二十四節気の花絵

イラストレーターの水上多摩江さんが描いた季節の花に合わせた、
二十四節気のお話と花毎だけの花言葉。

第九十五話 処暑の花絵「竜胆」

2022.08.23

life


2022年8月23日から二十四節気は「処暑」に

処暑(しょしょ)とは暑さがおさまるという意味の、秋二番目の節気です。
まだまだ暑さは盛りのように感じますが、東京の日ごとの最高気温平均値をみてみると、処暑が始まる8月23日の最高気温は31度、最終日の9月7日は29.3度で、徐々に気温が下がっていることがわかります。
暑過ぎた季節ももうすぐ終わり。
ここからは夏から秋へ向かう、季節のグラデーションを楽しみたいものです。

二百十日
古代中国で発祥した二十四節気ですが、農耕を行う上で掴み切れない日本特有の気候の変化を知るために補う目的で作られた暦に「雑節(ざっせつ)」があります。
「二百十日(にひゃくとおか)」はその雑節のひとつですが、その名の通り、立春を起算日として210日目(立春の209日後の日、2022年は9月1日)のことで、暦の上でこの日は台風や風が強く天候が荒れやすい日とされています。
他にも国立天文台の暦要項には表されていませんが、二百二十日(にひゃくはつか・9月11日)と八朔(はっさく・8月下旬〜9月頃)が農家の三大厄日とされており、農耕への注意を促す目的とした日本特有の暦のひとつとされてきました。
実際の台風の特異日は9月16~17日、9月26~27日とされていますが、地球が太陽の周りを巡る周期を基につくられた二十四節気や雑節は古の時代から大きなずれはなく、現代にも通じる暦ともいえそうです。


「竜胆」

□出回り時期(切り花): 6月~11月
□香り:なし
□学名:Gentiana scabra var. buergeri
□分類:リンドウ科 リンドウ属
□和名:竜胆
□英名:Japanese gentian
□原産地:日本、中国、朝鮮半島など

竜胆(リンドウ)の名前の由来は中国で、「葉は竜葵(リュウキ=イヌホウズキ)に似て、味は肝のように苦い」という意味で名付けられ、日本では「竜胆(リュウタン)」が転じてリンドウになったともいわれています。
根に薬効があることは古代エジプト時代から知られており、現在でも薬用として用いられています。

秋の山野草
主な原産地である日本には約20種類の自生種があり、園芸種などを含めるとさまざまな品種が存在しています。
草丈は10cm以下のものから、切り花として出回る60cm程度のものなど幅広く、花色は青紫、白、ピンクなどですが「トウヤクリンドウ」は高山に生え、リンドウとしては珍しい淡い黄色の花を咲かせます。

古典文学
平安時代からおよそ千年に渡って読み継がれる「枕草子」と「源氏物語」にもリンドウが登場します。

「龍膽は、枝ざしなどもむつかしけれど、こと花どものみな霜枯れたるに、いとはなやかなる色あひにてさし出でたる、いとをかし」

清少納言『枕草子』~草の花は

〈リンドウの枝ぶりは好みではないけれど、他の花が霜で枯れてしまった中で色鮮やかに咲く姿が素敵〉

「枯れたる草の下より、龍胆の、われひとりのみ心長うはひ出でて、露けく見ゆるなど、皆例のこのころのことなれど、 折から所からにや、いと堪へがたきほどの、もの悲しさなり」

紫式部『源氏物語』~夕霧の帖

〈枯れた草の中からリンドウが茎を長く伸ばして、露に濡れて見えるのはこの時季ならではだけれども、とても物悲しい〉

名所
リンドウは基本的に群生せず、1本ずつ咲きますが、長野県の入笠湿原五味池破風高原自然園では8月下旬から9月にかけて野山に広がるエゾリンドウが見ごろを迎えます。


花毎の花言葉・竜胆「孤高の美」

一般的な花言葉は「悲しんでいるあなたを愛する」や「誠実」など。リンドウは群生せずに1本で咲くことからか、こうした花言葉がつけられたようです。
清少納言と紫式部は奇しくも同じように、他の花が枯れた中で鮮やかな花を咲かせると記していて、千年前も独り佇むように咲く姿にさまざまな想いを馳せていたことがわかります。
過ぎゆく季節への物悲しさを振り切るような鮮やかな花を、群れず、天に向かって咲かせるリンドウに「孤高の美」という花毎の花言葉を託したいと思います。

文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子

水上多摩江

イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など