夢の花屋

第一園芸のトップデザイナーが、世界中の絶景や名画、自然現象や物質を花で見立てた、
この世でひとつだけの花をあなたに贈る、夢の花屋の開店です。

第十六話「朝顔図屏風に見立てる」

2023.06.12

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この世にある美しいものを花に見立てたら──
こんな難問に応えるのは、百戦錬磨のトップデザイナー。
そのままでも美しいものを掛け合わせて魅せる、夢の花屋の第十六話は江戸琳派の旗手、鈴木其一(すずききいつ)が描いた「朝顔図屏風」に見立てたアレンジメントです。手掛けるのは第一園芸のトップデザイナーであり、フローリスト日本一にも輝いた新井光史。
ここからは花屋の店先でオーダーした花の出来上がりを待つような気持ちでお楽しみください。

鈴木其一の朝顔図屏風とは

鈴木其一(1796-1858)は江戸後期に斬新で独創的な作品を描いた江戸琳派の絵師です。

琳派*は江戸時代初期に本阿弥光悦や俵屋宗達などによって京都で隆盛した芸術の潮流がはじまりとされ、およそ100年後に宗達に影響を受けた尾形光琳が琳派の様式を確立。更に100年後に宗達や光琳を私淑した酒井抱一(1761~1829)が江戸でその様式を再解釈して花開かせた、私淑による美の系譜です。

その抱一の最初の弟子にあたるのが其一です。その生涯についてははっきりしたことはわかっていないものの18歳ごろから抱一が亡くなるまでのおよそ15年間、抱一の元で修業を積み、やがて抱一が私淑した宗達や光琳の様式を取り入れた作品を描くようになったと考えられています。

今回、見立てのモチーフとなった『朝顔図屏風』(メトロポリタン美術館蔵)は、五十代のころに描かれたと推定される作品で、金地に150輪あまりの紺青の朝顔と緑の葉が大胆に配置されています。その色彩や構図は光琳の「燕子花図屏風」にも通じる其一の代表作です。

*近年になってから光琳の名を冠し「琳派」という呼び名が付けられました。


見立ての舞台裏

作業机の上にあるのはクレマチスだけ。銀色の花器に水を注いで見立てがはじまります。

最初にトクサとシマフトイをざっくりと生けます。

次いでクレマチスを加えていきます。


完成、朝顔図屏風に見立てたアレンジメント

朝顔図屏風に見立てたアレンジメントが完成しました。

「今回は偶然生まれる形を活かしたいと思ったので、あえてスケッチも用意せずに生けました。其一の作品をそのまま写し取るのではなく、琳派の様式の如く『朝顔図屏風』を自分なりに再解釈しています」

「『朝顔図屏風』は金、青、緑、白のたった4色、しかも1種類の花しか描かれていないのに、時間を忘れて眺めてるうちに絵の中に引き込まれてしまうような魅力があります。このシンプルでありながら力強い作品に見立てるために、ほぼ同じ色を使用することにしました」

「そして花は朝顔ではなく、クレマチスを選びました。どちらもつる性植物で花が大きく開き、青が美しい花という共通点があります。真逆にしたのは葉の部分で『朝顔図屏風』は『つる』がメビウスの輪のように画面全体に配置されていますが、自分の見立てでは真っ直ぐな茎が特徴的なトクサと縞模様が美しいシマフトイで線を強調しました」

「花器は金ではなく、あえて銀に。『朝顔図屏風』が陽であるとしたら、この花は陰です。太陽と月のような関係を目指しました」


クレマチスを使ったアレンジメント

今回は種類の異なるクレマチスを使って、先ほどとは表情の異なるアレンジメントも制作しました。

「『朝顔図屏風』の見立てのために金色の板も用意していました。本番では銀色の花器を使いましたが、せっかくなのでこの金が活かせるアレンジも考えてみました」

真鍮の板の上に並べられたのは、歪んだしずくのような大小のガラスの花器。

「ガラスの器の中に見えるのは『つぼ型』のクレマチスです。クレマチスは驚くほど種類があって、先ほど使ったカザグルマのような姿をしたものもあれば、こんな可愛らしいタイプも。花器の形と花の形をリンクさせて、水中で花が美しく見えるようにアレンジしています」

「クレマチスは『つる』が美しいので、小さな花器から湧き出た花やつるが大きな花器に伝わっていくようなイメージに仕上げました。金の板に映り込んだ花や器も含めてひとつの作品になっています」


最後に自宅でも真似しやすいアレンジメントを紹介してもらいました。

「小さな器をいくつかまとめて飾ることで、一気に雰囲気が出ます。ここでは先ほど使用した金色の板を使っていますが、ご自分で楽しむ場合はトレイなどもいいと思います。特に同じ形の器を使うと、生ける花の特徴が際立ちます」

「同じ花材でも一輪の花、一枝の緑といったように、少しずつ分けて飾ってみてください。いままで気づけなかった花の表情が見つけていただけるかもしれません。花材をふんだんに用意して生けた花も素敵ですが、時には少ない本数をじっくり楽しんでみるのも贅沢な花の愛で方だと思います」

今回の花材:クレマチス、トクサ、シマフトイ

第四話「尾形光琳が描いた燕子花に見立てる」に続いて、琳派作品の見立てとした今回のアレンジメントはいかがでしたでしょうか。

先にもご紹介した通り、琳派はその作品への憧れや尊敬によって繋がってきた流派です。
およそ100年ごとに私淑する先達へのオマージュともいえる作品を描く絵師が現れ、派の名もないままに系譜を繋いできました。
鈴木其一も同様で、この『朝顔図屏風』は尾形光琳の燕子花図屏風を再解釈したともとれる作品です。
新井もまた然り。其一が燕子花を朝顔に置き換えたように、新井は朝顔をクレマチスに置き換えました。

花のあしらいは要素が少なければ少ないほど技量が際立ちます。長年の経験と審美眼が活かされたこの花に、琳派の精神と尖り続けるアーティストとしての矜持を垣間見たように思いました。


「夢の花屋」ではトップデザイナーならではの、鋭い観察眼や丁寧な仕事が形になる様子まで含めて、お伝えしていきたいと思っております。
こんな見立てが見てみたい…というご希望がございましたら、ぜひメッセージフォームからお便りをお寄せください。

第十七話予告
次回はシェラー・マースが七月の誕生石「ルビー」に見立てます。
7月14日(金)午前7時に開店予定です。

新井光史 Koji Arai

神戸生まれ。花の生産者としてブラジルへ移住。その後、サンパウロの花屋で働いた経験から、花で表現することの喜びに目覚める。
2008年ジャパンカップ・フラワーデザイン競技会にて優勝、内閣総理大臣賞を受賞し日本一に輝く。2020年Flower Art Awardに保屋松千亜紀(第一園芸)とペアで出場しグランプリを獲得、フランス「アート・フローラル国際コンクール」日本代表となる。2022年FLOWERARTIST EXTENSIONで村上功悦(第一園芸)とペアで出場しグランプリ獲得。
コンペティションのみならず、ウェディングやパーティ装飾、オーダーメイドアレンジメントのご依頼や各種イベントに招致される機会も多く、国内外におけるデモンストレーションやワークショップなど、日本を代表するフラワーデザイナーの一人として、幅広く活動している。
著書に『The Eternal Flower』(StichtingKunstboek)、『花の辞典』『花の本』(雷鳥社)『季節の言葉を表現するフラワーデザイン』(誠文堂新光社)などがある。