第百一話 「四月 清明 穀雨」
2025.04.04
暮life
散る花とともに
芽吹きや新緑の勢いが増してきて暖かくなりすっかり気も緩んでいたところに急に冬が戻ってまいりました。
風の音も気温が下がれば冬らしい音に。
そうかと思うと数日後には突然、夏に近い気温になったり。激しい変化が続きます。
季節の揺らぎが次第に大きくなっていくように感じる中では気持ちの核になるようなものが、より必要になる時代を迎えているのかもしれません。
それでも変わることなく訪れるのは二十四節気です。
今月は晴明、穀雨へと進んで太陽の強さ、高さがそれを教えてくれています。
光が窓から差し込む時、素肌にその強さを感じる時。
違和感のある寒さや暑さの中でも変わらぬ季節の進み具合を教えてくれることでしょう。
今月は山の神、田の神を迎える行事4月8日の花まつりをはじめとしてさまざまな春らしい行事が続きます。
4月中旬ぐらいからは鎮花祭など、災厄は散る花とともに広がると考えた古の人の考えをもとにした祭事があります。
風に水に桜の花びらが散っていくのはどこか物悲しく、そして美しく。
私たちは魅了され、立ちどまり、時を忘れてしまうところです。
ただ古くはその花びらとともに、悪疫が四方に広がると考えて災いの元と考えた時代がありました。
そうした考えが生まれた理由の一つには古の人々にとっての「花」とはただ美しい装飾としてだけでなく、実りをもたらす前触れ、神聖なありがたいものだという考えがその元にあったということも大きいことでしょう。
土の上での暮らしは不便なことも多いものですが、たとえば雨に潤い、柔らかくなった土の上に立ち風の音や芽吹きを確かめるひとときから生まれる気持ちや、考え方があります。
そういうひとときをいつかみなさんとご一緒できるよう今小さな山のふもとの庭を少しずつ手入れしています。
春山の依代 梶苺
山の神、宿るような梶苺を白瓶子に。
純白の梶苺の花が盛りです。
光のある方へと根を伸ばし天を目指すように高く手を伸ばしている姿は山の力そのもの。
白い瓶子に入れて、春の山の依代に。
野の息吹 木瓜の花
あふれんばかりの木瓜の花一輪と刺のある枝を香合に入れて。
大地からの息吹を吹き出すような花、木瓜は、寒さにも暑さにも意外と強い花。
一輪そばに置くだけで野の力が部屋一杯に広がります。
広田千悦子
文筆家。日本の行事・室礼研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい稽古を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。
写真=広田行正
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