第四十三話 《洛中洛外図》に見立てる
2026.01.01
贈gift

この世にある美しいものを花に見立てたら──
こんな難問に応えるのは、百戦錬磨のトップデザイナー。そのままでも美しいものを掛け合わせて、新たな魅力を引き出す――それが夢の花屋です。
第四十三話は京都の町を俯瞰で描いた《洛中洛外図》に見立てたアレンジメント。手掛けるのは第一園芸のトップデザイナーであり、フローリスト日本一にも輝いた新井光史。
ここからは花屋の店先で花束の仕上がりを待つような、わくわくした気持ちでお楽しみください。


洛中洛外図屏風│作者不明│1629年頃│バーク・コレクション(Burke Collection)│メトロポリタン美術館蔵
《洛中洛外図》とは
洛中洛外図は、室町時代に生まれ、安土桃山時代に大きく花開き、江戸時代を通して描き継がれてきた、京都の町を俯瞰で描いた屏風絵です。御所や寺、町家、道や川、そして人々の暮らしや行事の様子が、一枚の中に収められています。描かれているのは特別な出来事ではなく、その時代を生きる都の日常そのものでした。
この絵が描かれ始めた背景には、戦乱を経て、少しずつ日常を取り戻していく京都の姿があります。壊れた町が整い、人が戻り、祭りや年中行事が再び行われるようになる。そんな動き出した都の空気を、上から静かに見渡すように描いたのが洛中洛外図です。
現在、洛中洛外図屏風は70点以上が残っていますが、どれも同じ表情をしているわけではありません。時代や目的の違いに加え、さまざまな絵師によって描かれてきたことも、その多様さにつながっています。御所や大寺院を大きく描き、秩序ある都の姿を強調した作品もあれば、商いの声や人の往来が聞こえてきそうな、にぎやかな町の様子に目を向けた作品もあります。同じ京都でありながら、描き手の視線によって、町の表情は大きく変わるのです。
画面に多く用いられる金色の雲も、見逃せない要素です。これは空に浮かぶ雲ではなく、省略と装飾を兼ね備えた、絵をまとめるための工夫です。すべてを描ききらず、あえて一部を雲で隠すことで、描き手の意図が際立ち、鑑賞者の想像力も自然とかき立てられます。
こうした考え方は、現代の美術にも受け継がれています。山口晃は、洛中洛外図の構造を用いて、現代の都市や社会を描いています。もし今の時代にこの形式で都市を描いたら、という発想から生まれた試みです。一方、村上隆は、金地や屏風といった様式そのものを引用し、現代の文化と重ね合わせています。山口が油彩画を、村上が日本画を学んでいたという背景も、こうしたアプローチの違いにそれぞれの個性として表れているのかもしれません。
洛中洛外図は、昔の京都を写した一枚の記録というより、町を広く眺め、人の営みのきらめきをすくい上げた絵画です。多くの絵師の視線を通して重ね描きされてきた都の姿が、今もなお画面の中から立ち上がってくる。そうした時間の重なりを伝える、生き生きとした文化のクロニクルと言えるでしょう。
新井光史が花で見立てた《洛中洛外図》

「新年の公開ということで、賑々しい見立てを、と思い、金が多用され、楽しげな町の様子が感じられる《洛中洛外図》を選びました」

「花材は新春らしく、〈松〉と〈マム(菊)〉、そして〈仏手柑(ぶっしゅかん)〉を使っています。金の雲はひとつひとつ、雲型に切った台座に金色の紙を貼って作っています」

「今回はさまざまな種類のマムで、雲の間から見える町の人々を表現しています。マムはお正月の花材としてもよく使われる縁起のよい花ということもあり、最初からマムを使おうと決めていました。色や形の種類も豊富なので、洛中洛外図に描かれている建物や人をうまく表せたのではないかと思っています」

「“手”のような形をしているのが仏手柑です。仏さまの手に見立ててこの名前が付けられたようで、お正月の飾りとして使われることも多い縁起物です。
今回のアレンジメントは全体的に金色の色調を意識していることもあり、縁起のよいアクセントとして加えました」

「さらに賑々しくしたくて、金色の水引を加えました。水引には人と人を結ぶという意味が込められているそうで、この水引が全体をひとつの絵のようにまとめてくれました」

今回の花材:松、仏手柑、マム(トロピカーナ、クチュールブラッシュ、チスパ)、スプレーマム(パーペッタレッド、カリメロシャイニー、古都のしぐれ)
洛中洛外図は、京都という町を上から見渡し、人々の暮らしや営みを一枚に収めた絵画です。その視点や構成は、時代を超えて受け継がれ、現代の美術や表現にもつながっています。
今回のアレンジメントでは、金色の雲や町のにぎわいを、花という素材で丁寧に置き換えることで、絵の中に広がる時間や祝祭感が立体的に表現されました。
新しい年の始まりに、都を見渡すような視線で花を眺める。そんなひとときを、夢の花屋からお届けします。
《夢の花屋》でご紹介している新井光史が名画に見立てた作品
第四十一話 ルネ・マグリットの《空白の署名》に見立てる
第三十九話 アンリ・ルソーの《夢》に見立てる
第三十七話 アングルの《泉》に見立てる
「夢の花屋」ではトップデザイナーならではの、鋭い観察眼や丁寧な仕事が形になる様子まで含めて、お伝えしていきたいと思っております。
こんな見立てが見てみたい…というご希望がございましたら、ぜひメッセージフォームからお便りをお寄せください。
第四十四話予告
次回は再び新井光史が登場します。2月1日(日)午前7時に開店予定です。

新井光史 Koji Arai
神戸生まれ。花の生産者としてブラジルへ移住。その後、サンパウロの花屋で働いた経験から、花で表現することの喜びに目覚める。 2008年ジャパンカップ・フラワーデザイン競技会にて優勝、内閣総理大臣賞を受賞し日本一に輝く。2020年Flower Art Awardに保屋松千亜紀(第一園芸)とペアで出場しグランプリを獲得、フランス「アート・フローラル国際コンクール」日本代表となる。2022年FLOWERARTIST EXTENSIONで村上功悦(第一園芸)とペアで出場しグランプリ獲得。2025年3月に行われたFlower Art Award2025でも川口太聞(第一園芸)とペアで出場しグランプリを獲得した。 コンペティションのみならず、ウェディングやパーティ装飾、オーダーメイドアレンジメントのご依頼や各種イベントに招致される機会も多く、国内外におけるデモンストレーションやワークショップなど、日本を代表するフラワーデザイナーの一人として、幅広く活動している。 著書に『The Eternal Flower』(StichtingKunstboek)、『花の辞典』『花の本』(雷鳥社)『季節の言葉を表現するフラワーデザイン』(誠文堂新光社)などがある。
Text・Photo 第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子
- 花毎TOP
- 贈 gift
- 夢の花屋



