第三十六話 小満の花あしらい「ライラック」
2024.05.20
暮life
日本では季節の変化を敏感に感じ取り、年中行事や習わしに添った植物を暮らしに取り入れてきました。
「二十四節気の花あしらい」では難しいルールにとらわれず、気軽に季節を感じられる花を楽しむテクニックを第一園芸のデザイナー、志村紀子がご紹介いたします。
2024年5月20日から二十四節気は小満に
小満(しょうまん)とは、全てのいきものが成長して、天地に満ち始めるという意味の節気です。梅雨の手前のこの時季は植物の勢いが増して、緑がいっそう濃くなっていることに気づくころですね。
今回ご紹介するのは、ごく短い期間にしか出回らないライラック。
北海道で毎年行われる「さっぽろライラックまつり」が行われるのもこのころ。今しか出会えないからこそ、見つけたらぜひ楽しんでいただきたい花のひとつです。
シンプルにざっくりと
国産のライラックが花屋に出回るのは、ほぼ5月の間だけ。フレッシュなイエローグリーンの葉付きで、甘い香りも楽しめるのは国産ならでは。
ちなみに、ライラックには輸入ものもあり、ほぼ通年出回りますが、葉は付いておらず、香りは弱めです。
ライラックは色の代名詞にもなっている柔らかな紫やピンク、白といったカラーバリエーションがありますが、ここではピンクと紫のライラックを使いました。
まず、最初は枝の部分も見えるガラスの花器にざっくりと生けてみます。ライラックは花木なので、力強い枝も魅力です。
葉ものを足さなくても、鮮やかな葉が素敵なアクセントになって、初夏の雰囲気を感じる花あしらいになります。
ライラックの花は動かす度に小花が落ちます。でも、落ちた花もとてもきれいなので、しばらくの間、そのままにしておくのも素敵ですよ。
※ライラックはとても水が下がりやすい花木です。水揚げ方法についてはこの記事の最後でご紹介しています。
花器をネイビーの水差しに生け替えてみました。器を変えただけで印象がガラリと変わりました。花と花器の色が響き合って、ヨーロッパの雰囲気に!
ライラックは陶器もよく似合いますので、お手持ちの器でいろいろお試しくださいね。
パステルトーンの花と組み合わせて
ライラックに5月が旬のカンパニュラを合わせて、庭に咲く花を集めてきたような、ナチュラルな花あしらいです。
なんとなく昭和の印象があるカンパニュラですが、色が近いライラックと合わせるとお互いを惹き立てます。このままでも素敵ですが、起毛したシルバーリーフが特徴のヘリクリサムなど、色や形の違う草ものをアクセントに加えると、花全体に動きが出て、見ごたえもアップします。
旬の花を合わせて
ライラックは短めで楽しむのも素敵です。
この花あしらいではブルーのアスチルベとサポナリアを合わせました。
アスチルベは花のシルエットがライラックと似ていますので、合わせやすい花材です。また、サポナリアのように小花が広がるタイプの花は、全体にまんべんなく散らしたくなりますが、あえて花の固まりのまま生けると今っぽい仕上がりに。きっちりした形に作りこまないのがコツです。
バラもライラックも好相性の組み合わせです。
こちらでは白いバラを使いましたが、パステルカラーのバラとの組み合わせも素敵ですよ。バラを合わせるときの花器選びは、あえてカジュアルなタイプを選んでみるのがおすすめです。豪華だけど、さりげなく。そんな花あしらいを楽しんでみてください。
一枝の楽しみかた
ライラックを長めのまま、グラミネ(穂ものの総称)と合わせて、色付きガラスの瓶にあしらいました。
エレガントなライラックにはワイルドなグラミネもよく似あいます。花の本数が少ない場合には口が狭い花器を使うと、とても生けやすくなります。少し背丈を高く生けたい場合は、なるべく重みのある花器や、水の重さで安定するような花器を選ぶと安定します。
生ける途中で折れてしまったり、お手入れで短くなったりしたときは、小さな花器に分けて飾ってみるのはいかがでしょうか。
ここでは形が少しずつ違う3つの一輪挿しに生けました。こんなときのために、小さな花器をいくつか持っておくと、花をあしらう楽しみが広がりますね。
もちろん、一輪挿しでなくてもグラスや空き瓶なども選び方ひとつで、素敵な花器に変身します。
一輪挿しのひとつに利休草をあしらいました。ライラックに限らず、花器が3つあるからといって、全てに花を生けなくても大丈夫。たとえば3つのうち、1つだけは草ものにしてみると、雰囲気がガラリと変わって景色がうまれます。
5月であれば庭やベランダのハゴロモジャスミンなどを利休草の代わりにするのもよいかもしれません。つる性の植物はシルエットに動きがあるので、一枝そえるのにおすすめです。
写真のようにトレイなどに花器を集めて飾るとステージ効果で、ちょっとした特別感が手軽に演出できます。
ライラックはお手入れのときに、水に浸かってしまったり、枝が込み入ってしまったりすることを避けるために花が付いた小枝をカットすることがあります。また、お手入れの途中で花の先端が折れてしまうことも。
そんなときには、花を捨てずに小さな器にあしらいましょう。こちらでは小さなケーキトレイに落ちた花と一緒に載せました。
花のあしらい方に絶対はありません。ご自身ならではの楽しみ方を見つけて、初夏を告げるライラックを最後の一枝まで楽しみつくしましょう。
ライラックの水あげのコツ
最初にもお伝えした通り、ライラックは水が下がりやすい花です。入手したら、枝を斜めにカットして、さらに真ん中に切り込みを入れましょう。
できれば切り口から4~5センチ程度、ハサミやカッターなどで樹皮を取り除くと、より水あげがよくなります。
もし、飾っている途中で花がくったりとしてしまったら、また上記のように切り戻し、たっぷりの水につけてみてください。このとき、新聞紙などで枝全体をぴったりと包んで涼しい場所に1時間程度おいておくとより効果的です。
「ライラック」の基本情報
□切り花の出回り時期: 5月(輸入品は通年)
□香り:あり
□学名:Syringa vulgaris
□分類:モクセイ科ハシドイ属
□和名:紫丁香花(ムラサキハシドイ) 、リラ
□英名:Lilac、Lilas
□原産地:ヨーロッパ南東部、東アジア
□花言葉:「青春の思い出」「友情」「幸福の香り」など
花毎でご紹介しているライラックのお話 第九十二話 立夏の花絵「ライラック」
志村紀子
東京生まれ。国内を代表するホテル、外資系大手ラグジュアリーホテルのウェディングやパーティー装花に携わり、帝国ホテルプラザ店で活躍。現在は第一園芸を代表するデザイナーとして、Noriko Shimuraブランドを展開。他にも社内スタッフ教育部門の講師、対外的なワークショップ講師、各種商品提案、空間装飾のデザインなどを担当している。
【ご案内】次回より掲載時期が毎月前半の節気に変更になります。三十七話は2024年6月5日(芒種)に掲載いたします。
Text・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子
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