夢の花屋

第一園芸のトップデザイナーが、世界中の絶景や名画、自然現象や物質を花で見立てた、
この世でひとつだけの花をあなたに贈る、夢の花屋の開店です。

第三十四話「マデイラ島のジャカランダに見立てる」

2025.04.01

gift

この世にある美しいものを花に見立てたら──
こんな難問に応えるのは、百戦錬磨のトップデザイナー。そのままでも美しいものを掛け合わせて魅せるのが夢の花屋です。
第三十四話は「マデイラ島のジャカランダ」に見立てたアレンジメント。手掛けるのは第一園芸を代表するデザイナーのひとりである、志村紀子。
ここからは花屋の店先でオーダーした花の出来上がりを待つような気持ちでお楽しみください。

マデイラ島のジャカランダとは

マデイラはポルトガルの自治領で、アフリカの北西沖に浮かぶ 4 島からなる諸島です。
この諸島は15世紀にポルトガル人探検家らによって発見され、以来ポルトガル領となりました。16世紀には砂糖貿易で栄え、その後はワイン産業が発展しました。
本島のマデイラ島は奄美大島とほぼ同じ大きさで、年間平均気温20度前後と温暖な気候です。ヨーロッパでは「常春の島」として知られ、各地から観光客が訪れる観光地です。

マデイラ島、最大の都市であるフンシャルには歴史的な建造物が多く残る、美しい街並みが広がっていて、20 世紀前半に都市計画の一環として、世界三大花木*の一つに数えられている「ジャカランダ」の木が植えられました。このジャカランダの紫の花は、主要な産業のひとつであるワインの色をイメージして選ばれたともいわれていて、市の旗にも紫が用いられています。ジャカランダの開花期にあたる4月から5月は街が紫色に染まり、幻想的な風景が広がります。

*世界三大花木:ジャカランダ、ホウオウボク、カエンボク


見立ての舞台裏

今回の作品のために準備された花々です。事前に「赤づる」で作った土台が用意されています。

赤づるの球体を囲むように小さな試験管が取り付けられています。

まずは「サイネリア」の花を挿していきます。

紫の「スイートピー」や「シレネ サクラコマチ」が次々と入りました。

「ライラック」や「バイモ」が加わります。

黄色い花は「コロニラ」。主に葉ものとして扱われますが、今回は春ならではの、花が付いたコロニラが入りました。

さらに試験管を取り付けて、花を足していきます。


完成、マデイラ島のジャカランダに見立てたアレンジメント

マデイラ島のジャカランダに見立てたアレンジメントが完成しました。

「今回は古い街並みに紫の花が咲き乱れる雰囲気がとても素敵だと思って、この見立てを選びました。ジャカランダの花は日本では初夏に咲きますが、マデイラ島では4月ごろから開花するということで、ぜひこのタイミングでデザインしたいと思いました。
でも、ジャカランダの花を使わず、ジャカランダの雰囲気を表現するというのは難易度が高いチャレンジでした」

「レンガ色の屋根が印象的なフンシャルの古い街並みを『赤づる』と、漆喰の壁のような花器で表現しました。そこにジャカランダの花に見立てた紫のスイートピーを中心に、パステルカラーの花を挿しています」

「高木のジャカランダにたくさんの花が咲いている様子や、春風が通り抜けるようなイメージを表現したくて、土星の環のように花を配置しています」

「フンシャルの街を調べていると、ジャカランダの花が終わると、その後を追いかけるように黄色い花が咲く『ティプアナ ティプ』という花木も植えられていることがわかりました。
ジャカランダの紫はワインを、ティプアナ ティプの黄色は砂糖をイメージしているとか…そこで、ティプアナ ティプに見立てた、コロニラの黄色い花を添えみました」

今回の花材:ライラック、カスミソウ(染め紫)、シレネ グリーンベル、サイネリア、シレネ サクラコマチ、コロニラなど

マデイラ島のジャカランダに見立てたアレンジメントはいかがでしたでしょうか。
今回のアレンジメントは桜の季節に真っ向勝負するように、全く違う花木、しかも、その花木を使わないという、志村のチャレンジ精神が活きた作品でした。

モチーフになったジャカランダは、常春や常夏の国で日本の桜のように親しまれている花木です。薄紫の花が咲く、幻想的な様子は桜同様に人の心を惹きつけます。
ちなみに、多くの場所で初夏がジャカランダの開花期ですが、マデイラ島のフンシャルはひと足早く4月から5月が開花期にあたり、まさに桜に匹敵。
たとえ、訪れたこのない場所でも、さまざまな想像を掻き立てられた上に、花は桜のみにあらず、と思わせてくれる一作でした。


「夢の花屋」ではトップデザイナーならではの、鋭い観察眼や丁寧な仕事が形になる様子まで含めて、お伝えしていきたいと思っております。
こんな見立てが見てみたい…というご希望がございましたら、ぜひメッセージフォームからお便りをお寄せください。

第三十五話予告
次回は新井光史が登場。5月1日(木)午前7時に開店予定です!

志村紀子 Noriko Shimura

東京生まれ。国内を代表するホテル、外資系大手ラグジュアリーホテルのウェディングやパーティー装花に携わり、帝国ホテルプラザ店で活躍。現在は第一園芸を代表するデザイナーとして、Noriko Shimuraブランドを展開。他にも社内スタッフ教育部門の講師、対外的なワークショップ講師、各種商品提案、空間装飾のデザインなどを担当している。

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