第四十二話「フラメンコに見立てる」
2025.12.01
贈gift

この世にある美しいものを花に見立てたら──
こんな難問に応えるのは、百戦錬磨のトップデザイナー。
そのままでも美しいものを掛け合わせて魅せるのが《夢の花屋》です。
第四十二話は「フラメンコ」に見立てたブーケ。
手掛けるのは第一園芸を代表するデザイナーのひとりである、《志村紀子》。
ここからは、花屋の店先でオーダーした花の出来上がりを待つような気持ちでお楽しみください。

フラメンコとは
フラメンコの起源は明確には特定されていませんが、15世紀(1400年代)にロマ(ジプシー)がスペインに到来した時期がひとつの起点とされてます。
当時のアンダルシア地方には、アラブ系・ユダヤ系・カスティーリャ系など多様な音楽文化が並存しており、そこにロマの歌唱やリズムが加わることで、徐々に固有の表現が形づくられました。
19世紀(1800年代)になると、アンダルシア各地の酒場や地域で現在に近い形式の歌と舞が自然発生的に広まり、地域文化に根ざした芸能として確立していきます。複数の文化が重なり合い、長い時間を経て磨かれた複合的な芸能である価値が評価され、フラメンコは2010年にユネスコ無形文化遺産に登録されました。
衣装に多用される赤と黒には、土地の色彩と舞台での実用性が関わっています。
赤はアンダルシアの強い日差しのもとで鮮明に映え、暗い舞台でも動きを捉えやすい色として重宝されてきました。黒はロマの伝統的な装いで重要な色とされ、威厳や品格を帯び、刺繍やレースなどの細工を引き立てる背景として適しています。
また、衣装のフリルは、単なる装飾というより、動きを視覚的に強調するための構造的な要素です。多層の布が揺れることで、腕や裾の軌跡が明確に見え、舞台上での立体感やメリハリを生み出します。アンダルシアの衣服文化を踏まえつつ、踊りの表現を補うために発展した特徴的な意匠です。
見立ての舞台裏

今回はブーケを制作。テーマにあわせて志村が選んだ花材は、2種類の大輪のバラ「エバーレッド」と「フリーダム」、そして「アンスリュームの葉」です。

黒光りしているのがアンスリュームの葉。このブーケのために、もとは緑色だった葉を塗装して黒く仕上げています。

黒く塗られたアンスリュームの茎にワイヤーを固定し、フローラルテープを巻いて、自在に形が動かせるように準備します。

こちらはバラの花弁を使ったパーツを作成している様子です。

花弁を少しずつ重ね、ワイヤーでつなげていきます。

バラに花弁を足して、より大きな輪にしたものを束ねていきます。

バラの形が整ったところでアンスリュームの葉を添え、ブーケを完成させていきます。
完成、フラメンコに見立てたブーケ

「年末ということもあり、赤いバラを使った真紅のブーケを作りたいと思いました。そこで思いついたのが〈フラメンコ〉です。
フラメンコの情熱的な雰囲気を、真紅のバラで表現しました。幾重にも重ねたバラの花弁はドレスの裾に重ねたフリルをイメージしています」

「赤には黒を添えたいと思いました。濃厚な雰囲気のバラをサポートする黒い花材が見つからなかったので、葉の形が美しいアンスリュームを黒く塗ることにしたのです。
そうしたところ、エナメルのように艶やかな質感になり、狙った通りのアクセントが生まれました」

「不規則にバラの花弁をつなげたものを、束ねたバラの花から足元にかけて、流れ出るように、巻き付けています。これはフラメンコ特有のひねった身体と、腕の動きを表しました」

フラメンコは、異なる文化が交錯し、長い時間をかけて育まれた芸術です。その情熱と力強さは、赤と黒の衣装、揺れるフリル、舞台での躍動に象徴されます。
今回のブーケは、その世界観を花で再構築したもの。真紅のバラは情熱を、重ねた花弁はドレスのフリルを、黒く塗ったアンスリュームは舞台の陰影を表現しています。さらに、流れるように配した花弁のラインは、踊り手のしなやかな腕の動きを思わせます。
文化と美意識を花に映し込むことで、フラメンコの奥深さを視覚化した花束──その背景にある物語を感じていただければ幸いです。
《夢の花屋》でご紹介している志村紀子の作品
第四十話「トルコの色彩に見立てる」
第三十八話 バンコクの色彩に見立てる
第三十六話 サントリーニ島の色彩に見立てる
「夢の花屋」ではトップデザイナーならではの、鋭い観察眼や丁寧な仕事が形になる様子まで含めて、お伝えしていきたいと思っております。
こんな見立てが見てみたい……というご希望がございましたら、ぜひメッセージフォームからお便りをお寄せください。
第四十三話予告
2026年の第一弾は新井光史が登場。新春1月1日(木)午前7時に開店予定です!

志村紀子 Noriko Shimura
東京生まれ。国内を代表するホテル、外資系大手ラグジュアリーホテルのウェディングやパーティー装花に携わり、帝国ホテルプラザ店で活躍。現在は第一園芸を代表するデザイナーとして、Noriko Shimuraブランドを展開。他にも社内スタッフ教育部門の講師、対外的なワークショップ講師、各種商品提案、空間装飾のデザインなどを担当している。
Text・Photo 第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子
- 花毎TOP
- 贈 gift
- 夢の花屋



