第三十八話 小暑の花あしらい「トルコギキョウ」
2024.07.06
暮life
日本では季節の変化を敏感に感じ取り、年中行事や習わしに添った植物を暮らしに取り入れてきました。
「二十四節気の花あしらい」では難しいルールにとらわれず、気軽に季節を感じられる花を楽しむテクニックを第一園芸のトップデザイナー、新井光史がご紹介いたします。
2024年7月6日から二十四節気は小暑に
小暑(しょうしょ)とは、本格的な夏のはじまりを表した節気です。暑中見舞いを出すのもこのころからで、次の節気の大暑(たいしょ)の最終日までが「暑中」にあたります。
今回は気温が高い時期でも美しい花を楽しめる、トルコギキョウを使った花あしらいをご紹介します。
今では一年中出回り、さまざまな色や咲き方があるトルコギキョウですが、1970年代には原種に近い紫の一重咲きが主流でした。その後、日本で品種改良が進み、ブーケやアレンジメントに欠かせない花となりました。
また、トルコギキョウにはいろいろな名前があり「トルコキキョウ」「リシアンサス」「ユーストマ」とも呼ばれています。
ちなみに、トルコギキョウ(トルコキキョウ)の名前は日本独自のもので、実はトルコ原産でも、キキョウの仲間でもありません。名前の由来はターバンを巻いたような花の形や、トルコ石の色似ている、または原種がキキョウに似ているからなど所説あります。
花をたっぷり使って贅沢に
バラに勝るとも劣らない華やかさがあるトルコギキョウを贅沢にたっぷり使った花あしらいです。
とてもたくさんの花が入っているように見えますが、使用したのはブラウンの「アンバーダブルショコラ」、サーモンピンクの「小夏オレンジ」、紫の「アンバーダブルパープル」、それぞれ5本程度です。
トルコギキョウは決して安い花ではありませんが、1本に3、4輪花が付いている上にとても日持ちがするので、実はコストパフォーマンスがよい花です。
いろいろな花との相性がよいので、先ほど生けたものに「チューリップ咲きのクレマチス」「ブラックベリー」「半夏生」をプラスしました。
形の違う花や実ものが入ると複雑さが増して、より見ごたえがでます。
色の美しさを楽しむ
トルコギキョウにはさまざまな色がありますが、複雑なフリルの花びらとくすんだ色はこの花ならではの魅力。そんな色の美しさを楽しむために、ここではブラウンと紫の花を組み合わせて、大人っぽい花あしらいにしましたが、カラーバリエーションが豊富な花ですので、濃淡や反対色など洋服をコーディネートするように、色合わせを楽しんでみてください。
紫の花だけにしてみると、とてもシックな仕上がりに。お好きな色を1色だけ、というのも素敵ですね。(黄緑色の花はつぼみです)
ブラウンのトルコギキョウには姫水木とブラックベリーを組み合わせました。
茶系の花は組み合わせが少しむずかしく感じるかもしれませんが、合わせる植物の色のトーンを合わせると、お互いを引き立てあう花あしらいになります。
ここまでに使用した花器は縦横18cm程度の寸胴型で、シリンダーとも呼ばれるものです。こうしたシンプルな花器は花のサイズやボリューム感を問わずに使いまわせるので、ひとつ持っているととても便利なアイテムです。
小さな花あしらい
ここからはトルコギキョウを少ない本数で楽しむ、花あしらいをご紹介します。
先ほどもお伝えした通り、トルコギキョウは1本に数輪の花が付いているので、1本を小分けしても楽しめる花です。
和風の一輪挿しには、小分けしたトルコギキョウに「シモツケ」と「半夏生」を添えました。
小さな花あしらいの場合には、茎のラインを活かすように、片側に流して生けるとバランスよく見えます。こうした場合、細い茎は花器の中で動いて生けにくいことがあります。最初に花器の口元に花をかたまりにしておくと花留めにもなりますので、細い茎の花や草が狙った位置に配置しやすくなります。
口の広い器にトルコギキョウをあしらいました。
器の色にあわせて、ブラウンの花を選んで、形がユニークなピンクのクレマチスをアクセントに添えています。
器の中に見えているのは木の根で、花あしらいの一部を兼ねた花留めとして使っています。
なかなかこうした物はお持ちではないと思いますが、例えば器に入るサイズの石ころ、枝など身近なものも花留めになります。
口の広い器に、少ない本数の花を生けるのは難しく感じられるかもしれませんが、この花あしらいのように、花留めも景色のひとつとして考えながら生けてみると、意外な発見があって楽しみが広がります。
小さな一輪をひとまとめに
色も形もバラバラな器に、お手入れなどで短くなったトルコギキョウと、この季節ならではの「ヒューケラの花」と「スモークツリー」も一緒にトレイに載せて飾りました。身近にある枝や草を添えると季節感が出るので、ぜひお試しください。
トルコギキョウは枝を長く使って生けたいときなどに脇枝をカットする必要がある場合があります。そんなときに切った一輪や、お手入れで切り戻すうちに短くなった一輪を活かしましょう。
器は違っていた方がむしろ面白味があります。ここでは先ほど使用した枝ものを脇枝も加えてさらに賑やかにしていますが、もちろん花だけでも十分素敵です。
最後にご紹介するのは、皿を使った花あしらいです。
手前は大小異なるサイズの皿を2枚重ねて、奥は小皿と同じサイズ石ころをのせて花留めにしてみました。どちらも隙間に花を差し込んでいるだけです。
紫のトルコギキョウに合わせたのは「青ぶどう」です。これは花材として花屋で売られているものですが、もちろん食用のフルーツでも。意外なものを花と組み合わせて楽しむ、そんな花あしらいです。
「トルコギキョウ」の基本情報
□出回り時期:通年
□学名:Eustoma
□分類:リンドウ科トルコギキョウ属(ユーストマ属)
□和名:トルコギキョウ/トルコキキョウ(土耳古桔梗)
□別名:ユーストマ、リシアンサス
□英名:Lisianthus、Eustoma、Texas Bluebell
□原産地:北アメリカ南西部~南部、メキシコ、南アメリカ北部
□花言葉:「すがすがしい美しさ」「永遠の愛」「希望」など
花毎でご紹介しているトルコギキョウのお話 旬花百科 第七話 「トルコギキョウ」
新井光史
神戸生まれ。花の生産者としてブラジルへ移住。その後、サンパウロの花屋で働いた経験から、花で表現することの喜びに目覚める。
2008年ジャパンカップ・フラワーデザイン競技会にて優勝、内閣総理大臣賞を受賞し日本一に輝く。2020年Flower Art Awardに保屋松千亜紀(第一園芸)とペアで出場しグランプリを獲得、フランス「アート・フローラル国際コンクール」日本代表となる。2022年FLOWERARTIST EXTENSIONで村上功悦(第一園芸)とペアで出場しグランプリ獲得。
コンペティションのみならず、ウェディングやパーティ装飾、オーダーメイドアレンジメントのご依頼や各種イベントに招致される機会も多く、国内外におけるデモンストレーションやワークショップなど、日本を代表するフラワーデザイナーの一人として、幅広く活動している。
著書に『The Eternal Flower』(StichtingKunstboek)、『花の辞典』『花の本』(雷鳥社)『季節の言葉を表現するフラワーデザイン』(誠文堂新光社)などがある。
花毎でお楽しみいただける新井の連載 夢の花屋
Text・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子
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