第四十五話 《マリー・アントワネット》に見立てる
2026.03.01
贈gift

この世にある美しいものを花に見立てたら──
こんな難問に応えるのは、百戦錬磨のトップデザイナー。
そのままでも美しいものを掛け合わせて魅せるのが《夢の花屋》です。
第四十五話は、フランス王ルイ16世の王妃「マリー・アントワネット」に見立てたアレンジメント。
手掛けるのは第一園芸を代表するデザイナーのひとりである、《志村紀子》。
ここからは、花屋の店先でオーダーした花の出来上がりを待つような気持ちでお楽しみください。

マリー・アントワネット ─華やかな宮廷文化を象徴したファッションリーダー─
マリー・アントワネット(1755–1793)はオーストリアのハプスブルク家に生まれ、14歳でフランス王太子ルイ(後のルイ16世)に嫁ぎ、のちに王妃となりました。
宮廷儀礼に縛られる生活に戸惑いながらも、その華やかな美しさから注目を集め、18世紀フランス宮廷文化の象徴として存在感を放った人物です。
特に知られているのが、当時の流行を左右したファッションリーダーとしての側面です。
豪奢なドレスの選定や色使いにこだわり、宮廷の女性たちの装いへ大きな影響を与えました。
中でも象徴的なのが、高さが60センチを超えることもあった巨大なヘアスタイル「プーフ」。
羽根やリボン、宝石、さらには模型まで飾りつけた独創的な造形は、アントワネットの美意識と当時の宮廷文化の華麗さをそのまま表しています。
また、アントワネットは花をこよなく愛したことでも知られ、特にバラは彼女を象徴する花として親しまれてきました。
1779年の書簡では“無数のバラの品種”を育てていると母・マリア・テレジアに報告し、1784年にはヴェルサイユ庭園の小離宮プチ・トリアノンに、ドッグ・ローズを2000株以上植えるよう命じた記録も残っています。その美意識は後世にも受け継がれ、映画やマンガなど、さまざまな表現の中でモチーフとして描かれ続けてきました。
見立ての舞台裏

このアレンジメントのために、用意された花材の数々。
アントワネットが好んだバラを中心に、淡いトーンの花々が揃いました。

アレンジメントの土台になるのが、サンゴをイメージして作られた花器です。
いくつもの挿し口があるこの花器や、給水スポンジを使って、大きなアレンジメントを作っていきます。

こちらは『ローブドゥアントワネット』というパンジー。
名前とアントワネットのドレスを連想させる優雅でユニークな姿から、志村が本作のためにどうしても使用したかった花材です。

花を次々に挿していきます。ひも状の花材は染めた『アマランサス』。
志村は染色した花材も積極的に使い、独自の世界観を構築しています。

今回は微妙な色合いが美しい、ピンクのバラが何種類も用意されました。
こちらは幾重にも重なる花弁が丸いシルエットをつくる、『ココット』というカップ咲きの品種。

香りが素晴らしいバラ、『イヴペーシュ』も加わり、周囲が花の香りで満ち溢れています。

プチトリアノンにはチューリップも植えられていたとか。
そうした意味も込めて、『ジャグジー』という、淡い紫のチューリップが加わります。

チューリップはそのままの姿ではなく、志村は花を一輪ずつていねいに開きました。
すると、隠れていた内側の模様が現れ、まるで違う花のような姿に。

徐々に花器が花で隠れていきます。完成ももう間近。
完成、マリー・アントワネットに見立てたアレンジメント

「春のはじまりは、花の種類がたくさん出回りますので、この時季ならではの花を使った作品を作りたいと思いました。
そこで思いついたのが『マリー・アントワネット』です。同名の映画で、パステルカラーが印象的だったこともあり、淡いピンクの花を主役にしたデザインにしました」

「アントワネットの時代には、模型の船を飾るなど大胆で遊び心あふれるヘアスタイルが流行していたといいます。そうしたロココ特有の風潮をイメージして、シルエットを円錐形に仕立てました」

「今回はさまざまな花を使用していますが、ぜひご覧いただきたいのが『チューリップ』です。通常は卵型の姿を楽しむ花ですが、内側には思いがけない表情が隠れています。そこであえて花を開き、その個性的な模様を際立たせることで、アレンジ全体の不思議なアクセントにしました。
さらに、羽のように軽やかで鮮やかなピンクのドライフラワー『スティファ』を添えて、アントワネットらしい華やいだ雰囲気をほんのりと演出しています」

「朝焼けのような色を帯びたダリアを加えました。アントワネットが生きた時代のフランスには、まだこの花は存在していませんでしたが、のちにナポレオンの皇后となったジョセフィーヌが、当時とても珍しかったダリアを好み、多くの品種を育てたことで知られています。
もしダリアがもう少し早くフランスに伝わっていたなら、アントワネットもきっと心惹かれていたのでは──。そんな想像を重ねながら添えた一輪です」

「最後にひと枝だけ、クレマチスを添えました。
今回使った、華やかな花の中で、素朴な印象のクレマチスを加えたのは、アントワネットの美意識を反映したプチ・トリアノンのイメージです。
自然豊かな、田園風の雰囲気を好んだアントワネットの”本心”のようなものを、この一枝で表現しました」

今回の花材:バラ、チューリップ、ダリア、ラナンキュラス、デルフィニウム、アスチルベ、パンジー、アジサイ、スイートピー、クレマチス など
ベルサイユの壮麗さをまといながら、プチ・トリアノンの素朴な自然を愛したアントワネット──。
その二面性に寄り添うように、志村は現代に咲くさまざまな花々を重ね、“いま”のロココを描きました。
円錐形に立ち上がるシルエットはプーフへ、開いたチューリップはドレスの文様のように。
羽根のような素材や染めた花材がロココの華やぎをそっと際立たせ、一枝のクレマチスがアントワネットの内面に宿る静けさを結んでいます。
華やぎと素朴、歴史と現在。
そのすべてをひとつのアレンジメントに受け止めることで、マリー・アントワネットの美の世界は、生命力を帯びた“いま”の物語へと姿を変えました。
本当の贅沢とは──時代を超えた問いかけが聞こえてくるような、アレンジメントです。
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第四十話 《トルコの色彩》に見立てる
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【夢の花屋】「トルコの色彩」ブーケ
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「夢の花屋」ではトップデザイナーならではの、鋭い観察眼や丁寧な仕事が形になる様子まで含めて、お伝えしていきたいと思っております。
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第四十六話予告
次回は新井光史が登場。4月1日(水)午前7時に開店予定です!

志村紀子 Noriko Shimura
東京生まれ。国内を代表するホテル、外資系大手ラグジュアリーホテルのウェディングやパーティー装花に携わり、帝国ホテルプラザ店で活躍。現在は第一園芸を代表するデザイナーとして、Noriko Shimuraブランドを展開。他にも社内スタッフ教育部門の講師、対外的なワークショップ講師、各種商品提案、空間装飾のデザインなどを担当している。
Text・Photo 第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子
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