第百四十五話 霜降の花絵「銀杏」
2026.10.23
暮life

10月23日から二十四節気は「霜降(そうこう)」に
霜降は秋の最後の節気で、朝晩の冷え込みが強まり、草木に霜が降り始めるころを指します。
露は霜へと姿を変え、木々は赤や黄色に色づき、季節はゆっくりと冬へ。暦の上では、まもなく訪れる立冬を前に、秋の深まりを感じる季節です。
霜降の季節感
■ 十三夜(じゅうさんや)
十三夜は十五夜に続くもうひとつのお月見として親しまれています。2026年は霜降に入る10月23日が十三夜にあたります。別名「栗名月」「豆名月」とも呼ばれ、収穫された栗や豆を供え、実りの秋に感謝しながら月を眺める日本ならではの風習です。
■ 初時雨(はつしぐれ)
霜降の頃になると、晩秋から初冬へ向かう空気の変化とともに「時雨」が見られるようになります。時雨とは、晴れていたかと思えば突然雨が降り、またすぐに晴れるような通り雨のこと。その年にはじめて降る時雨を「初時雨」と呼びます。
冷たい空気をまとった雨に季節の移ろいを感じる一方で、雨上がりの澄んだ空には色づいた木々がいっそう鮮やかに映ります。霜降は、黄葉や紅葉が美しさを増し、秋から冬への橋渡しとなる季節でもあります。
時を重ねて輝く樹 ─ 銀杏(いちょう)
□ 黄葉時期:10月下旬~12月上旬
□ 香り:なし(葉)
□ 学名:Ginkgo biloba
□ 分類:イチョウ科 イチョウ属
□ 別名:ギンキョウ、公孫樹(こうそんじゅ)
□ 英名:Ginkgo、Maidenhair Tree
□ 原産地:中国とされる
銀杏は長い年月を生き抜き、秋になると黄金色の葉で人々を魅了する樹木です。季節の移ろいとともに表情を変えながら、古くから日本の風景や暮らしに寄り添ってきました。
黄葉の美しさはもちろん、秋の味覚として親しまれる銀杏や、長い歴史の中で育まれた文化との関わりもまた、イチョウならではの魅力です。
■名前の由来
イチョウは漢字で「銀杏」と書きますが、樹木そのものは「イチョウ」、種子は「ギンナン」と読み分けられています。
「ギンナン」は漢字の音読みが変化したもの。一方の「イチョウ」は、中国で使われていた呼び名が日本へ伝わるなかで変化したといわれます。ひとつの漢字に二つの読み方が残る、少し珍しい植物です。
また、イチョウといえば特徴的な葉の形も魅力のひとつ。相撲の関取が結う「大銀杏(おおいちょう)」という髷の名は、先端を大きく広げた姿がイチョウの葉に似ていることに由来します。
■起源
イチョウの祖先は約2億年以上前の中生代にまでさかのぼると考えられています。かつては世界各地に近縁種が存在していましたが、現在まで生き残ったのはイチョウのみ。一属一種の極めて希少な植物です。
同じように一属一種の植物はほかにも存在しますが、イチョウは属だけでなく科や目まで含めて唯一現存する種であり、約2億年前から続く系統をたった1種で受け継いでいることから、「生きた化石」と呼ばれています。
原産地は中国とされ、日本へは奈良時代から室町時代頃に渡来したと考えられています。
■生態
病害虫や大気汚染に強く、剪定にもよく耐えることから、古くから街路樹として利用されてきました。
葉は秋になると一斉に黄葉し、まるで地面に黄金のじゅうたんを敷き詰めたような光景を生み出します。
■伝説
中国には、イチョウは長寿や繁栄をもたらす縁起の良い樹木であるという伝承が数多く残されています。
日本でも長寿の象徴として大切にされ、火災や災害から人々を守る「守りの木」として信仰されてきました。
イチョウは水分を多く含み、比較的燃えにくいと考えられていたことから、防火の願いを込めて寺院や神社の境内に植えられたという説もあります。各地に残る「火伏せのイチョウ」も、その名残とされます。
■文化と縁起
黄金色に染まるイチョウは、古くから豊かさや実りを象徴する樹木として親しまれてきました。
特徴的な扇形の葉は、先へ向かって広がる「末広がり」の形に見立てられます。そのことから、繁栄や発展を願う縁起物としても愛されてきました。
秋の景色を彩りながら、人々の願いや祈りとも深く結びつき、今日まで親しまれてきました。
花毎の花ことば・銀杏「時の輝き」
イチョウは長い年月を生き抜きながら、秋になると鮮やかな黄金色へと姿を変えます。その輝きは、積み重ねてきた時の流れが形になったかのようです。
芽吹きの季節から夏の深い緑を経て、ゆっくりと色づいていく姿には、一瞬では生まれない美しさがあります。季節を重ねることで現れる豊かな表情は、イチョウならではの魅力といえるでしょう。
花毎では、長い時間の中で育まれる輝きへの思いを込めて、銀杏に「時の輝き」という花ことばを贈りたいと思います。
文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子
水上多摩江
イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など

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