二十四節気の花絵

イラストレーターの水上多摩江さんが描いた季節の花に合わせた、
二十四節気のお話と花毎だけの花言葉。

第九十三話 夏至の花絵「クレマチス」

2022.06.21

life


2022年6月21日から二十四節気は「夏至」に

夏に至る、つまり夏が始まるという意味の節気です。
夏至は一年で最も昼が長い日で、二十四節気の折返し地点。ここから昼は徐々に短くなり、12の節気を経て冬至に至ります。
年の半分の節目であり、日の長さが変わって行くこの時季は世界各地でお祭りや行事が行われます。

夏至祭
夏至のころになると北極や南極付近では24時間太陽が沈まない白夜が起こります。この周辺諸国を中心に伝統行事の夏至祭が行われますが、特に北欧諸国では長い冬の後に迎えた太陽の季節に感謝を捧げる、日本のお正月のように大切にされている祝日です。

夏越の祓(なごしのはらえ)
夏至の時期に行われる行事のひとつに例年6月30日に行われる夏越の祓(別名 夏越の大祓)があります。
6月の下旬になると神社の境内に「茅の輪くぐり」の大きな輪が据えられ、一年の半分が過ぎたこの時季に厄払いとして茅の輪をくぐり、残り半年の無病息災を願います。
そして、12月31日には「年越しの祓」が行われ、同様に茅の輪をくぐり、一年の穢れを祓い清めます。


「クレマチス」

□出回り時期(切り花):通年
□開花時期:品種によって異なる(代表的な品種の最盛期は5月~6月が多い)
□香り:品種によって異なる
□学名:Clematis
□分類:キンポウゲ科センニンソウ属(クレマチス属)
□和名:鉄仙/鉄線(テッセン)、風車
□英名:Clematis
□原産地:北半球の各地

つる性植物の女王
クレマチスは世界中に約300種の自生種があると云われる植物です。その内、日本の自生種は「カザグルマ」「センニンソウ」などの約30種。園芸品種となると2,000~3,000種とされている、品種数の多い園芸品種のひとつです。

複雑な系統
かつては原種で分類されていましたが、交配が進んだ現在では17~18種の系統とすることが多いようです。
クレマチスの系統は花の咲き方(新しい枝から/前年の枝からなど)、開花時期などで分けられており、花の見た目が似ているから同じ系統とはならないのが難しいところです。
バラのように春だけ咲くものもあれば、春と秋のみ、秋から春にかけて咲くものなどもあって、同じ種とは思えないほどのバリエーションが存在しています。

日本のクレマチス
現在でこそクレマチスの名が一般的になりましたが、以前は一括りに鉄線/鉄仙(テッセン)と呼ばれていました。このテッセンは15世紀後半ごろに中国から渡来した品種であり、日本の固有種はカザグルマ(風車)やハンショウズル(半鐘蔓)です。
中でもカザグルマは江戸時代に起こった園芸ブームで育種、改良され独自の発展を遂げた古典園芸植物の一つとされています。
そしてこれらは19世紀中ごろに日本を訪れたシーボルトやプラントハンターのロバート・フォーチュンがヨーロッパに持ち帰り、種間交配を行ったことで現在の多様なクレマチスの園芸品種が生み出されるきっかけとなりました。

さまざまな花の色と形
花の形は星状、十字状、ベル(壷)状、チューリップ状などが多く、更にダリアのような八重咲や星状の小花など多様です。(花に見える部分は正式にはがく片です)色も豊富でピンク、赤、紫、青、白、黄色、緑に加え、これらの複色もあります。


花毎の花言葉・クレマチス「ダイバーシティ」

最も有名な花言葉は「旅人の喜び」ですが、これはクレマチスの蔓を伸ばして繁茂し、その木陰で旅人が休んだことに由来する花言葉です。
その他にも「精神の美しさ」「高潔」などがありますが、これは凛とした花の姿から付けられたものでしょう。

さて、植物にはランやバラ、スイセンなど万単位の品種があるグループがあり、クレマチスは品種数では劣るものの、性質や姿のバリエーションといった点ではランに匹敵するほどユニークです。
一方「ダイバーシティ」とは、直訳では多様性を表す言葉であり、人種、性別、年齢、信仰などの属性ではなく、違いを認め、尊重するといった意味が内包されています。

姿かたちのみならず、一年の中で開花するタイミングがさまざまあり、香りの有無も存在する──
それぞれが個性的でありながらもルーツはつながっている、そんなクレマチスに「ダイバーシティ」の本質が重なりました。

人は花=クレマチスに多様性を求めて多様な品種を作出したように、今度は人に対して多様性を受け入れる、そんな願いを込めて「ダイバーシティ」という花言葉をクレマチスに託したいと思います。

文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子

水上多摩江

イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など