第三十六話「サントリーニ島の色彩に見立てる」
2025.06.01
贈gift
この世にある美しいものを花に見立てたら──
こんな難問に応えるのは、百戦錬磨のトップデザイナー。そのままでも美しいものを掛け合わせて魅せるのが夢の花屋です。
第三十六話は「サントリーニ島の色彩」に見立てたブーケ。手掛けるのは第一園芸を代表するデザイナーのひとりである、志村紀子。
ここからは花屋の店先でオーダーした花の出来上がりを待つような気持ちでお楽しみください。
サントリーニ島とは
エーゲ海に浮かぶサントリーニ島は、ギリシャ・キクラデス諸島に位置し、世界中から観光客が訪れる人気のリゾート地です。火山活動によって形成された断崖の上に、白壁と青いドーム屋根の建物が立ち並ぶ風景は、この島を象徴する光景として知られています。
温暖で乾燥した地中海性気候により、年間を通じて晴天の日が多く、特に6月から9月にかけてはほとんど雨が降らず、強い日差しが続きます。建物が白く塗られているのは、その強い日差しを反射し、室内の温度を和らげるための工夫です。青いドーム屋根はギリシャ正教の象徴色であり、また災いを遠ざける色としても伝統的に使われてきました。
こうした白と青の色彩が、エーゲ海や澄んだ空の青と美しく調和し、島全体に独自の統一感と洗練された美しさをもたらしています。さらに、街角にはブーゲンビリアやゼラニウムなど色鮮やかな花々が咲き誇り、風景に華やかさを添えています。建築と自然が織りなすその美しい色彩の調和から、サントリーニ島は「色彩の島」とも呼ばれているのです。
見立ての舞台裏
アトリエには、大ぶりの枝ものやユニークな形の花など、普段のブーケではあまり使われないような花材が数多く並びます。
志村が最初に手に取ったのは、「ヒメウツギ」の大きな枝。ボリューム感のある枝を中心に据えながら、少しずつブーケが組まれていきます。
そこに、サントリーニ島の「青」をイメージした「デルフィニウム」や、鮮やかな「ゴテチャ」が加わり、色の広がりが生まれました。
次々と花が組み込まれて、巨大なブーケが出来上がっていきます。
さらに、「トルコギキョウ」や「カリステモン」、「クレマチス」が加わって、ブーケはより大きく、華やかになっていきます。
アクセントに「ブーゲンビリア」が加わりました。
そして仕上げに「アーティチョーク」を束ねて、重厚感と遊び心のある巨大なブーケが完成に近づきます。
完成、サントリーニ島に見立てたブーケ
サントリーニ島の色彩に見立てたブーケが完成しました。
「私が死ぬまでに行きたい場所のひとつがサントリーニ島です。あの白と青の街に憧れて、この島の色彩をモチーフにブーケを作ろうと思いました。全体におおらかな雰囲気を出したかったので、大きく、ゆったりと束ねています」
「もしサントリーニ島が白と青だけの街だったら、こんなにも憧れのリゾート地にはならなかったかもしれません。街の中に咲くブーゲンビリアの鮮やかさが彩りを添えていて、あの風景をより印象的なものにしていると感じたんです。だからこそ、このブーケにもブーゲンビリアは欠かせませんでした。鉢植えでとてもきれいなものを見つけたので、思い切ってカットして束ねました」
「サントリーニ島で実際に咲いているかはわかりませんが、白壁にクレマチスが這っていたら素敵だなと思って選びました。アーティチョークは地中海沿岸が原産で、古代ギリシャやローマの時代から栽培されていたと聞いて、オマージュのような気持ちで加えました。力強く、ワイルドな雰囲気がブーケ全体のアクセントになってくれたと思います」
今回の花材:ヒメウツギ、カリステモン、デルフィニウム、クレマチス(水面の妖精)、ブーゲンビリア、トルコギキョウ、アーティチョーク、ゴテチャ、アリウム(写真外)
サントリーニ島の色彩に見立てたブーケはいかがでしたでしょうか。
写真からも伝わるように、縦横約1メートルにもなる迫力のあるブーケが仕上がりました。
最初に「サントリーニ島がモチーフ」と聞いたときには、白と青を中心にした配色になるのかと思っていましたが、実際にはフューシャピンクのブーゲンビリアが印象を大きく変えています。
志村の言葉どおり、白と青だけでは生まれない豊かな色彩が加わることで、風景が一気に鮮やかに広がって見える——まさに“色の魔法”です。
また、日本固有種であるヒメウツギをたっぷり使用しているのも、志村ならではの感性と言えます。日本では楚々とした印象の花が、大らかに束ねられることで、まるで乾いた地中海の陽ざしの中で咲き誇っているかのようにも見えます。
大ぶりでのびやか、それでいてリラックス感があり、まるで島の風景をそのままブーケに閉じ込めたような、開放的で魅力的な作品でした。
「夢の花屋」ではトップデザイナーならではの、鋭い観察眼や丁寧な仕事が形になる様子まで含めて、お伝えしていきたいと思っております。
こんな見立てが見てみたい…というご希望がございましたら、ぜひメッセージフォームからお便りをお寄せください。
第三十七話予告
次回は新井光史が登場。7月1日(火)午前7時に開店予定です!
志村紀子 Noriko Shimura
東京生まれ。国内を代表するホテル、外資系大手ラグジュアリーホテルのウェディングやパーティー装花に携わり、帝国ホテルプラザ店で活躍。現在は第一園芸を代表するデザイナーとして、Noriko Shimuraブランドを展開。他にも社内スタッフ教育部門の講師、対外的なワークショップ講師、各種商品提案、空間装飾のデザインなどを担当している。
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