第百二十話 秋分の花絵「ホトトギス」
2024.09.22
暮life
2024年9月22日から二十四節気は「秋分」に
春分と同じく昼と夜の長さがほぼ等しくなる日です。
二十四節気の中でも重要とされる「二至二分*」にあたり、天文学上での四季を分ける指標となる節気です。
*二至二分:春分・夏至・秋分・冬至
秋分の季節感
月の名前
旧暦8月の十五夜に行われる「中秋の名月」は、一年でもっとも月が美しく見えるといわれています。
なぜ、このときが名月であるかというと、秋は気温が下がって空気が乾燥するため、チリやホコリが大気中に少ないことと、月の高さがほどよいため(夏の満月は低く、冬の満月は高い)、大きく光り輝いて見えるという理由からなのです。
ちなみに、十五夜は新月から15日目の月を指し、ほぼ毎月*起こりますが、1日ずれることも多く、かならずしも満月ではありません。
こうして月に名前を付けるのは日本のみならず、ネイティブアメリカンも季節の移り変わりを掴むために毎月の満月に名前を付けています。
1月「ウルフムーン Wolf Moon」
獲物の少ない時期に飢えたオオカミの遠吠えがよく聞こえるようになるから。
2月「スノームーン Snow Moon」
雪がよく降ることから。狩りができないことから別名では「ハンガームーン Hunger Moon」とも。
3月「ワームムーン Worm Moon」
ミミズなどの虫が活動をはじめることから。
4月「ピンクムーン Pink Moon」
シバザクラなどのピンクの花が咲くことから。
5月「フラワームーン Flower Moon」
花が咲き誇る時期であることから。
6月「ストロベリームーン Strawberry Moon」
北米でのイチゴの収穫期にあたることから。
7月「バックムーン Buck Moon」
雄鹿(Buck)の角が生え変わる時期であることから。
8月「スタージェンムーン Sturgeon Moon」
北米の五大湖などでチョウザメ(Sturgeon)漁が盛んになる時期にあたることから。
9月「ハーベストムーン Harvest Moon」
農作物の収穫期にあたることから。別名「コーンムーン Corn Moon」
10月「ハンターズムーン Hunter’s Moon」
狩猟の時期のはじまりにあたることから。
11月「ビーバームーン Beaver Moon」
ビーバーの毛皮を確保するために罠を仕掛ける時期であることから。または、ビーバーが巣づくりをはじめる時期という説も。
12月「コールドムーン Cold Moon」
本格的な寒さの到来の時期であることから。
気候が異なるため多少のずれはあるものの、気象や生きものに対する捉えかたは二十四節気にも通じているようです。
*月の満ち欠けの周期はおよそ29.5日のため、2月に満月がない年があります。
「ホトトギス」
□出回り時期(切り花):8~10月
□香り:なし
□学名:Tricyrtis hirta
□分類:ユリ科 ホトトギス属
□和名:杜鵑草(ほととぎす)、油点草(ゆてんそう)
□英名:Toad Lily
□原産地:日本、東アジア
夏から秋にかけて花を咲かせる、主に太平洋側の半日陰に自生する植物です。
19種が東アジアに分布。日本には12種類あり、その内10種が日本の固有種です。
名前の由来
花弁の模様が渡り鳥である「ホトトギスの胸の模様」に似ていることから名付けられました。漢字では鳥の「杜鵑」と区別するため「杜鵑草」と表記します。
別名は「油点草(ゆてんそう)」で、これは若葉に油が染みたような模様が入ることに由来していますが、品種によって模様の有無や生じ方は異なります。
英語では「Toad Lily=ヒキガエルの百合」の名が付けられていて、こちらもヒキガエルの模様に由来しているようです。
さまざまな品種
一般的に知られているのは紫と白の斑模様の花で、切り花として扱われるものの多くは「タイワンホトトギス」です。
原種は19種あるとされますが、園芸品種はさらに多彩で白や黄の他にもピンクや複色などの花色も。どのホトトギスも斑や色の入り方が微妙に異なるのが魅力で、趣味性の高い植物ですが、それゆえに乱獲の対象となり、多くの原種が絶滅危惧種に指定されています。
ホトトギス属の19あるとされる種は花色、花形、茎の毛の違いで4つのグループに分類されています。ここでは日本固有種10種を含む、日本に分布する12種をご紹介します。
【ジョウロウホトトギス節】(全3種)黄色い釣鐘状の花
ジョウロウホトトギス*、キイジョウロウホトトギス*、サガミジョウロウホトトギス*
【キバナノホトトギス節】(全4種)黄花で上向きの花×茎にほぼ直角で生える毛
キバナノホトトギス*、キバナノツキヌキホトトギス*、タカクマホトトギス*、チャボホトトギス
【ホトトギス節】(全5種)白花で上向きの花×茎に斜め上向きで生える毛
ホトトギス、タイワンホトトギス**
【ヤマホトトギス節】(全7種)白花または黄色の花×茎に斜め下向きで生える毛
ヤマホトトギス**、セトウチホトトギス、タマガワホトトギス、ヤマジノホトトギス
参考文献:国立科学博物館、環境省レッドリスト2020
*または**の付いた品種は環境省レッドリスト2020に記載
**は日本以外にも分布
花毎の花言葉・ホトトギス「審美眼」
花が少なくなる秋に、繊細な色柄の趣ある花を咲かせることからか「杜鵑草」の語は白露から秋分の時季にあたる仲秋の季語であり、一輪でも印象的な佇まいから、茶室の花としても古くから親しまれている数寄者好みの花です。
一方、ホトトギスに付けられた一般的な花言葉は、花が途切れることなく長く咲いていることから「永遠にあなたのもの」や、日陰を好む性質からか「秘めた思い」とされています。
野に咲くホトトギスは花の斑点が迷彩模様のようでもあり、気にしなければ景色に埋もれてしまうような花です。しかし、自然をじっくりと観察する気持ちがあれば、静かに主張するこの花の存在に気づくことでしょう。さらに近寄ってみれば、複雑な花の構造とそれを彩る色や柄に心惹かれてしまうかもしれません。
誰にでも見つけられるものではない美。
そんな花ともいえるホトトギスには「審美眼」という、花毎の花言葉を贈りたいと思います。
文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子
水上多摩江
イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など
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