第百二十一話 霜降の花絵「フランネルフラワー」
2024.10.23
暮life
2024年10月23日から二十四節気は「霜降」に
霜が降り始めるころを表した、秋最後の節気です。
秋の節気には雨冠がつく節気が三つ*もあり、ひと雨ごとに秋が深まるといわれる秋の天候が表現されています。
また、江戸時代に書かれた二十四節気の解説書『暦便覧』での霜降の説明には『つゆが陰気に結ばれて、霜となりて降るゆへ也』とあります。ひとつ前の節気「寒露」の露がより冷えた空気によって霜へと変化していく様子が表され、細やかに移ろいながら繋がる季節の様子が伝わってくるようです。
*白露、寒露、霜降
霜降の季節感
酉の市
酉の市(とりのいち)は毎年11月の酉(とり)の日に、おもに関東の鳥にゆかりのある神社仏閣で、商売繁盛や開運を願って行われる晩秋の風物詩ともいえるお祭りです。
他のお祭りと違い、一の酉、二の酉、場合によっては三の酉というように、11月の酉の日の回数にあわせて複数回開催されますので、年によって異なるのが特徴です。
しかし、酉の日といわれてもグレゴリオ暦のカレンダーに慣れた現代人には実感がわかないかもしれません。
かつての日本では甲、乙、丙…などの十干(じっかん)と、干支でおなじみの十二支を組み合わせて周期的に60までの数を数える「六十干支(ろくじっかんし)」が年や日数を表すものとして日常的に使われていました。そのため、酉の日などの六十干支はいまよりずっと身近なものだったようです。
そして、2024年の酉の市は三の酉まである年で、一の酉が11月5日(火)、二の酉が11月17日(日)、三の酉が11月29日(金)となっています。
特に規模が大きなお祭りは、浅草の鷲神社・長國寺、新宿の花園神社、府中の大國魂神社で、三大酉の市とされています。
「フランネルフラワー」
□出回り時期:通年
□開花時期:4月~6月、9月~12月
□香り:なし
□学名:Actinotus helianthi
□分類:セリ科 アクチノータス属
□英名:Flannel flower
□原産地:オーストラリア
オーストラリアの東部、ニューサウスウェールズ州とクイーンズランド州の海岸沿いにある砂岩の荒野や低木林、乾燥した硬葉樹林に自生する植物です。
フランネルフラワーを含むアクチノータス属は15~20種があるとされ、ほとんどがオーストラリアの固有種であり、(1種のみニュージーランドの固有種)さらに、そのうち5種はニューサウスウェールズ州の固有種です。こうしたことから同州を象徴する植物としてSydney* Flannel Flowerと呼ばれることもあるほど、親しまれています。
この花がはじめて世に紹介されたのはおよそ200年前、フランスの植物学者ジャック=ジュリアン・ラビヤルディエールの『Novae Hollandiae Plantarum Specimen』(1805年)という、オーストラリアの植物相について書かれた著書で命名され、記述されました。
*シドニーはニューサウスウェールズ州の州都
名前の由来
細かい毛が密生する花や葉の質感が、起毛し、やわらかく軽いフランネル生地に似ていることから「フランネルフラワー」の名前が付けられました。
よく似た名前の植物に葉や茎が起毛している「フランネルソウ」がありますが、こちらはナデシコ科の植物で正式名は「スイセンノウ」といい、花の姿も科も全く異なります。
また、属名のActinotusはギリシア語の「放射状」または「車輪のスポーク」に由来していて、花(苞)の形状を表し、種小名のhelianthiはヒマワリ属に似ていることに由来しています。
花の特徴
菊の仲間や、エーデルワイスに似た花が咲きますが、セリ科の植物です。花弁に見える部分は「苞」で、本来の花はセリ科の特徴でもある散房花序(さんけいかじょ)となり、中心部に柄をもつ花が放射状*につきます。
ユーカリやバンクシアなど、オーストラリア原産の植物には山火事の熱などによって発芽が促進される特徴を持つ植物がありますが、珍しいピンク色のフランネルフラワー(Actinotus forsythii)もその一種です。
シドニー近郊にあるブルーマウンテン国立公園で2019年から2020年に起きた大規模な山火事の後、長年休眠状態にあったこの花が「煙」で発芽が促進されたようで一斉に開花したとのニュースがありました。
*セリ科のレースフラワー、アストランティア、ディルなども散房花序の特徴があります。
フランネルフラワーの名所
オーストラリアでは、ほぼ一年中フランネルフラワーが咲いていますが、一番の見ごろは春にあたる9月から11月ごろです。ニューサウスウェールズ州内に何か所もある国立公園で出会えますが、中でも同州のバディ国立公園には約1.5kmに渡る「フランネルフラワー ウォーキングコース」があり、ユーカリの森の中を歩きながら花ざかりのフランネルフラワーを楽しめるそうです。
花毎の花言葉・フランネルフラワー「自立心」
フランネルフラワーの一般的な花言葉は、花の印象から付けられたと思われる「高潔」「誠実」、長く咲き続けることから「いつも愛して」などがあります。
さて、日本でフランネルフラワーを庭や鉢植えなどで育てる場合、春と秋の二度開花しますが、暑さや寒さなどに弱いため長期間育てるのがなかなか難しい植物です。
しかし、原産地のオーストラリアでは砂岩の荒野といった他の植物には厳しい環境が生育に適している上に、まだ未解明ではあるものの山火事をきっかけに発芽する品種があるなど、ヒトが関わらない状況でこそ生き生きと育つたくましい植物でもあります。
そんな見た目の優し気な雰囲気からはわからない、実はワイルドな環境でこそ生命力を発揮するフランネルフラワーには「自立心」という、花毎の花言葉を贈りたいと思います。
文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子
水上多摩江
イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など
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