二十四節気の花絵

イラストレーターの水上多摩江さんが描いた季節の花に合わせた、
二十四節気のお話と花毎だけの花言葉。

第百十話 立冬の花絵「山茶花」

2023.11.08

life


2023年11月8日から二十四節気は「立冬」に

冬、はじまりの節気です。
「立」という字が付く四つの節気(立春、立夏、立秋、立冬)は、実際の季節感はともあれ、それぞれの季節がはじまる区切りのタイミングとなります。
寒冷地では初雪が舞い、暖地ではこれからが紅葉シーズンが本番といった、さまざまな気候が入り混じる季節です。

山茶始開
二十四節気を更に細分化した七十二候(しちじゅうにこう)という、一年を72の季節に分け、気象や動植物の動きを短文で表した暦があります。
こちらの暦では立冬のはじまりの11月8日*から11月12日にかけてが「山茶始開(つばきはじめてひらく)」という暦に。山茶(さんちゃ)をつばきと読んでいますが、サザンカを指しています。これはツバキ科の総称が山茶であったことに由来するといわれています。

*暦は毎年異なります。11月8日から11月12日は2023年の暦となります。


「山茶花」

□開花期:10~4月(系統によって異なる)
□香り:あり
□学名:Camellia sasanqua
□分類:ツバキ科 ツバキ属(カメリア属)
□別名:山茶花(さんさか)、茶山花(ささんか)、茶梅花(さざんくわ)、カタシなど
□英名:Sasanqua、Christmas camellia
□原産地:日本

山茶花とサザンカ
「山茶花」と書いてサザンカと読むことに疑問を感じたことはありませんか?
また、前出の七十二候では「山茶」と表記されていながらも「ツバキ」と読むなど、なかなか紛らわしい名前です。
所説ありますが、かつては茶山花(ささんか)などと呼ばれていたことや、中国語ではツバキ類を総称して山茶(さんちゃ)となることが混乱して、現在の山茶花(さざんか)になったといわれています。

椿と山茶花の見分け方
科も属も同じ椿と山茶花はとてもよく似ています。
見分けるポイントは開花期と花にあり、山茶花は早い品種では10月ころから咲き始め、椿は12月ころから開花が始まります。
花の咲き方では山茶花は花が平らに開き切って開花しますが、ほとんどの椿は芯を包み込むように咲きます。香りがあるのも山茶花の特徴。(椿は香りがある品種は少ないのです)
最も違うのは花の散り方で、山茶花は花びらがばらばらに散って、一面が花弁の絨毯のようになりますが、多くの椿は花首から落ちます。

山茶花梅雨
日本では雨の降り方にたくさんの名前が付けられていますが、秋から冬(11月下旬~12月上旬頃)にかけて山茶花が咲く時季に太平洋側で降る長雨が山茶花梅雨(さざんかづゆ)です。
梅雨は6月前後に降る長雨のみならず、季節の変り目に降る長雨には四季それぞれの植物の名前が付いた雨の名前が付けられています。
菜の花が咲く時季(3月下旬~4月上旬頃)は「菜種梅雨(なたねづゆ)」、ススキが穂を出す時季(8月下旬~10月下旬頃)「すすき梅雨」と呼ばれます。


花毎の花言葉・山茶花「きらめき」

山茶花の一般的な花言葉は「ひたむきさ」「謙虚」「困難に打ち勝つ」など。
四季のある日本では、一年を通してさまざまな花が咲きますが、一時花がとても少なくなるのが立冬のころです。物寂しい季節に懸命に花を咲かせることからこうした花言葉が付けられたのでしょう。
見かたを変えれば、他の花が控えているわずかな時季を狙うように、この花は見ごろを迎えて輝くように咲き誇っているともいえます。本格的な冬を前に、沈みがちな気持ちまで明るく灯してくれるような山茶花に「きらめき」という花言葉を贈りたいと思います。


文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子

水上多摩江

イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など