花月暦

日本の文化・歳時記研究家の広田千悦子さんが伝える、
季節の行事と植物の楽しみかたのエッセイ。

第九十九話 「二月 立春 雨水」

2025.02.03

life

めまぐるしい時代の中で

2月は旧暦の七草、初午、旧暦の小正月と行事は続いてまいります。
今年は少し遅めだった梅の花も、様々な種類を愛でるに嬉しい季節となりました。
足元ではひなたで一番に顔を出していた蕗の薹がもう花を咲かせているものもあります。

こうなってくれば時折、戻ってくる冬の空気の冷たさともそろそろお別れ。
冬の空気や香りを憶えておこうという気持ちが湧いてきます。
緩慢だった時の流れも、急に早くなったように感じる機会も増えていきます。

実際に流れている時間のリズムは変わらないのに、早く流れているように感じたり、そうかと思うと遅く感じたり。
とても不思議なことだと思います。

その時々で人によって、あるいは世代によって、そして時代によってその感覚は変わるのでしょう。

今の時期はもちろん、今の時代はと考えてみたときには時の流れは非常に早く目まぐるしい変化が起きていると感じる人の割合が多いのではないかと思います。
世界の情勢、AIの台頭、星のめぐり、環境の変化などなど思い当たる理由はいくつもあります。

その一方、周りに流れている空気とは別に私たちの心や体の中には一人一人、それぞれのリズムがあります。
生まれつき本来もっているリズム。
あるいは道を歩む間に培われてきたリズム。
自分のリズムがあります。

めまぐるしいリズムが外に流れている時は自分のリズムと波長を整えるのがきつい時があります。

そういう時は草木を眺めたり、花に近づいたり。
春の訪れを探したり、冬の思い出をあたためたり。
自然の力を借りるのが一番です。

本来持っているありのままの姿に佇み、変わらない姿をみせてくれる草木花。
めまぐるしい時代こそ、そのやわらかさ、香り高さ、力強さに近づき触れる、そんなひとときを持ちたいものです。

春へとつなぐもの

古い枡に昨年収穫した、実りを入れて春へとつなぐものに。
朱色の梔子の実、紅色のナナカマドの実、シャリンバイの漆黒、トウヒの種などなど。

冬と春をいったりきたりして心と身体を揺さぶる季節にはどしっとした自然の実りの色が心を支えてくれます。
冬から春へとうつりゆく季節の飾り物にしています。

旧暦の小正月飾り

2月12日は旧暦の小正月。
満月へのお供物に。
正月飾りからおろしたエゾマツの枝に餅花をつけて梅の枝を添えてみます。
白餅と白梅が重なって華やかな飾りとなりました。

広田千悦子

文筆家。日本の行事・室礼研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい稽古を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。

『花月暦』

『にほんの行事と四季のしつらい』

広田千悦子チャンネル(Youtube)

写真=広田行正