第五十七話 「八月 立秋 処暑」
2021.08.07
暮life
初秋
立秋、初秋、桐一葉、赤蜻蛉、新涼、白粉花、鳳仙花、初嵐、処暑。
八月の季語は、並べていくうちに、涼しい風が吹いてきて、懐かしい記憶が呼び覚まされる、そんな力が含まれています。
夕暮れの色を確かめたくて窓辺に立てば、暑さの退けもいつの間にか早くなっていて、猛暑の最中にも秋の気配があります。
夏と秋の狭間には何か、特別な空気が流れているのか、季節の境界線に出会うたびに気分が和らぎます。
夕闇に、煌々と西の空に現れるのが一番星です。
今の一番星は、宵の明星、金星。
夕涼みには金星浴を存分に楽しみたい時節が訪れています。
8月7日の月遅れの七夕を中心に、とっぷりと暮れたあと、仰ぐものに降り注ぐように輝く天の川も見事です。
多くのことがらが複雑に絡み合う時代になりましたが、心あるものを大事にするためにも、まずは自分の1日の疲れをそのままにしないことを心がけたいもの。
草花や景色、そして星々の輝きを日々の友に、そして自分に明かりを灯して、世の流れを歩いていきたいと思います。
蓮立
すっと天に向かっていくような蓮の蕾と蓮の葉を合わせて。
人々が草花を立てるようになった大きな由縁の一つに、正月の門松、夏祭りの竹、榊の枝などのように神霊のよりつくもの依代としての意味があります。
今回は神霊を宿す依代をお題に蓮を立ててみました。
圧倒されるような暑さがすっと引けていく光の中、窓の向こう側に見えている初秋の訪れを感じながら水盤にたっぷりの水を張り、光を透かした蓮の葉は、あたかも扇のよう。
混迷の世にあっても、天を仰ぎ自分の軸を確かめながらたおやかに踊る花のような気持ちを忘れずにいられますように、と願いを込めました。
精霊の天馬
月遅れのお盆。
精霊のお迎えには精霊馬(しょうりょううま)を添えます。
迎え馬、天馬などの多くの別名があります。
目にみえないものにも気持ちを向けて自分らしく今を生きられるようにと、天と地をむすぶ橋渡しにと今年の精霊馬は藁で尾の長いものを拵えました。
盛りを迎えた木槿の花を尾に添えて。
この世とあの世を照らす花となりますように。
禊萩と松明
お盆のお供花の一つ、禊萩(みそはぎ)。
地域によって異なるものですが、可憐で美しい色の花ですが、切り花では長くは持たず、儚い花。
水に浸し、その水で場を清めてご先祖様や精霊を迎えるのに用います。
松明(たいまつ)は迎え火や送り火に用いる材の一つです。
多くの精油を含み、燃えやすく、そしてよい香りを放ちます。
お盆のお供えものとして、色と香を合わせてみました。
広田千悦子
文筆家。日本の行事・室礼研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい教室を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。
写真=広田行正
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