第百四十三話 処暑の花絵「トルコギキョウ」
2026.08.23
暮life

8月23日から二十四節気は「処暑(しょしょ)」に
「処」には、落ち着く、収まるという意味があり、厳しい暑さが峠を越え、少しずつ秋の気配が感じられる時季を示す節気です。
暦の上では秋へと歩みを進めるものの、実際には残暑がなお厳しい時季。
それでも朝夕に吹く風や、少しずつ早くなる日暮れ、草むらから聞こえる虫の声のなかに、季節が静かに次へと移り始める気配が感じられます。
処暑の季節感
■ 地蔵盆
8月23日、24日ごろ、近畿地方を中心に行われるのが「地蔵盆」です。
道端や辻に祀られたお地蔵さまを清め、提灯や花、菓子などを供えて、子どもたちの健やかな成長や地域の安全を願います。地域によっては数珠回しや盆踊り、福引なども催され、夏休みの終わりを告げる行事として親しまれてきました。
■ 八朔
「八朔(はっさく)」とは、旧暦8月1日を指します。「朔」は新月の日を意味し、転じて月の始まりを表す言葉です。2026年の八朔は、新暦では9月11日にあたります。
稲の実りが見え始める一方、台風などの強い風に注意が必要となる時季でもあることから、かつて農村では田の神に豊作を祈り、風害を避けるための行事が行われました。
京都・祇園では、旧暦の八朔が農作物の実りに感謝する節目の日であったことにちなみ、新暦8月1日に芸妓や舞妓が日ごろお世話になっている師匠やお茶屋へ挨拶に回る風習が、現在も「八朔」として受け継がれています。
■ 二百十日
立春から数えて210日目にあたる「二百十日(にひゃくとおか)」は、農作物に被害をもたらす大風が吹きやすい日として警戒されてきた雑節です。2026年は9月1日にあたります。
ちょうど稲が実り始めるころであるため、二百十日は八朔、二百二十日とともに「農家の三大厄日」とされ、各地で風を鎮め、豊作を願う祭りが行われてきました。
■ 越中おわら風の盆
富山県富山市八尾町では、毎年9月1日から3日に「越中おわら風の盆」が行われます。
ぼんぼりの明かりがともる坂の町を舞台に、編笠を目深にかぶった踊り手たちが、三味線や胡弓の哀調を帯びた音色に合わせて踊ります。その名の通り、風を鎮め、収穫前の稲を災害から守る願いが込められた行事です。
優雅さの奥にある強さ ─ トルコギキョウ
□出回り時期:通年
□香り:なし
□学名:Eustoma
□分類:リンドウ科 ユーストマ属
□別名:ユーストマ、リシアンサス、トルコキキョウ、土耳古桔梗(とるこぎきょう)
□英名:Lisianthus、Eustoma、Texas Bluebell
□原産地:北アメリカ南西部~南部、メキシコ、南アメリカ北部
トルコギキョウは、すらりと伸びた茎の先に、薄い花びらを幾重にも重ねた花を咲かせます。澄んだ花色と気品ある佇まいが印象的な花です。
原種は紫色の一重咲きですが、現在では白、ピンク、紫、黄、緑、アプリコット、茶色など花色も豊富。最近では細かなフリルの入った大輪八重咲きなど、バラと見間違うような品種も出回っています。
繊細でやわらかな印象とは対照的に、切り花として日持ちがよいのも魅力のひとつ。花色や咲き方が豊富なため、ブーケやアレンジメント、贈答用の花など幅広く利用されています。
■ 名前の由来
・トルコギキョウとトルコキキョウ
現在は「トルコギキョウ」と表記されることが多く、『広辞苑』にもこの表記で掲載されています。一方で、生産地や市場では「トルコキキョウ」と表記されることもあり、どちらも同じ花を指します。
しかし、原産地はトルコではなく、植物分類上もキキョウの仲間ではありません。
それにもかかわらず「トルコギキョウ」と呼ばれる理由には、いくつかの説があります。花がトルコ人のターバンを思わせることや、原種の青紫色がトルコ石を連想させること、さらに花姿がキキョウに似ていることなどです。
異国を思わせる「トルコ」と、親しみのある「キキョウ」。その二つが結びつき、日本独自の花名が生まれたと考えられています。
・ユーストマ
トルコギキョウはキキョウの仲間ではないため、植物としての分類に即した「ユーストマ」の名でも広く流通しています。
「ユーストマ」は、現在の属名である Eustoma を日本語で読んだものです。
その名は、ギリシャ語で「よい・美しい」を意味する「eu」と、「口」を意味する「stoma」に由来し、美しい花冠の形を表したものとされています。
・リシアンサス
リシアンサス(Lisianthus)は、かつて園芸の世界で広く用いられていた名称です。現在はEustoma属に分類されていますが、海外では今もリシアンサスの名が広く親しまれています。
■ 日本への渡来
トルコギキョウが日本へ渡来したのは、大正時代から昭和初期にかけてとされています。
当時の花は、現在の姿からは想像できないほど素朴な紫色の一重咲きでした。
戦争の影響で育種が途絶えた時期もありましたが、戦後になると再び研究や栽培が進められました。その後、日本での品種改良によって大きく発展し、今日の多彩な品種へとつながっていきました。
■ 多種多様な品種について
海外の種苗会社が育種を主導する切り花が多いなか、トルコギキョウは日本の種苗会社が世界の品種開発を牽引してきた数少ない花のひとつです。そのため、「アメリカ生まれ、日本育ちの花」と表現されることもあります。
北アメリカ原産のトルコギキョウは、日本での長年の品種改良を経て、世界へと広がっていきました。原種の面影を残す一重咲きから華やかな八重咲きまで、その豊かな表情には日本の育種技術の歩みが映し出されています。
花毎の花ことば・トルコギキョウ「優雅なる強さ」
幾重にも花びらを重ねるトルコギキョウは、華やかさと気品をあわせ持つ花です。すらりと伸びる茎の先で咲く姿には、どこか凛とした美しさがあります。
豪華な花姿からは繊細な印象を受けますが、切り花としては日持ちがよく、一本の茎にいくつもの花を咲かせながら長く楽しませてくれます。
やわらかな美しさの奥に秘めた芯の強さ。その姿に重ね、トルコギキョウへ「優雅なる強さ」という花毎の花ことばを贈ります。
花毎でご紹介しているトルコギキョウのお話
・二十四節気の花あしらい 第三十八話 小暑の花あしらい「トルコギキョウ」
・旬花百科 第七話 「トルコギキョウ」
文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子
水上多摩江
イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など

「銅版画で愉しむ 二十四節気の花ことば 英訳付き」
『二十四節気の花絵』が書籍になりました。
これまでの連載の中から、二十四節気にまつわるお話と、それぞれの節気に合わせて選りすぐった3つの花絵を収録。合計72の花絵と花ことばを、一冊にまとめました。
おやすみ前のひとときなど、心を癒したい時間にぴったりな、大人のための絵本です。英語訳も付いておりますので、海外の方へのギフトにもおすすめです。
WEB連載とはひと味違う、書籍ならではの魅力を、ぜひご堪能ください。
第一園芸の店舗、オンラインショップ、Amazonなどのオンライン書店にてお求めいただけます。
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