第百二話 「五月 立夏 小満」
2025.05.05
暮life
薫風の安心感
青若葉が薫風に揺れて心地よい景色が広がっています。
なんとも五月らしいさわやかな日。
あっという間に過ぎてしまうとわかっているけれど、できるだけ長く続いて欲しいと願ってしまう季節です。
世の中はといえば、予測通りにはならないことの多い、変化の早い揺らぎの時代を迎えていますが、近頃は季節も同じように通常の運びとは異なる移ろい方が多くなり草木花も私たち人間と同じように、陽気に右往左往しているのかなと感じることが増えました。
たとえば風ひとつとっても「薫風のはずなのに暑いし湿度も高い」とか「薫風にしては寒い」などなど期待している季節とは異なる陽気が多かったのではないでしょうか。
そんな中で今年の4月末からの関東の陽気はやわらかに乾いた風が吹いて心地よく、久しぶりに5月らしい!と言いたくなるような薫風が吹いています。
いつも通りに季節がやってきたことがこれほど嬉しいとは!
ただこれは目に見えるものではないし、あくまでも感覚的なものですが、それだけで深い安堵があるものです。
年齢を重ね、記憶の中に重ねてきた季節感は思いがけないところで友人のように寄り添って草木花とともに安堵を紡いでくれるものなのでしょう。
さて冬の強い風もなかなかに魅力があるものですが、初夏のやわらかな風はこころの曇りをそっと解いてくれるような力があります。
紅葉や街路樹を揺らす風が吹いてきたらくまなく全身を洗うように浴びて変化に富んだ時代を自分らしく歩いていくための力をいただきましょう。
菖蒲の包み飾り
端午の節供のお供えに菖蒲の包み飾りを。
手すきの檀紙と畳糸で菖蒲を包み、神聖なものを待つための松と時節の青若葉を添えます。
新暦の五月五日から今年の旧暦の端午の五月三十一日まで。
端午のしつらいを楽しもうと思っています。
花の紫
見事な紫のアヤメを白瓶子に入れて。
アヤメは次から次へと蕾を開いて紫色を野に放ちます。
紫は高貴さのシンボルであった色。
雅でありながら、風格の高い魅惑の色。
時期は短く、あっという間に消えてしまう花だから出会えたなら心を浸すように楽しむべき花です。
広田千悦子
文筆家。日本の行事・室礼研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい稽古を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。
写真=広田行正
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