二十四節気の花あしらい

旬の花を最後の一輪まで楽しみつくしませんか?
気軽に季節を感じる「花あしらい」のテクニックをご紹介。

第三十七話 芒種の花あしらい「クレマチス」 

2024.06.05

life

日本では季節の変化を敏感に感じ取り、年中行事や習わしに添った植物を暮らしに取り入れてきました。
「二十四節気の花あしらい」では難しいルールにとらわれず、気軽に季節を感じられる花を楽しむテクニックを第一園芸のデザイナー、志村紀子がご紹介いたします。


2024年6月5日から二十四節気は芒種に

芒種(ぼうしゅ)の「芒(のぎ)」とは、稲や麦など、実の殻にある針状の毛の部分を指す言葉で、こうした植物の種をまくころを表した節気です。

今回はつる性植物の女王と呼ばれるクレマチスが主役。世界中に300種の自生種があり、園芸品種ともなると2,000~3,000種があるとされる、種類がとても豊富な植物です。花の色と形もさまざまですが、春だけ咲くものもあれば、春と秋のみ、秋から春にかけて咲くものなどもあって、同じ種とは思えないほどのバリエーションが存在していますが、初夏はいろいろなクレマチスが見られる花盛りの時季です。ここでは、咲き方の異なるクレマチスで楽しむ、花あしらいをご紹介します。

束感を楽しむ

ベルのようでもあり、逆さまにした壺のような形でもあることからベル咲き、または壺咲きと呼ばれるクレマチス「ロウグチ」だけをまとめてシンプルに生けました。
ロウグチは半つる性で、鮮やかな葉と伸びやかなシルエットが美しいクレマチスです。1本ですとお茶室の花のような楚々とした雰囲気ですが、花・葉・茎をひと固まりの束にすると、生命力を感じる花あしらいになるかと思います。
こんな風に、花全体を楽しむ花あしらいの場合は、きれいに洗った透明のガラスの器を使ってみてください。
茎がきれいに見えるのはもちろんですが、曇りのないガラスは全体をより美しくみせます。

動きを楽しむ

こちらのクレマチスは、八重咲クレマチスの「ベル オブ ウォーキング(ウォッキング)」。先ほどのロウグチとは花や葉の姿形も全く異なり、こちらは花が大きく華やかで、一輪ごとに動きがあります。
この花あしらいではそんな自由奔放に咲く花を活かすように、あちこちに花が向くように生けてみました。
クレマチスの茎はとても細いので、そのままだと生けたい位置に花が固定しづらいかと思います。ここでは花留めを兼ねて器の中にあえて葉を入れ、初夏のみずみずしさを演出しつつ、花を固定しています。
水に浸かった葉は傷みやすいので、1日程度で取り除く必要がありますが、ときにはこんな方法も便利で楽しいかと思います。

枝ものとあわせる

クレマチス ベル オブ ウォーキングに「ナツハゼ」を添えました。
淡い紫の花が映えるように、明るい黄金色の葉を選んでいます。葉=緑とは思いこまずに、花と花を合わせるようなイメージで添える枝ものや草ものを選んでみましょう。
生けるときには枝ものを先に生けることをおすすめします。こうすることで枝が支えになって、生けたい位置に花が留まりやすくなります。
また、枝ものを加えるとボリューム感が出ますので、少ない本数でも見栄えよく仕上がるのもうれしいところ。
庭で剪定した枝などがあれば、こんなときにぜひ活用なさってみてください。

少ない本数でかっこよく

ベル咲きのクレマチス「エトワールローズ」をシリンダー型のガラス瓶に生けました。短い枝はあえてガラス瓶の中に。
丈の長い器を使う場合、長さのある花を用意する必要があるように思ってしまいますが、器の中に入れ込んでしまえば、短めの花も有効活用できます。
こうした花あしらいをする場合は、少ない本数がおすすめです。器の中いっぱいに詰め込み過ぎると、涼し気な雰囲気が消えてしまいますし、何より蒸れて植物の痛みが早まってしまいます。
こうした花あしらいは、ぜひ引き算で楽しんでみてください。

いろいろなクレマチスを集めて贅沢に

3種類のクレマチスをまとめてひとつの花器に生けました。
同じ品種とは思えないほどの違いが楽しい、豪華だけれども、ナチュラルな雰囲気のある花あしらいです。
ここではクレマチスを使いましたが、庭などで育てられている植物を剪定することがあれば、枝や花をあつめて飾ってみるのもおすすめです。少し手間をかけて、1本1本、水に浸かる葉や痛みが進んだ部分を取り除いて、大き目の花器にざっくり生けてみてください。庭にある姿とは違った意外な植物の表情が楽しめるかと思います。

小さな一輪を集めて飾る

2種類のベル咲きのクレマチスと「タラスピ(西洋ナズナ)」をあわせてみました。タラスピは通称ペンペン草。なつかしく思われるかもしれませんが、いまでは人気の花材です。
試験管をつなげた、ユニークな花器に一輪ずつ挿してみたら、軽やかな野の風景のようになりました。
身近な草もこんな風に取り入れてみると、花あしらいがもっと楽しくなります。

こちらではガラスの水盤の中に花を生けたガラスの花器をいくつか入れています。
こうすることで、小さめに生けた花でも華やかなアレンジメントになります。
花が少ないときには、生けるときにカットした葉なども小さな花器に生けて一緒に飾るとボリューム感が出ますので、捨てずにいろいろ工夫してみましょう。

最後は短くなった花をガラスのティーポットやカップに生けて、涼し気なティーパーティーをイメージした花あしらいにしてみました。
小さな花あしらいは花の細部までじっくり楽しめるのがよいところ。ベル咲きクレマチスのくるりと反り返った花の内側と外側のコントラストや、八重咲クレマチスの繊細な花びらをじっくりと鑑賞してみてください。

クレマチスの水あげのコツ

クレマチスは水が下がりやすい花です。入手したら、葉が多く付いている場合は、水に浸かる葉や、飾る時に多すぎる葉を取り除きます。枝の切り口は切り戻しをします。さらに、切り口から3~4センチ程度をハサミの柄などで叩いて、ほうき状にすると水あげがよくなります。
もし、飾っている途中で花がくったりとしてしまったら、また切り戻しなどを行った後に、新聞紙などで枝全体を包んで、葉が浸らない程度の深めの水に入れて数時間置くと効果的です。

「クレマチス」の基本情報

□出回り時期(切り花):通年
□開花時期:品種によって異なる(代表的な品種の最盛期は5月~6月が多い)
□香り:品種によって異なる
□学名:Clematis
□分類:キンポウゲ科センニンソウ属(クレマチス属)
□和名:鉄仙/鉄線(テッセン)、風車
□英名:Clematis
□原産地:北半球の各地
□花言葉:「旅人の喜び」「精神の美しさ」「高潔」など


花毎でご紹介しているクレマチスのお話 第九十三話 夏至の花絵「クレマチス」

志村紀子

東京生まれ。国内を代表するホテル、外資系大手ラグジュアリーホテルのウェディングやパーティー装花に携わり、帝国ホテルプラザ店で活躍。現在は第一園芸を代表するデザイナーとして、Noriko Shimuraブランドを展開。他にも社内スタッフ教育部門の講師、対外的なワークショップ講師、各種商品提案、空間装飾のデザインなどを担当している。

第一園芸オンラインショップ「Noriko Shimura」
夢の花屋 第二十四話「ハワイの色彩に見立てる」

【ご案内】次回より掲載時期が毎月前半の節気に変更になります。三十七話は2024年6月5日(芒種)に掲載いたします。

Text・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子