flower Art Awardに保屋松千亜紀(第一園芸)とペアで出場しグランプリを獲得、フランス「アート・フローラル国際コンクール」日本代表となる。2022年FLOWERARTIST EXTENSIONで村上功悦(第一園芸)とペアで出場しグランプリ獲得。2025年3月に行われたFlower Art Award2025でも川口太聞(第一園芸)とペアで出場しグランプリを獲得した。 コンペティションのみならず、ウェディングやパーティ装飾、オーダーメイドアレンジメントのご依頼や各種イベントに招致される機会も多く、国内外におけるデモンストレーションやワークショップなど、日本を代表するフラワーデザイナーの一人として、幅広く活動している。 著書に『The Eternal Flower』(StichtingKunstboek)、『花の辞典』『花の本』(雷鳥社)『季節の言葉を表現するフラワーデザイン』(誠文堂新光社)などがある。

Text・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子