二十四節気の花あしらい

旬の花を最後の一輪まで楽しみつくしませんか?
気軽に季節を感じる「花あしらい」のテクニックをご紹介。

第六十三話 小暑の花あしらい「百合」

2026.07.07

life

日本では季節の変化を敏感に感じ取り、年中行事や習わしに添った植物を暮らしに取り入れてきました。
「二十四節気の花あしらい」では難しいルールにとらわれず、気軽に季節を感じられる花を楽しむテクニックを、第一園芸のトップデザイナー・新井光史がご紹介します。


2026年7月7日から二十四節気は小暑に

小暑とは、本格的な夏の到来を前にした節気です。

この時季、関東では梅雨明けを待ちながら、夏の気配が日ごとに濃くなっていくころでもあります。暑さはこれからが本番ですが、いまはまだ朝夕にはどこか涼やかな風が感じられるときです。

そんな小暑の頃、ひときわ凛とした美しさを見せるのが百合です。

大きく花を開く華やかな園芸品種だけでなく、この時季には乙女百合や笹百合といった、日本の野山に自生する可憐な百合も、わずかな期間だけ旬を迎えます。
力強さと繊細さをあわせ持つ百合は、本格的な夏の始まりを静かに告げてくれる花のひとつです。

今回使用した百合の多くは、限られた時季にしか出回らない旬の品種です。カサブランカのような定番品種とはひと味違う、原種や原種系ならではの繊細な姿や自然な風情は、この時季だけの特別な魅力。一瞬の旬を楽しむ気持ちで花と向き合ってみましょう。

一瞬の旬を生ける

6月から7月上旬が旬の「笹百合(ささゆり)」は、古事記に「山由理草(やまゆりくさ)」の名で登場するほど、古くから日本で親しまれてきた原種の百合です。

現在ではこうした日本古来の品種をもとに育成された、新たな品種も生まれています。
今回使用した「マニフィーク」も、そうした品種のひとつ。
笹百合を思わせる淡いピンクの花色や、細くしなやかな茎が美しい百合です。

そして、その魅力をじっくり楽しめるのが、一輪の花あしらい。
繊細な姿を活かすように、素朴な風合いの花器に生けました。
一輪だけを生けることで、花だけでなく、葉や茎を含めた全体の美しさが引き立ちます。

こちらではマニフィークだけを、たっぷりと生けました。

百合は重みのある花ですので、花器も安定感のあるものを選ぶと、美しく飾ることができます。
放射状に挿すことで花が重なりにくくなり、それぞれの花姿をさまざまな方向から楽しめます。繊細さと華やかさをあわせ持つ、印象的な仕上がりです。

同じ時季に旬を迎える、ピンクの「スモークツリー」をあわせて。

朝焼けに染まる雲のようなスモークツリーをまとったマニフィークは、繊細な美しさがいっそう際立ちます。
短い旬を迎える植物同士だからこそ生まれる、この季節ならではの取り合わせです。

夏らしい姿の中に、涼やかな気配が漂う小ぶりな百合の花あしらいです。

百合は大輪の花を思い浮かべる方も多いですが、こちらで使用した「竹島ユリ」やスカシユリの一種「オレンジココット」は可憐な花姿が特徴の品種です。

軽やかな花姿を活かし、ひとかたまりになるように、片側へ流すように生けました。
葉を取り除くことで、斜めに伸びる美しいラインが際立ちます。

小ぶりな花は一輪も魅力的です。

先ほどマニフィークで使った花器を再び用い、一輪の竹島ユリにスモークツリーと「ドクダミの葉」を添えました。
竹島ユリの鮮やかな黄色が季節の植物によく映え、夏らしい軽やかな雰囲気を楽しめます。

カノコユリの軽やかさを楽しむ

カノコユリ(鹿の子百合)の交配種「スイートサレンダー」を使った花あしらいです。
花弁が反り返って咲く姿が特徴の原種系の百合で、すらりと伸びる姿に涼やかさを感じます。

花の周辺の葉だけを残し、それ以外は取り除くことで、真っすぐに伸びる美しいラインを際立たせました。
数本ずつに分けて飾ることで、軽やかで涼やかな印象に仕上がります。

上で生けたスイートサレンダーに、一枝の「ドウダンツツジ」を添えました。

たった一枝ですが、みずみずしい緑が加わることで、野趣あふれる魅力がいっそう引き立ちます。

今度は同じ向きに流れるよう、配置を変えてみました。

花材も花器も同じですが、いくつかに分けて飾るだけで印象は大きく変わります。
置く場所や眺める方向に合わせて自由に組み合わせることで、花あしらいの楽しみ方も広がります。

百合の競演

さまざまな百合をひとつに集めて。
小輪の竹島ユリやオレンジココット、中輪のスイートサレンダーに、エレガントな大輪の「カサブランカ」をあわせました。

アシンメトリーに挿すことで、百合が持つ伸びやかな動きを引き出しています。
花の大小や複雑な色合いが重なり合い、豪華で見ごたえのある印象に仕上がりました。

百合だけの花あしらいに「ドラセナ」の葉を加え、左右へ広げるように生けています。
ドラセナの葉が百合の花や葉と呼応し、空間に広がりとリズムが生まれました。

百合はさまざまな花や葉と組み合わせられることの多い花材ですが、このように色や形をリンクさせることで、より洗練された雰囲気を楽しめます。

お手入れのヒント

百合の花粉は色が濃く、花弁などに付くと落とすのが難しくなります。
鮮やかな雄しべが付いた自然な姿も魅力的ですが、事前に花粉を取り除くことで、花弁や周囲を汚さずに楽しめます。
雄しべが開く前(粉状になっていない状態)であれば、より簡単に取り除くことができます。

葉が汚れている場合は、写真のようにウェットティッシュなどで軽く拭き取るだけで、つややかな葉がよみがえります。ひと手間加えるだけで、花あしらい全体がぐっと美しく見えるでしょう。
また、百合の葉は存在感があるため、花の周辺だけを残して取り除くと、他の花材ともなじみやすくなり、すっきりと洗練された印象に仕上がります。

百合は茎が硬く水揚げもよいため、深水で生けても安定し、気温の高い時季でも比較的花持ちのよい花です。

下の花から順に咲き終わりますので、しおれた花は付け根から切り取るのがおすすめです。
そうすることで残ったつぼみに力がまわり、最後まで美しい姿を楽しめます。

「百合」の基本情報

□出回り時期:通年(乙女百合・笹百合などは初夏の短い時期)
□香り:品種により異なる
□学名:Lilium
□分類:ユリ科 ユリ属
□別名:山由理草(やまゆりくさ・古事記)
□英名:Lily
□原産地:北半球の温帯地域、日本など
□花ことば:純粋、威厳、無垢 など


花毎でご紹介している百合のお話
・二十四節気の花絵 第三十四話 夏至「百合」


新井光史

神戸生まれ。花の生産者としてブラジルへ移住。その後、サンパウロの花屋で働いた経験から、花で表現することの喜びに目覚める。 2008年ジャパンカップ・フラワーデザイン競技会にて優勝、内閣総理大臣賞を受賞し日本一に輝く。2020年Flower Art Awardに保屋松千亜紀(第一園芸)とペアで出場しグランプリを獲得、フランス「アート・フローラル国際コンクール」日本代表となる。2022年FLOWERARTIST EXTENSIONで村上功悦(第一園芸)とペアで出場しグランプリ獲得。2025年3月に行われたFlower Art Award2025でも川口太聞(第一園芸)とペアで出場しグランプリを獲得した。 コンペティションのみならず、ウェディングやパーティ装飾、オーダーメイドアレンジメントのご依頼や各種イベントに招致される機会も多く、国内外におけるデモンストレーションやワークショップなど、日本を代表するフラワーデザイナーの一人として、幅広く活動している。 著書に『The Eternal Flower』(StichtingKunstboek)、『花の辞典』『花の本』(雷鳥社)『季節の言葉を表現するフラワーデザイン』(誠文堂新光社)などがある。

Text・Photo 第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子