第四十八話 立夏の花あしらい「撫子」
2025.05.05
暮life
日本では季節の変化を敏感に感じ取り、年中行事や習わしに添った植物を暮らしに取り入れてきました。
「二十四節気の花あしらい」では難しいルールにとらわれず、気軽に季節を感じられる花を楽しむテクニックを第一園芸のトップデザイナー、新井光史がご紹介いたします。
2025年5月5日から二十四節気は立夏に
夏の始まりの節気で、季節はここから初夏へと移ります。5月の季語「薫風」の通り、初夏の風が心地よい季節です。
今回は日本で古くから親しまれてきた『撫子(ナデシコ)』がテーマ。母の日の花としても人気のカーネーションも、実は撫子の仲間です。
素朴で和の趣がある撫子を楽しみ尽くす、花あしらいをご紹介します。
小さく楽しむ
撫子は切り花としても出回る花ですが、ここでは(注釈のないものはすべて)花苗として出回っている小さな花をカットして使用しています。
最初は、さまざまな色の小さな花を、足付きのグラスに生けました。パフェのような可愛らしい花あしらいです。
葉は水に浸からないように丁寧に取り除きましょう。見た目がすっきりするだけでなく、水が濁りにくくなり、花の持ちも良くなります。
カットした撫子は、鉢や花壇に植え直しましょう。多年草なので、長く楽しめる花です。
意外な植物と組み合わせる
繊細な撫子に、屈強なイメージのソテツをあわせました。
一見難しそうに見えますが、ソテツのハリのある葉を活かして生けるだけなので、とても簡単です。
ソテツの葉の片側半分をカットし、グラスの縁に沿わせるように配置。葉の間に撫子を挿せば完成です。
ソテツならではの青々とした葉と、流れるようなシルエットが、撫子の上品な美しさを際立たせます。
茎の魅力
同じような花材でも、器を変えることでまた違った魅力が引き出されます。
長方形のガラスの花器には、片側の葉をカットしたソテツを交差させるように生け、交差した部分に房状に咲く撫子(切り花)を添えました。
ストライプのようなソテツの葉を背景にすると、撫子がトロピカルフラワーのようにも見え、初夏らしい雰囲気が楽しめます。
こちらでは、撫子(切り花)をソテツの葉で包むように生けました。ブラインド越しに花を眺めるようなイメージです。
グラスの水は縁ぎりぎりまで入れると、一体感が出て素敵です。ちなみに、ソテツの葉は固くツルツルしているため、水に浸ってもすぐには傷みません。
水替えのタイミングで葉も洗うと、より長く楽しめます。
花留めで遊ぶ
グラスの中に小石を沈めて花留めに。先端をカットしたソテツに、小さな白い撫子を一輪添えました。
石の丸みや色、シャープで色鮮やかな葉、そして華奢な花。異なる色・形・質感が相まって、モダンアートのような雰囲気に。
今度は、ソテツの小葉だけをグラスいっぱいに差し込み、その中に撫子を一輪挿しました。
芝生の中からポツンと咲いた花のようなイメージです。ごく小さな撫子の花でも、ソテツと合わせることで特別な存在感が生まれます。
上の花あしらいで使ったソテツの葉の花留めを活かし、白い撫子とジュバタム(別名:リスのしっぽ)を生けました。
撫子とジュバタムを片側に寄せることで、風になびくような印象に。白とグリーンの組み合わせが涼しげです。
ソテツの花留めは、細い茎でも簡単に固定できます。
こちらでは色とりどりの撫子を挿し、ジュバタムをアクセントに添えることで、コンパクトながら見ごたえのある花あしらいになりました。
「撫子」の基本情報
□切り花出回り時期:5月~10月
□開花期:4月~8月(四季咲きの園芸品種もあり)
□香り:あり
□学名:Dianthus
□分類:ナデシコ科ナデシコ属(ダイアンサス属)
□別名:河原撫子(カワラナデシコ)、藤撫子(フジナデシコ)、大和撫子(ヤマトナデシコ)など
□英名:Dianthus
□原産地:ヨーロッパ、アジア(温帯地域)※一部は北アメリカや南アフリカに帰化
新井光史
神戸生まれ。花の生産者としてブラジルへ移住。その後、サンパウロの花屋で働いた経験から、花で表現することの喜びに目覚める。 2008年ジャパンカップ・フラワーデザイン競技会にて優勝、内閣総理大臣賞を受賞し日本一に輝く。2020年Flower Art Awardに保屋松千亜紀(第一園芸)とペアで出場しグランプリを獲得、フランス「アート・フローラル国際コンクール」日本代表となる。2022年FLOWERARTIST EXTENSIONで村上功悦(第一園芸)とペアで出場しグランプリ獲得。2025年3月に行われたFlower Art Award2025でも川口太聞(第一園芸)とペアで出場しグランプリを獲得した。 コンペティションのみならず、ウェディングやパーティ装飾、オーダーメイドアレンジメントのご依頼や各種イベントに招致される機会も多く、国内外におけるデモンストレーションやワークショップなど、日本を代表するフラワーデザイナーの一人として、幅広く活動している。 著書に『The Eternal Flower』(StichtingKunstboek)、『花の辞典』『花の本』(雷鳥社)『季節の言葉を表現するフラワーデザイン』(誠文堂新光社)などがある。
Text・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子
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