第九十七話 「十二月 大雪 冬至」
2024.12.07
暮life
冬の色
今年は長距離、移動する機会の多い年でした。
あらためて感じたのは、その土地の季節に合わせて気分が変わること。
人間が季節から受けとる力は強いとわかっていたつもりですが、緯度の違う場所を繰り返し訪れる時間が、そのことをあらためて教えてくれました。
暑さ、寒さ、湿度はもちろん、一枚一枚に現れる葉の色、土の色。
風の吹くリズム、間合い、山全体の色、空気感。
はっきりとしたきれいな色だけが、季節を奏でているわけではありません。
冬の色を味わうには深く息を吐いたあとに訪れるようなしっとりとした時間が必要です。
ぱっと見だけでは感じることのできないその精妙な感覚は、その土の上に立つことでようやく伝わってくるもの。
もしはっきりと感じるものは多くはなかったとしてもひと時の余白を自分に許してあげることによって身体の中には静かに生まれるものを感じることでしょう。
精妙な季節の力と自分の感覚を味わう、静かな冬だからこその楽しみはどんな場所にいっても豊かなひとときを作り出します。
いろいろな土地の季節感と一緒に自分の中に生まれる感覚をそっと知る楽しみ。
冷たい空気の中だからこそ、楽しんでまいりたいと思います。
帯解野紺菊
冬の菊、帯解野紺菊(おびとけのこんぎく)が盛りを迎えています。
深く色づいた河津桜の照り葉と合わせて仏具に入れました。
帯解野紺菊はひらりと花の先が開いているかわいらしく華やかな菊です。
今年の猛暑にはかなり痛みが見られ心配したのですが、寒さが深まるにつれて、生き生きと葉を広げてたくさんの花を咲かせました。
ちなみに帯解と名付けられた理由はよくわからないのですが、行事が好きな人なら「帯解」ということばに七五三を思い起こすことでしょう。
多くは成長したこどもが、大人の帯を結びはじめる大切な節目のことを古くは「帯解」と呼びました。
本格的な冬を迎えようとするはじまりの菊。
一度見たら忘れられない菊です。
常緑のしめ飾り
変化の多い年にはやはり力強い飾りを求めたくなります。
今年は蝦夷松やモミの枝を用いてしめ飾りに添えた玉飾りに。
かたちだけでなく山の香りを放つ、清浄なかたちとなりました。
常緑の枝が入ることにより門松の趣に。
場を清め、年神を迎えるためのしめ飾り。
どうぞみなさまにとってよい師走、よい年となりますように。
広田千悦子
文筆家。日本の行事・室礼研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい稽古を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。
写真=広田行正
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