第四十七話《パラオのジェリーフィッシュレイク》に見立てる
2026.05.01
贈gift

この世にある美しいものを花に見立てたら──
こんな難問に応えるのは、百戦錬磨のトップデザイナー。
そのままでも美しいものを掛け合わせて魅せるのが《夢の花屋》です。
第四十七話は、太平洋に浮かぶパラオ共和国にある「ジェリーフィッシュレイク」に見立てたアレンジメント。
手掛けるのは第一園芸を代表するデザイナーのひとり、《志村紀子》。
ここからは、花屋の店先でオーダーした花の出来上がりを待つような気持ちで、お楽しみください。


ジェリーフィッシュレイク ──森に囲まれ、クラゲと光が共存する不思議な湖──
南太平洋に浮かぶ、無数の島々からなる国、パラオ。
日本からは直行便でおよそ5時間。意外なほど身近な場所にある、手つかずの自然に育まれた楽園です。
その南西部に広がる「ロックアイランド」は、石灰岩が長い年月をかけて侵食されることで生まれた、無数の島々からなる景観です。海と森が溶け合うように連なる島々は、ここにしかない独特の自然環境を形づくり、2012年には「ロックアイランド群と南ラグーン」として、ユネスコの世界遺産にも登録されました。
そのロックアイランドのひとつ、マカラカル島の内部に、ジェリーフィッシュレイクがあります。
もこもことした緑の熱帯林に囲まれたこの湖は、外海とは地中でわずかにつながるだけの、ほとんど閉じられた塩水湖です。長い時間に守られながら、この場所ならではの静かな生態系が、ゆっくりと育まれてきました。
湖を満たしているのは、タコクラゲの仲間とされる、無数のゴールデンジェリーフィッシュ。外敵のいない環境で進化するうちに毒性を弱め、人を刺さなくなった、少し不思議なクラゲたちです。そのためこの湖は、クラゲの群れの中へ入ることができる、特別なシュノーケリングスポットとしても知られています。
太陽の動きに合わせ、群れになって湖の中を移動するクラゲたち。その姿は光に呼応するように揺れ、水の中に幻想的な景色を描き出します。それは、時間そのものが漂っているかのようにも感じられる光景です。
森に守られた湖。その内側で、ゆるやかに呼吸する命。
そして光とともに流れていく、静かな時間。
ジェリーフィッシュレイクは、ただ眺める風景ではなく、その中に身を置くことで、静けさとひとつになるような感覚を、そっと思い出させてくれる場所なのかもしれません。
見立ての舞台裏

今回用意されたのは、青々とした植物たち。
中央にある、緑色のかたまりがアレンジメントの土台になります。

今回用意された花材は『ケール』『グリーンベル』『ガルガ フォレスティ』『ビバーナム』『フリチラリア ペルシカ』の5種。
いずれも個性の異なる花材を組み合わせ、ジェリーフィッシュレイクに見立てていきます。
志村紀子が花で見立てた《ジェリーフィッシュレイク》

「新緑の季節ということもあり、今回は全体をグリーンでまとめたアレンジメントにしたいと考えました。ただ、緑一色だと単調になりがちなので、あえて個性の強い花材を絞りこんで、使用しています」

「花材を検討する中で、グリーンベルの姿がクラゲに重なり《ジェリーフィッシュレイク》に見立てることを決めました」

「湖を囲むパラオの熱帯林はケールで表現しています。こちらは観賞用のケールで、野菜として売られているよりも丈が長いのが特徴です。
葉のフリルが、青い海に浮かぶ小島のイメージにつながりました」

「鮮やかなイエローグリーンのビバーナムも、花のシルエットが小島のように見えます。さまざまな形が混ざり合う様子が、無数に点在するパラオの島々と重なり、楽しみながら制作しました」

「花の市場で初めて見かけて、思わず手に取ったのが『ガルガ フォレスティ』という植物です。遠目にはスモークツリーのようですが、まったく異なる植物のようで。
細かな枝先についた小花がクラゲや泡のように見え、全体を包み込むような役割で加えました」

「フリチラリア ペルシカは、鈴なりに付いたひとつひとつの花や、その中の蕊(しべ)の姿がクラゲのようだったので、アクセントとして使っています。
水面へと立ち上っていくような姿も、ジェリーフィッシュレイクのイメージにつながっています」

パラオの美しい景色の中で、無数のクラゲが静かに漂う、ひときわ幻想的な風景。
それが、ジェリーフィッシュレイクです。
森に囲まれた湖、光に揺れる群れ、静かに流れていく時間。
その情景に思いを巡らせながら、クラゲと植物のかたちや動き、重なり合う気配を手がかりに、ひとつのイメージが花として組み立てられていきました。
出来上がったアレンジメントは、実在の湖を写したものではありません。
遠くの景色を想像しながら、花を通して出会う、もうひとつのジェリーフィッシュレイクです。
《夢の花屋》でご紹介している志村紀子の作品
第四十五話 《マリー・アントワネット》に見立てる
第四十二話 《フラメンコ》に見立てる
第四十話 《トルコの色彩》に見立てる
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【夢の花屋】「トルコの色彩」ブーケ
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「夢の花屋」ではトップデザイナーならではの、鋭い観察眼や丁寧な仕事が形になる様子まで含めて、お伝えしていきたいと思っております。
こんな見立てが見てみたい……というご希望がございましたら、ぜひメッセージフォームからお便りをお寄せください。
第四十八話予告
次回は新井光史が登場。6月1日(月)午前7時に開店予定です!

志村紀子 Noriko Shimura
東京生まれ。国内を代表するホテル、外資系大手ラグジュアリーホテルのウェディングやパーティー装花に携わり、帝国ホテルプラザ店で活躍。現在は第一園芸を代表するデザイナーとして、Noriko Shimuraブランドを展開。他にも社内スタッフ教育部門の講師、対外的なワークショップ講師、各種商品提案、空間装飾のデザインなどを担当している。
Text・Photo 第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子
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