第四十話「トルコの色彩に見立てる」
2025.10.01
贈gift

この世にある美しいものを花に見立てたら──
こんな難問に応えるのは、百戦錬磨のトップデザイナー。
そのままでも美しいものを掛け合わせて魅せるのが《夢の花屋》です。
第四十話は「トルコの色彩」に見立てたアレンジメント。
手掛けるのは第一園芸を代表するデザイナーのひとりである、《志村紀子》。
ここからは、花屋の店先でオーダーした花の出来上がりを待つような気持ちでお楽しみください。

トルコの色彩
トルコの色彩を象徴するもののひとつに、モスクのタイル装飾があります。
ブルーモスクやスレイマニエ・モスクなど、荘厳な建築の内部を彩るのは、幾何学や植物をモチーフとした細密な文様のタイルです。
なかでも16世紀以降に広く用いられた“イズニックタイル”は、藍や赤、緑などの澄んだ色彩が特徴で、空間にやわらかな抑制や均衡を感じさせます。
繰り返しのパターンや花文様には、祈りや調和、永遠性への願いが込められており、見る人の意識を静かに広げていきます。
こうした意匠の緻密さには、トルコという土地がアジアとヨーロッパの文化を受け継ぎ、混じり合いながら発展してきた歴史が映し出されています。
東洋の装飾性と西洋の構成美が交差する表現の豊かさは、この国ならではの美意識といえるでしょう。
また、陶器や日用品、さらには絨毯や織物の中にも、花や蔓のモチーフが繰り返し登場します。装飾は単なる美しさにとどまらず、暮らしの中に文化の記憶をとどめる役割を果たしてきました。
今回の《夢の花屋》では、こうしたトルコの色彩や文様の世界を花で見立てたアレンジメントを制作します。“色に宿る物語”を感じていただければと思います。
見立ての舞台裏

鮮やかな色と落ち着いた色、両方の花々が用意されました。
どの花も、トルコの文様に描かれているような雰囲気を持っています。

特に今回は、「スターチス」「アスター・ステラトップブルー」「グラジオラス・ミルカ」など、淡い紫の花が多く用意されました。

今回制作するのは直径40cmの大型リース。
最初に「アイビー」と「フウセントウワタ」を挿していきます。
今回は撮影用ということもあり、給水スポンジはリユースしたものを使用しているため、たくさんの穴が開いています。

続いて、淡い紫が美しい「グラジオラス・ミルカ」が加わりました。
縦に花が付くグラジオラスは、通常であれば全体のシルエットを活かして使用することが多いですが、ここでは花を一輪ずつ挿していきます。

細く尖った花弁が特徴の「ガーベラ・ともしび」を加えていきます。

今回のテーマを象徴するような「カーネーション・ユカリグリーン」が入り、完成はもう間近です。
完成、トルコの色彩に見立てたリース

「トルコの連続する模様や、独特の色彩を花で表現しました。でも、モザイクタイルのようにきっちりした形は私らしくないと思ったので、そこは緩やかに捉えて、連続を意味するリースの形にしています」

「トルコといえばブルーモスクのイメージが強く、青の印象がありますが、私はあえて違う色の花を選びました。イズニックタイルを調べてみたところ、青以外にもたくさんの色が使われていて、その美しさにとてもひかれました」

「そこで、イズニックタイルに使われていた色や花の形を再構築してみようと思いました。トルコの文様によく使われているカーネーションは必ず入れようと決めていましたが、一般的な色ではなく、タイルの色にも使われていたターコイズグリーンの『ユカリグリーン』を選びました」

「尖った花弁の花は、チューリップが代表的ですが、ここではスパイダー咲きのガーベラを使っています。シルエットが『フウセントウワタ』に似た文様があり、これも加えています」

「クラスター状に花弁が並んだ花も文様としてよく描かれていますので、『ジニア』や『スカビオサ』も加えました」

今回の花材:モナルダ・プンクタータ、バラ・ロマンティックアンティーク、ジニア・ジャジー、ジニア・クイーンライムオレンジ、赤葉千日紅、ガーベラ・ともしび、グラジオラス・ミルカ、タンジー、フウセントウワタ、カーネーション・ユカリグリーン
(その他)アスター・ステラトップブルー、ワックスフラワー・ティンテッドライトブルー、スカビオサ・アンダルシア、アマランサス・ホットビスケット、スターチス

トルコの色彩に見立てたアレンジメントはいかがでしたか。
イズニックタイルに代表されるトルコの文様には、実にさまざまな植物が描かれています。
東西の文化が交じり合う場所であったトルコ(オスマン帝国)は、チューリップを筆頭に、バラやヒヤシンスなどが大きな発展を遂げました。
こうした植物の美しさが、文様や装飾に昇華され、今もなお人々の暮らしの中に息づいています。
《夢の花屋》でご紹介している志村紀子の作品
第三十八話 バンコクの色彩に見立てる
第三十六話 サントリーニ島の色彩に見立てる
「夢の花屋」ではトップデザイナーならではの、鋭い観察眼や丁寧な仕事が形になる様子まで含めて、お伝えしていきたいと思っております。
こんな見立てが見てみたい……というご希望がございましたら、ぜひメッセージフォームからお便りをお寄せください。
第四十一話予告
次回は新井光史が登場。11月1日(土)午前7時に開店予定です!

志村紀子 Noriko Shimura
東京生まれ。国内を代表するホテル、外資系大手ラグジュアリーホテルのウェディングやパーティー装花に携わり、帝国ホテルプラザ店で活躍。現在は第一園芸を代表するデザイナーとして、Noriko Shimuraブランドを展開。他にも社内スタッフ教育部門の講師、対外的なワークショップ講師、各種商品提案、空間装飾のデザインなどを担当している。
Text・Photo 第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子
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