二十四節気の花絵

イラストレーターの水上多摩江さんが描いた季節の花に合わせた、
二十四節気のお話と花毎だけの花言葉。

第八十八話 小寒の花絵「福寿草」

2022.01.05

life

2022年1月5日から二十四節気は「小寒」に

小寒は「寒」の字に表される通り、気温の区分による節気であり、ここから大寒の最終日(2021年は2月3日)までが一年で最も寒い時季とされる寒の内です。
小寒には1月1日の正月(大正月)に対して「小正月(こしょうがつ)」と呼ばれる行事があります。
期間は地域によって異なりますが、1月15日、または14日から16日までの3日間、元日から15日までの期間が小正月とされています。かつてはこの日までを正月として、門松を飾っていたそうです。

埼玉県の秩父地域ではこの小正月のことを「花正月」と呼び、成長の早いニワトコの枝の節を16か所、薄く削って作る「十六花(じゅうろくばな)」を小正月飾りとして玄関や神棚に飾る風習が残っています。
ちなみにこうした花は「削り花(けずりばな)」と呼ばれ、春のお彼岸に花が間に合わない寒冷地で生花の代りとして手向けていたといった背景がありました。
かつては農作業の閑散期に手作りされた削り花は、無垢のままだったり、着色をしたりと、作り手や地域によってさまざまな姿の花が生まれましたが、生花が簡単に入手できるようになったことや、作り手が少くなったことで、こうした風習も途絶えつつあるようです。
生花の美しさは言わずもなが、花を手向けたいという気持ちで作られた「削り花」には、民藝として、また込められた気持ちの両方の美しさがあるのではないでしょうか。


「福寿草(ふくじゅそう)」

□開花期:1月~4月(屋外では2月~)
□香り:微香
□学名:Adonis ramosa
□分類:キンポウゲ科フクジュソウ属
□和名:元日草(がんじつそう)、朔日草(ついたちそう)
□英名:Amur adonis、Pheasant’s eye、Forked-stem adonis
□原産地:日本などの東アジア

旧暦の正月近く、花の少ない2月ごろに黄金の花を咲かせることから、福告ぐ草(ふくつぐそう)と呼ばれていたのが転じて福寿草という名が付けられました。今ではこの福寿草の名が一般的ですが、江戸時代には元日草や朔日草、賀正蘭といった正月にちなんだ名でも親しまれていたようです。

福寿草は江戸時代に人気を博し、独自の発展を遂げた「古典園芸植物」の一つで、黄色だけではなく、赤、白、八重咲など、さまざまな品種が作り出されました。
現在でもオレンジや白、緑などの花色や独自の咲き方をする花が受け継がれています。

神話の中の福寿草

学名に付けられたAdonis ramosaとはギリシャ神話に登場するアドニスに由来しています。
アドニスは愛と美の女神アフロディテと冥界の女王ペルセポネが奪い合うほどの美青年でしたが、そのことからアフロディテの愛人である軍神アレスの怒りを買い、猪に姿を変えたアレスが狩りに熱中していたアドニスを突いて殺してしまいます。その時にアドニスが流した血から花が咲いたのが福寿草なのですが、いつの間にか福寿草と同じキンポウゲ科のアネモネが入れ替わってしまったともいわれています。

また、アイヌの民話ではクノウ(クナウ)という名の霧の女神が、親の言いつけでテンの神(モグラという話もあります)と無理やり結婚を約束されてしまい、嫌がったクノウが霧となって隠れたものの、怒ったテンの神に見つかり福寿草にされてしまったのです。
ただ、テンが冬眠する季節だけ、雪の間から顔を出して天を仰いだことから、アイヌの人々はこの福寿草をクノウと呼ぶようになったそうです。


花毎の花言葉・福寿草「永遠の一瞬」

 

その名の通り、一般的な福寿草の花言葉は「幸せを招く」、「永久の幸福」といった幸運に関するものと、アドニスに由来する「悲しき思い出」というものがあります。
日本と西洋で花のとらえ方がずいぶん違うのが面白いところですが、色のない世界に表れる金色の花に幸福を見出す感性に、やはり心が動きます。

春をいち早く告げる福寿草はスプリング・エフェメラル(Spring ephemeral)=春の儚いもの、もしくは春の妖精とも呼ばれる植物のひとつで、他の植物が生い茂るころには地上から消えて、また翌年花を咲かせるために地下でエネルギーを蓄えます。

こうして華やかに咲き誇る花が出る前の一瞬、約束したかのようにひっそりと咲き、消え、毎年それを繰り返す福寿草に、いにしえの人々も現代に生きるわたしたちも永遠を見出すのかもしれません。

 

文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子

水上多摩江

イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 琵琶湖の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など