第九十八話 小雪の花絵「モミ」
2022.11.22
暮life
2022年11月22日から二十四節気は「小雪」に
小雪(しょうせつ)とは、寒さが増して雨が雪に変わり、小雪がちらつくころを表した節気です。
しかしながら、南北に細長い日本ではこの時季、北海道は雪の季節が始まり、沖縄はまだ夏日の日もあるといった様子。そのため地域によっては暦の季節感を実感しづらい節気かもしれません。
ちなみに小雪は気象用語でもあり、気象庁の雪の強さに関する用語では、小雪(こゆき)と読み「数時間降り続いても降水量として1mmに達しない雪」とされています。
自然の中で最も雅なものを表した「雪月花」や、雪の別名「不香花/不香の花(ふきょうのはな)」など、雪に関する言葉は抒情を掻き立てる表現が多く、いにしえの人々も雪に特別な想いを抱いていたことが推し量られます。
「モミ」
□香り:あり
□学名:Abies firma
□分類:マツ科 モミ属
□和名:樅木、樅
□別名:モミソ、サナギ、オミノキ、モムノキ
□英名:Fir、Japanese fir
□原産地:日本(日本固有種)
「モミ」と「トウヒ」
モミ属は北半球の寒冷地から温帯にかけて約40種、日本には5種類(モミ、ウラジロモミ、オオシラビソ、シラビソ、トドマツ)が自生する常緑高木です。
クリスマスツリーといえば「モミの木」ですが、この「モミ」とはクリスマスツリーの総称として使われているだけで、本来の「モミ」はモミ属の一種を指します。
現在、各地でクリスマスツリーとして用いられる木は、日本では「ウラジロモミ」、ヨーロッパでは「ドイツトウヒ」が主流です。
モミやトウヒの類は姿が似ていますが、見分け方は球果*の付き方にあり、モミ属は上向きに、トウヒ属は下向きに球果を付けます。しかし、モミの球果は熟すと木の上でバラバラに分解して落下するので、他の球果のように塊の状態で見つけることは難しいようです。
*きゅうか:松笠(まつかさ)に代表される針葉樹だけにできる果実の総称
神聖な木
クリスマスツリーとして用いられる以前から、モミの類は世界中で神聖な木とされていました。日本ではモミが大木になることから信仰の対象として「臣木(おみのき)」と呼ばれ、それが転じて「モミの木」の語源となったという説*もあります。
また、モミやトウヒなどの常緑樹は一年中緑の葉を茂らすことから永遠の命の象徴とされ、世界各地で常緑樹を信仰する風習があるようです。
*風にもみ合う様子の「揉む」が転じた説などもあります
クリスマスツリーの歴史
クリスマスにツリーを飾る習慣は、樫の丸太を燃やし豊穣を祈る、古代ゲルマン民族の冬至祭「ユール」が起源と言われています。
時代を経てモミやトウヒがクリスマスツリーになった経緯には諸説ありますが、飾り付けを行ったのは15世紀のドイツで始まったという説が一般的です。
クリスマスオーナメント(飾り)にはそれぞれ意味があり、ツリーの先端に飾る「トップスター」はキリストの誕生を知らせた「希望の星」、ボールの飾りはエデンの園にあるリンゴの象徴とされています。
また、今では冬の風物詩となったイルミネーションのルーツは、歴史の教科書でおなじみの、マルティン・ルターが夜の礼拝の帰りに森の中で見た、木の間から輝く星空に感銘を受け、ツリーにロウソクを灯したことがはじまりと言われています。その後、エジソンが1880年に白熱球を完成させ、それを販売するためのプロモーションとしてツリーに飾ったことで、電球で飾られたクリスマスツリーが大人気になりました。
花毎の花言葉・モミ「願い」
モミの一般的な花言葉は向上、時間、永遠などです。
「向上」は高くそびえていることから、「時間」は樹齢の長さを、「永遠」は常緑であることから付けられたと考えられます。洋の東西を問わず、信仰や尊敬の対象として崇められてきたことが伝わる花言葉です。
現代ではモミが持つ神聖な意味は薄れているようにも感じますが、小雪のころから目につくようになるツリーに、時の経つ早さを感じ、来る年を思いはじめるのではないでしょうか。
さまざまな気持ちが交錯する一年の終わりに、神聖なモミに、来る年へのさまざま願いを込めて「願い」という花毎の花言葉を託したいと思います。
文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子
水上多摩江
イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など
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