第八十四話 白露の花絵「スカビオサ」
2021.09.07
暮life
2021年9月7日から二十四節気は「白露(はくろ)」に
秋、三つ目の節気がはじまりました。
白露とは、朝晩の冷えた空気が露となる様子を表した節気です。
この節気を表すが如く、2021年の東京周辺は秋雨が残暑から一転して晩秋のような涼しさを連れてきました。
秋雨は秋霖(しゅうりん)や芒梅雨(すすきつゆ)とも呼ばれ、8月の終わりから10月の始めに降る雨ですが、この時季と6月の梅雨を含めて季節を「六季」とする説もあります。
春、梅雨季、夏、秋霖季、秋、冬…こうして並べてみると字面も読みも違和感がありますが、現在の天候には六つの季節の方がしっくりくるようです。
「スカビオサ」
□出回り時期:一年中
□香り:なし
□学名:Scabiosa
□分類:スイカズラ科(旧マツムシソウ科)マツムシソウ属
□和名:松虫草 (まつむしそう)
□英名:Scabiosa
□原産地:地中海沿岸、アジアほか
どんな花?
スカビオサは世界中に約80種類が分布する花です。
品種により開花期は異なりますが、多くは春と秋に見ごろを迎えます。
松虫草
日本ではその一種である松虫草(マツムシソウ)が自生。
秋の季語にもなっているこの花の名の由来には諸説あり、コオロギの仲間であるマツムシが「チンチロリン」と鳴く時季に咲くからという説や、歌舞伎などに使われる和楽器の松虫に花の形が似ているという説などがあります。
中村浩氏の著作「植物名の由来」によると、前出の和楽器の原型である仏具の伏鉦(ふせがね)が松虫鉦と呼ばれ、その形が松虫草の花後の姿(水上さんが描いた左端の一輪です)にそっくりであることから、この名が付いたと記されています。
花のかたち
開花期、草丈、ライフサイクルなどが品種によって異なるスカビオサですが、特徴的な花の形はほぼ共通しています。開花前の中心部は粒状のつぼみが密集して針山のように丸く盛り上り、開花すると筒形の花に変化、それを取り囲むように長く伸びた薄いフリル状の花弁が取り囲んで雪の結晶のような形になるもの、もしくは中心部が大きく、囲む花弁が小さいタイプのどちらかです。
スカビオサの実
花が散った後にサッカーボールのような実になる「スカビオサ・ゴールドフィンガー」という品種もあり、別名「ステルンクーゲル」(ドイツ語で“星の玉”の意味)と呼ばれ、ユニークな姿が人気です。
花毎の花言葉・スカビオサ「明日は違う日」
スカビオサには「不幸な愛」「私は全てを失った」「寡婦」といった、とても悲しい花言葉が付けられてきました。
西洋では紫色は高貴なイメージと共に、悲しみを表す色としても捉えることから、青紫の花色のスカビオサにこうした花言葉が付けられたようです。
日本ではこうしたイメージを払拭するためか「風情」という花言葉も付けられました。
当時のスカビオサといえば青紫が主だったと思われますが、現在では白、黄、赤、ピンク、グリーン、黒などカラーバリエーションがとても豊富な花になりました。
針金のような細い茎と繊細な花弁はどこか儚げですが、切り花でも1週間程きれいに咲き、新品種も次々誕生。根付いたものであれば、長い期間次々と花を咲かせ、こぼれ種で増える強さがあります。
時を経て、現在目にするスカビオサは「儚げ」というより、個性的な魅力があふれています。そんなスカビオサには時代背景から付けられたであろう、悲しい花言葉とは真逆な言葉を託したいと思いました。
「明日は違う日」Tomorrow is another day、たとえ全てを失っても明日は明日の風が吹きます。
文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子
水上多摩江
イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など
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