第二十六話「極彩色のメキシコに見立てる」
2024.08.01
贈gift
この世にある美しいものを花に見立てたら──
こんな難問に応えるのは、百戦錬磨のトップデザイナー。そのままでも美しいものを掛け合わせて魅せるのが夢の花屋です。
第二十六話は「極彩色のメキシコ」に見立てたブーケ。手掛けるのは第一園芸を代表するデザイナーのひとりである、志村紀子。
ここからは花屋の店先でオーダーした花の出来上がりを待つような気持ちでお楽しみください。
極彩色のメキシコ
メキシコの色と聞いて、どんな色を思い浮かべますか?「カラフル」という印象はあるものの、具体的な色は思いつかないかもしれません。
実はメキシコらしさを感じる色の正体は、くすみのない彩度の高い色と色の組み合わせにあります。純色*の反対色の組み合わせが多く、例えばピンクと緑、青とオレンジ、黄色と紫といった、目がチカチカするハレーションという現象を起こすような色合いです。しかし、こうした色を多用してもまとまりを感じるのは、無彩色や低彩度の色を反対色の間に挟むことでコントラストを調整するセパレーションという効果を取り入れているためです。
色と色は引き立て合いながらもハレーションが起きないのは、色のマジックを活かせるメキシコのひとびとのセンスに由来しているからといえそうです。
*(じゅんしょく)各色相においてもっとも彩度の高い色
見立ての舞台裏
今回はビビッドな色の花がたくさん用意されました。
志村が手にしているのは「カンガルーポー」。オーストラリア原産のワイルドフラワー(野草)です。花の形がカンガルーの前足(paw)に似ていることから、この名前が付きました。
カンガルーポーをベースにして、メキシコの国花の「ダリア」や、毎年11月1日に行われるメキシコのお盆ともいえる大イベント「死者の日」で必ず使われる「マリーゴールド」を加えていきます。
青い花は染色した「ガーベラ」です。鮮やかなピンクや黄色のガーベラと赤い「カーネーション」も加わりました。
「ルリタマアザミ」や「ジニア」が入って間もなく完成です。
完成、極彩色のメキシコに見立てたブーケ
極彩色のメキシコに見立てたブーケが完成しました。
「大好きな色の組み合わせをもとに『メキシコ』をテーマにしてブーケを作りました。にごりのないピンクとターコイズブルーの組み合わせが、とにかく気に入ってます!そこに『マリーゴールド』を加えて、メキシコらしさを演出してみました」
写真は開きはじめたカンガルーポーの花。
「鮮やかな花を引き立てるために、柔らかな色のカンガルーポーをたくさん加えています。形がとっても個性的なので、強い色あいの花にも負けない存在感があります」
「青色のガーベラがアクセントです。自然のままの青い花もありますが、私はあえてこうした染花をよく使います。南国の鳥のような、不思議な色は染めた花ならではの魅力なんです」
さらに今回はヘッドドレスも制作。メキシコの現代絵画を代表する画家「フリーダ・カーロ」のイメージです。
「フリーダ・カーロのポートレートで見たヘッドドレスが印象的で、生花でつくってみたくなりました。いまの日本のウェディングですと、もっと繊細でニュアンスカラーのヘッドドレスが多いですが、こんな風にインパクトがあってポップなものも素敵だと思います」
今回の花材:カンガルーポー、バラ、染めガーベラ、ダリア(ミッチャン)、ガーベラ、カーネーション、ジニア、マリーゴールド、ルリタマアザミ、ポリポジューム
極彩色のメキシコに見立てたブーケはいかがでしたでしょうか。前回のハワイをテーマにしたブーケも色の個性を活かしたものでしたが、地域の違いがはっきり表れた、楽し気な雰囲気のブーケでした。
メキシコでは民族衣装やそれに付随するもののみならず、街並みもとてもカラフルです。世界遺産のグアナファトの街、フリーダ・カーロの青い家、メキシコモダン建築の巨匠であるルイス・バラガンの建築など、建造物にもふんだんに色が使われています。こうしたことからもわかるように、メキシコのひとびとは手当たりしだい色を使っているようでありながらも、至る所で巧みに色がもたらす効果を活かしているのかもしれません。
今回の花も同様で、とまどうほど鮮やかな花を次々と組み合わせて、あっという間に調和がとれた美しいブーケができあがりました。
どこから見ても色の組み合わせが楽しい、志村ならではの色彩感覚が活かされた作品でした。
「夢の花屋」ではトップデザイナーならではの、鋭い観察眼や丁寧な仕事が形になる様子まで含めて、お伝えしていきたいと思っております。
こんな見立てが見てみたい…というご希望がございましたら、ぜひメッセージフォームからお便りをお寄せください。
第二十七話予告
次回は新井光史が登場。ある名曲に見立てます。9月1日(日)午前7時に開店予定です!
志村紀子 Noriko Shimura
東京生まれ。国内を代表するホテル、外資系大手ラグジュアリーホテルのウェディングやパーティー装花に携わり、帝国ホテルプラザ店で活躍。現在は第一園芸を代表するデザイナーとして、Noriko Shimuraブランドを展開。他にも社内スタッフ教育部門の講師、対外的なワークショップ講師、各種商品提案、空間装飾のデザインなどを担当している。
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