第五十七話 大寒の花あしらい「菊/マム」
2026.01.20
暮life

日本では季節の変化を敏感に感じ取り、年中行事や習わしに添った植物を暮らしに取り入れてきました。
「二十四節気の花あしらい」では難しいルールにとらわれず、気軽に季節を感じられる花を楽しむテクニックを、第一園芸のトップデザイナー・新井光史がご紹介いたします。
2026年1月20日から二十四節気は大寒に
小寒から続いてきた冷え込みがこの時季に極まり、一年で最も寒さが厳しい節気とされるのが「大寒(だいかん)」です。
古くから大寒は、寒の水を汲んだり、味噌や酒を仕込んだりと、季節の力を暮らしに生かす節目として大切にされてきました。
また、二十四節気、24番目の節気でもあり、暦の上でも区切りのときです。
この時季にご紹介するのは、日本を代表する花でもある「菊/マム」。
張りのある花びらと整った輪郭をもつ菊は、古来よりさまざまな節目に欠かせない花として親しまれてきました。
近年では「マム」とも呼ばれ、姿や色がより豊富になり、従来の菊のイメージとは異なる花も増えています。
古くは邪気を払う花として、現代ではモダンな花として注目される菊を主役に、大寒の季節感を映す花あしらいをご紹介します。

凛とした姿を活かす
「クチュールブラッシュ」という、花弁の表がワインレッド、裏がベージュの大輪のマムを、菊炭(きくずみ)に挿しました(このようなモダンな花は「マム」と呼ばれることが多いタイプです)。
華やかで見ごたえのある花は、一輪の美しさをそのまま生かして生けてみましょう。
花留めとして使った菊炭は、切り口に放射状の割れ目が入り、その模様が菊に似ていることから名付けられた、主に茶道で使われる炭です。
一見しただけではわかりにくいものですが、実は菊のイメージが掛け合わされた、遊び心のあるあしらいになっています。
菊炭は保水をしないため、このような生け方をする際は、事前にしっかり水揚げをしておきましょう。
菊は水持ちがよいので、半日程度であれば美しい姿を楽しめます。

松と組み合わせて
菊も松も、古来から縁起ものとして日本の行事に欠かせない植物です。
まもなく迎える、二十四節気の新年ともいえる「立春」を祝う、こんな花あしらいはいかがでしょうか。
「大王松(だいおうしょう)」の長い葉を摘み取り束ね、一輪の菊を添えました。
使用した花は、雅な名前を持つ「古都のしぐれ」。
飾り方はとてもシンプルで、経木(きょうぎ)を巻き付けて松を束ね、小さな一輪をそっと挿すだけです。
松と菊がもつ清らかな印象が際立ち、暮らしの句読点になるようなひとときに寄り添います。

菊は一輪挿しにもよく似合いますが、松葉を添えることで、思いがけない楽しさが生まれます。
「古都のしぐれ」を生けたところに5本の松葉を組み合わせると、星のような形が現れました。
シンプルな服にアクセサリーを添えるような感覚で楽しめる、ささやかで軽やかな花あしらいです。

めでたさを飾る
菊の凛とした華やかさを松が受け止める組み合わせです。
小さな正方形のガラス花器に大王松を左右に生け、中心に黄金色の「トロピカーナ」と、小さなスプレー咲きの「パーペッタレッド」を添えました。
シンプルでありながら、羽を広げた鳳凰のようにも見える、縁起のよい雰囲気が漂います。

こちらは四角い皿に剣山を置き、「古都のしぐれ」「パーペッタレッド」、そして大王松を挿しました。
剣山は那智黒石で隠して景色のように仕立て、アクセントに「仏手柑(ぶっしゅかん)」を添えました。
仏手柑はお正月頃に出回る観賞用の柑橘ですが、金柑や柚子を使っても素敵です。
花材が少なくても、豊かな世界観が広がるあしらいです。

最後の数輪を活かす
寝かせた大王松に、小さな菊を所々に置きました。
水面を進む舟のようでもあり、川の流れのようにも見える、雅やかな花あしらいです。
植物は視点を変えると、まったく違う表情を見せてくれるもの。
花の終わりが近づいて数輪だけ残ったときも、こんなふうに飾るとハッとするような景色が生まれるかもしれません。

「菊/マム」の基本情報
□出回り時期(切り花):通年
□香り:あり
□学名:Chrysanthemum morifolium
□分類:キク科キク属
□別名:家菊(いえぎく)、マム
□英名:Mum、Chrysanthemum、Florist’s daisy
□原産地:中国、朝鮮半島
□花ことば:温故知新、高貴、高潔
花毎でご紹介している菊/マムのお話
・二十四節気の花絵 第六十六話 霜降の花絵「菊」
・旬花百科 第十八話 「マム(菊)」
・二十四節気の花あしらい 第十七話 寒露の花あしらい「菊」

新井光史
神戸生まれ。花の生産者としてブラジルへ移住。その後、サンパウロの花屋で働いた経験から、花で表現することの喜びに目覚める。 2008年ジャパンカップ・フラワーデザイン競技会にて優勝、内閣総理大臣賞を受賞し日本一に輝く。2020年Flower Art Awardに保屋松千亜紀(第一園芸)とペアで出場しグランプリを獲得、フランス「アート・フローラル国際コンクール」日本代表となる。2022年FLOWERARTIST EXTENSIONで村上功悦(第一園芸)とペアで出場しグランプリ獲得。2025年3月に行われたFlower Art Award2025でも川口太聞(第一園芸)とペアで出場しグランプリを獲得した。 コンペティションのみならず、ウェディングやパーティ装飾、オーダーメイドアレンジメントのご依頼や各種イベントに招致される機会も多く、国内外におけるデモンストレーションやワークショップなど、日本を代表するフラワーデザイナーの一人として、幅広く活動している。 著書に『The Eternal Flower』(StichtingKunstboek)、『花の辞典』『花の本』(雷鳥社)『季節の言葉を表現するフラワーデザイン』(誠文堂新光社)などがある。
Text・Photo:第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子
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