夢の花屋

第一園芸のトップデザイナーが、世界中の絶景や名画、自然現象や物質を花で見立てた、
この世でひとつだけの花をあなたに贈る、夢の花屋の開店です。

第二十二話「春のパリに見立てる」

2024.04.01

gift

この世にある美しいものを花に見立てたら──
こんな難問に応えるのは、百戦錬磨のトップデザイナー。そのままでも美しいものを掛け合わせて魅せるのが夢の花屋です。
第二十二話は「春のパリ」に見立てたブーケ。手掛けるのは第一園芸を代表するデザイナーのひとりである、志村紀子。
ここからは花屋の店先でオーダーした花の出来上がりを待つような気持ちでお楽しみください。

春のパリ

フランスの中でも北よりに位置するパリの春は東京より少し遅れてやってきます。
2月中旬ごろからクロッカスが咲きはじめ、花の季節がスタート。
徐々にミモザが色づいて、3月下旬ごろからは街中に多く植えられているモクレンが咲き誇ります。4月中旬ともなれば桜が見ごろに。意外にもパリには各所に桜が植えられていて、この桜をお目当てにパリの人々もお花見に繰り出します。ちなみにパリで見られる桜の多くは八重桜で、濃いピンクが華やかな「関山」が多いとか。そして、桜と前後して藤も見ごろを迎え、花が彩る春から緑が美しい夏へと季節が移ろっていきます。


見立ての舞台裏

軽やかな色合いの、春の草花が出番を待っています。

志村が作っているのは、ブーケのベース。金属の輪に麻ひもやリボンを巻いていきます。

今回制作するのはパリのフローリストに習ったという、ベースを使ったブーケ。

淡いピンクに染めた「ルスカス」のドライフラワーから花を束ねていきます。

「スプレーストック」や「ホルジューム ジュバタム」が入りました。

「パンジー」や「アンブレラファン」が加わり、ブーケのシルエットができあがっていきます。

ほんのりと甘い香りがするピンクの「オンシジューム」が加わりました。

最後に束ねた花を縛って完成です!


完成、春のパリに見立てたブーケ

春のパリに見立てたブーケが完成しました。

「いつもは鮮やかな色の花を使って作ることが多いのですが、今回は淡い色を組み合わせたデザインにしています。これは2023年の夏に花の世界大会でフランスを訪れた時の市場や街中の花がずっと心に残っていて、そのときに思い浮かんだブーケのデザインを再現してみました」

ブーケを反対側から見た姿。見る角度によって雰囲気が異なります。
そよ風のようなホルジューム ジュバタムのやわらかな穂が全体をまとめているようです。

「春のそよ風のように、軽やかで、いい香りがふわっと抜けるようなブーケをイメージしながら作りました。もし、春の東京をイメージしたら、ぜんぜん違ったデザインになったと思います」

持ってみるとより軽やかさが伝わります。ウェディングブーケにしても素敵そう。

「パンジーは盛りを過ぎて花弁がカールした花もあえてそのまま加えて、自然の移ろいを表現しています。庭に咲いていれば蕾もあるし、終わりかけの花もありますよね。いろいろな状態の花があるのが自然だと思うんです」

「WEBではお伝えできないのが残念なんですが、いい香りのする花も加えたくて、甘い香りがするオンシジュームをたくさん加えました」

パンジーは色幅の広さも魅力。同じパンジーでも白っぽい花もあれば、ベージュピンクやワインレッドなど、ここで使われた花だけでも何色もの花があります。

「あちこちを向いて咲くクレマチスも加えています。チューリップ咲きのクレマチスは蕾も咲いた姿もユニークなので、好きな花なんです。つる性の植物が入るとブーケ全体に動きが出ます」

スプレーストックのまわりを囲む、まるで羽毛のようにふわふわしているものはドライフラワーの「フェザーグラス」。不思議な姿ですが、れっきとした植物です。

こちらは「タラスピ」。かつてはペンペン草と呼ばれていましたが、いまでは人気の花材です。

今回の花材:ユーカリ、クレマチス、オンシジューム、コロニラ、フェザーグラス(染ドライ)、ルスカス(染ドライ)、タラスピ、スプレーストック、パンジー、ウスネオイデス、ホルジューム ジュバタム、アンブレラファン(写真外)

春のパリに見立てたブーケはいかがでしたでしょうか。志村がつくるブーケやアレンジメントの多くは鮮やかで華やかなトーンの色合いでデザインされることが多いのですが、今回は都会のシャンペトル*を思わせる軽やかなブーケができあがりました。
いくつもの志村のデザインを見てきましたが、こうした雰囲気の花を見るのははじめてのことでした。フランスでの経験でまたひとつ引き出しが増えたのかもしれません。これからのテーマで志村がどんな見立てをつくりだすのか、期待が高まります。

*シャンペトル:野に咲くような花や草を使って無造作風に束ねたり生けるたりするスタイル


「夢の花屋」ではトップデザイナーならではの、鋭い観察眼や丁寧な仕事が形になる様子まで含めて、お伝えしていきたいと思っております。
こんな見立てが見てみたい…というご希望がございましたら、ぜひメッセージフォームからお便りをお寄せください。

第二十三話予告
次回は新井光史が登場。初夏の絶景に見立てます。5月1日(水)午前7時に開店予定です!

志村紀子 Noriko Shimura

東京生まれ。国内を代表するホテル、外資系大手ラグジュアリーホテルのウェディングやパーティー装花に携わり、帝国ホテルプラザ店で活躍。現在は第一園芸を代表するデザイナーとして、Noriko Shimuraブランドを展開。他にも社内スタッフ教育部門の講師、対外的なワークショップ講師、各種商品提案、空間装飾のデザインなどを担当している。

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