第一話 「二月の誕生石 アメジストに見立てる」
2022.02.11
贈gift
この世にある美しいものを花に見立てたら──
こんな難問に応えるのは、百戦錬磨のトップデザイナー。
そのままでも美しいものを掛け合わせて魅せる、夢の花屋の第一話は紫の宝石「アメジスト」に見立てたブーケです。
手掛けるのは花の国、オランダ出身のフローリスト、シェラー・マース。
花屋の店先でブーケの出来上がりを待つような気持ちでお楽しみください。
アメジストとは
今回のモチーフであるアメジストは和名で「紫水晶」という名の通り、水晶の一種である宝石です。紫といっても濃い紫色から淡い紫色、赤味や青味を帯びたもの、濃い茶色など、さまざまな紫のバリエーションが存在しています。
世界中で産出されますが、現在の主な産地はザンビア、ブラジル、ウルグアイ。
かつては日本でも鳥取、宮城、秋田などの産地から産出されていました。
アメジストの語源はギリシャ語の「amethystos(酒に酔わない)」という意味で、古代ローマではこの石を身に着けていれば酔わないと信じられていたとか。
日本ではアメジストの名で知られていますが、英語の発音に近いのは「アメシスト」。宝石のプロはこの名で呼ぶようです。
そして、2月の誕生石であるアメジストは愛や慈しみの石といわれ、石言葉も「誠実」「心の平和」といった意味を持っています。
シェラーが描いた、今回のブーケのデッサン。”LATHYRUS”とはスイートピーの学名
見立ての舞台裏
〈アメジストに見立てる〉というテーマを、シェラー・マースはどのように考えたのでしょうか。
「まず決めたのは紫の花を使ったブーケにすることです。アメジストの色を表現できる花…トルコギキョウやアジサイも考えましたが、日本の春ならではのスイートピーを主役にしようと思いました」
花はシェラ―が生花市場に出向いて、さまざまな品種の中からアメジストのイメージに合うものをセレクト。
スイートピーは花弁が柔らかくデリケートなので、柔らかい紙で枕を作って傷つかないようにケアしながら作業を進めていきます。
シェラ―は花を扱う際のちょっとした手間を厭いません、そして作業場はいつも整った状態です。
もうひとつの花材である蘭は一輪ずつに分け、花色と同色のテープで巻いた小さなグラスチューブへ。ひとつひとつの花は丁寧に、緻密に扱われていて、作業がスムースに進むように準備されています。
花の準備が整うと、ここからは驚くほど早いスピードで束ねられていきます。
まっすぐな茎はスイートピーの魅力のひとつ。熟練の技術で美しいらせん状に。
あっという間にスイートピーが組み上がりました。形を整えつつ、どこから見ても均等になるように蘭を挿していきます。
最後にヤマシダを加えていきます。アクセントでもあり、ブーケを持った時に花を保護する意味も。
出来上がったブーケの最終チェック。ちょっとした花の向きも最後までこだわります。
完成、アメジストに見立てたブーケ
2月の誕生石アメジストに見立てたブーケの完成です。
光を受けて輝くアメジストを写し取ったような色の花を生命力あふれる羊歯が取り囲み、束ねられた細い茎は、力強くらせんを描きながら全体を支えています。
足元まで美しいこのブーケはシンプルなガラスの水盤が好相性。
シェラーがこのブーケでこだわったのは色合い、形、そして季節感。
「使用したスイートピー、蘭、ヤマシダはどれも春が旬。春のはじまりならではのエネルギーが感じられる、シンプルだけれど豪華なブーケにしました。
中心部は美しい円形に、外側はランダムに。シルエットの対比を楽しんでください」
花の微妙に異なる紫の濃淡は、光を受けて輝くアメジストのよう…数えきれないほどのアメジストの粒を集めた、そんなブーケになりました。
束ねた翌日のスイートピーの様子。水を得た若い花芽が花開こうとしています。
「スイートピーは毎日少しずつ伸びたり曲がったり姿が変わっていきます。そんな変化も楽しんで欲しいのです」
今回の花材:スイートピー「紫式部」「すみれ」
ミディ胡蝶蘭「トゥインクル」・ヤマシダ(山羊歯)
夢の花屋、第一回目はシェラー・マースがスイートピーをアメジストに見立てたブーケをお届けしましたが、いかがでしたか?
撮影中、瑞々しい150本近くのスイートピーは空気が動くたびに香り立ち、その場に甘い香りが漂っていました。この冬の終わりの香りに一年が巡る早さを感じます。
「夢の花屋」は花屋の店先でトップデザイナーにテーマをオーダーしてから、アイデアが丁寧な仕事を経て形になる様子をお伝えするお話です。
こんな見立てが見てみたい…というご希望がございましたら、ぜひメッセージフォームからお便りをお寄せください。
第二話は新井光史が担当する夢の花屋。3月11日(金)午前7時に開店予定です。
花毎で読めるスイートピーのお話
二十四節気の花絵 第七十二話 大寒の花絵「スイートピー」
旬花百科 第一話 「スイートピー」
Gérard Maas シェラー・マース
オランダ出身。STOAS University of Applied Sciences(農業分野での教員を育成する高等専門大学)に進学し、国家ライセンスを取得。祖国オランダをはじめ、ベルギー、フランスで経験をつんだ後、1994年にオランダスタイルのフラワーデザイン学校の講師として招致され来日し、以後5年にわたり教鞭をとる。2003年に再来日。翌年、日本で行われたダニエル・オストのインスタレーションをきっかけに第一園芸に入社。
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