二十四節気の花絵

イラストレーターの
水上多摩江さんが花毎のために描いた、
二十四節気の花々

第八十一話 芒種の花絵「梔子」

2021.06.05

life


2021年6月5日から二十四節気は「芒種(ぼうしゅ)」に

梅雨入り間近で田植えの開始を告げる時です。
それを表すように芒種の「芒」とは「のぎ」とも読み、稲や麦などイネ科の植物の先端にあるトゲ状の突起を意味します。
また、芒種は穀雨と共に二十四節気の中で二つだけある農事に属した節気であり、穀雨(毎年4月20日ごろ)が田畑を潤す雨が降る時季を表し、そこから約6週間後の芒種には大地が栄養に満ちて、前出の「芒」のある植物の植え時になることを古の人々は後世に伝えるために節気に表しました。


「梔子(クチナシ)」

□開花時期:6月~7月
□香り:あり
□学名:Gardenia jasminoides
□分類:アカネ科クチナシ属
□和名:山梔子(サンシ)、梔子(クチナシ)
□英名:Gardenia、Cape jasmine
□原産地:東アジア、日本

甘い香りが初夏の到来を告げる花です。

香木
香り高さからクチナシは「三大香木」や「四大香木」に選ばれています。
また、中国では「七香」という香りの良い植物の一つであり、文人画の画題とされています。

三大香木:沈丁花(春)、梔子(夏)、金木犀(秋)
四大香木:沈丁花(春)、梔子(夏)、金木犀(秋)、蠟梅(ロウバイ)(冬)
七香:梅、百合、菊(蘭の場合も有)、桂花(金木犀)、茉莉(マツリカ)、水仙、梔子

名前の由来
和名のクチナシは熟しても実が割れないことから「口無し」の名がついたとされますが、英名のガーデニアは、アメリカ在住の医師であり動植物学者のアレクサンダー・ガーデンに由来します。
東洋からヨーロッパにこの花が持ち込まれた時、新種だという説とジャスミンの仲間であるという説で論争が起こり、命名が難航しましたが、植物学の功労者でありながらも植物名にその名を残したことがなかったガーデンの名が選ばれたとのこと。
ちなみに、ジャスミンの仲間であったという説は〈jasminoides(ヤスノミイデス)=ジャスミンに似た〉という学名に残されています。

タヒチの花
梔子の仲間である「ティアレ・タヒチ」(英名ではタヒチアン・ガーデニア)はフランス領ポリネシアの国花。
タヒチに滞在して数々の作品を残したゴーギャンの作品にもこの花を耳に挿した女性が描かれていますが、現在のタヒチでも女性は花開いたティアレを、男性はつぼみのティアレを習慣として耳に挿しています。

天然の着色料
初冬の時季になるとクチナシに実がつきます。この実をシワが出るまで乾かしたものが、年末にスーパーなどで売られるクチナシの実です。割って煮出すと鮮やかな黄色になり、お節料理の栗きんとんを色鮮やかに仕上げるために使われます。
また、古来より草木染めの材料でもあり、前出の通り黄色はもちろんですが、発酵処理をすることで美しい青色にも染めることができるそうです。
ちなみに大型の花で八重咲きのオオヤエクチナシ(別名ヤエクチナシ)には実がつきません。


花毎の花言葉・梔子「甘い記憶」

梔子の香りが漂ってくると、この花の名すら知らなかった幼いころの記憶がよみがえります。
半そでの服を着始めるころ、外に出るとどこからともなく漂ってくるお菓子のような甘い香りに導かれるように辿っていくと、満天の星のように咲く純白の花が現れて、思わず息をのみました。
この香りを全部自分のものにしたくて、花を摘んでしまいたくなるのですが、よく見てみれば、開き切った花の多くに薄茶色の傷がついていることに気付いて、見てはいけないものを見てしまったような、魅力あるものの代償を知ってしまった気がしたものです。
それでも大人になると都合よく記憶を書き換え、記憶の中にある梔子はどこまでも純白で、美しくてよい香りのする花のままなのです。

文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子

水上多摩江

イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 琵琶湖の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など