二十四節気の花絵

イラストレーターの水上多摩江さんが描いた季節の花に合わせた、
二十四節気のお話と花毎だけの花言葉。

第九十四話 大暑の花絵「向日葵」

2022.07.23

life


2022年7月23日から二十四節気は「大暑」に

大暑(たいしょ)とは、一年で最も気温が高い季節を表した節気です。
例年通りであれば晴天の真夏日が続くころですが、2022年は梅雨明け宣言こそ最短だったものの、また梅雨が戻ったかのような空模様。しかし、大暑ならではの厳しい暑さは、まさに「暑中」といった日々です。
この暑中の時季にやりとりされる暑中見舞いは、小暑の始まりの日から大暑の終わる日までの「暑」がつく期間にお相手を見舞う、日本ならではの細やかな気配りを感じる習慣です。
そして、この夏最後の節気が明けると暦は秋を刻みはじめます。

夏土用
年に四回ある土用とは、季節の変わり目を意味する雑節(ざっせつ)で、暦の上で四季が変わる前日までの約18日間を指します。
土用丑の日が有名な「夏の土用」は大暑の最終日までとなり、2022年の夏土用の期間は7月20日から8月6日となります。
夏に限らず、土用の期間は土いじりなどを避けるといった言い伝えがありますが、これは季節の変わり目で体調に変化が起きやすい時季、身体を休ませるために古の人が編み出した生活の知恵といえそうです。

祇園祭と檜扇
大暑の時季には日本三大祭りの一つである祇園祭が行われます。
祇園祭は京都・八坂神社の祭礼で、7月1日の「吉符入」に始まり7月31日の「疫神社夏越祭」まで、およそ一か月にわたって行われる京都の夏の風物詩です。
この祇園祭の期間中、京都では厄除けとして「檜扇(ヒオウギ)*」の花を飾る習慣があります。これは、古代より扇はあおぐことで悪霊を祓うと考えられていたことに由来し、葉が扇状に広がるヒオウギが宮中で用いられた檜扇に形が似ていることから、厄除けとしてこの花が飾られるようになったようです。

*□開花期:7月~8月 □学名:Belamcanda chinensis □分類:アヤメ科


「向日葵」

□出回り時期(切り花):通年(最盛期は6月~9月)
□香り:なし
□学名:Helianthus annuus
□分類:キク科ヒマワリ属
□和名:向日葵(ヒマワリ/ヒュウガアオイ)、日輪草、など
□英名:Sunflower
□原産地:北アメリカ

長い歴史のある花
紀元前から北アメリカで食用として栽培されていたとされる、人との関わりが長い植物です。その種がスペインに渡り、長い時を経て世界各地に広まりました。
日本には17世紀末に伝来したとされていて、日本最初の園芸書である1681年に刊行された『花壇綱目(かだんこうもく)』に当時の名であった「丈菊(じょうぎく)」の名で記述が残されています。
このように向日葵は江戸の園芸ブームの頃に既に伝来していたものの、大きな向日葵の花は小型の植物を好んだ当時の人々には好まれなかったようです。

絵画になった向日葵
江戸中期以降になると伊藤若冲が1759年に『向日葵雄鶏図』を、葛飾北斎は1847年に『向日葵図』、その他、酒井抱一と鈴木其一は制作年こそ不明ですが向日葵を描いています。
海外ではクロード・モネ『Bouquet of Sunflowers』(1881年)、フィンセント・ファン・ゴッホ『ひまわり』(シリーズ・1888年~1890年)、ポール・ゴーギャン『ひまわりを描くゴッホ』(1888年)などがありますが、いずれも日本の画家たちが描いたより後に描かれています。
和洋を問わず、絵画界の大スターたちがこぞって向日葵を描いており、彼らにとっては魅力的なモチーフだったことがわかります。


花毎の花言葉・向日葵「光を照らす」

向日葵の一般的な花言葉は「あなただけを見つめる」「憧れ」などです。これは向日葵の花が瞳に見えることや、太陽の方向*を追いかけて向きを変えるといったイメージから付けられたと推測できそうです。

このように光を追いかけると思われがちな向日葵ですが、かつて貴重な栄養源であることを発見した時、古今東西の芸術家がこぞって描いた時、いまの私たちが夏の畑や花屋で見つけた時、むしろ向日葵はその時々に人の心を明るく照らす、太陽のような存在であるように感じるのです。だからこそ「希望の光」という花言葉を、動きを止め満開になったこの花に捧げたいと思います。

*実際の向日葵の生態は蕾が出来始めたころは茎が光に反応して動きますが、開花時には動きは止まっています。

文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子

水上多摩江

イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など