第十九話「十三夜の月に見立てる」
2023.10.13
贈gift
この世にある美しいものを花に見立てたら──
こんな難問に応えるのは、百戦錬磨のトップデザイナー。そのままでも美しいものを掛け合わせて魅せる、夢の花屋の第十九話は「十三夜の月」に見立てたブーケです。手掛けるのは第一園芸のトップデザイナーであり、フローリスト日本一にも輝いた新井光史。
ここからは花屋の店先でオーダーした花の出来上がりを待つような気持ちでお楽しみください。
十三夜とは
中秋の名月とも呼ばれる十五夜が有名ですが、その十五夜の約ひと月後にのぼる、もうひとつの名月が十三夜です。
毎旧暦の9月13日が十三夜にあたりますが、西暦との誤差があるため、その日は毎年異なります。2023年は10月27日がその日。
十五夜が豊作を願う行事に対し、十三夜は収穫に感謝する行事です。満月に見立てた月見団子や魔除けのススキをお供えするのは同じですが、十五夜では里芋などの芋類と15個のお団子、十三夜では栗や豆と13個のお団子に変わります。どちらもその時季に収穫されたものをお供えすることから、十五夜は芋名月、十三夜は栗名月や豆名月とも呼ばれます。
見立ての舞台裏
今回用意された花は、深く鮮やかな黄色が華やかな菊や秋の草花。
新井が描いた、このブーケのためのデッサン。ススキがアクセントになるようです。
ブーケ作りがはじまりました。どんなに大きなブーケでも、最初の数本から真剣勝負です。
ごく小さな花束がみるみるうちに大きくなっていきます。
中央に入れた菊は「オペラオレンジ」
“しめじ”を思わせる、小さく丸い菊は「カリメロ・シャイニー」。菊は品種改良が進み、花の色や形、大きさがとても豊富です。
ススキが加わり、デッサンのイメージに近づいていきます。
完成、十三夜に見立てたブーケ
十三夜に見立てたブーケが完成しました。
「もし、夢のようなお月見ができるとしたら…と想像して今回のブーケをデザインしました。場所は桂離宮、月は十五夜ではなくて十三夜。ブルーノ・タウトが感激したという月見台から見る月のイメージです」
「月は天高く昇るとシルバーですが、地平線に近い時の色はオレンジがかっていて、そんな月の色のイメージです。青味がかった皿の上にブーケを置いて、月と水面の関係を表しました」
「ススキは切り口が鋭くなることから魔除けの意味を込めてお月見の際に供えられますが、自分はそれだけでなく、穂先が月光に輝く姿が美しいと思って加えました。他にも穂が美しい、繊細なグリーンのスモークグラスや、紫の穂のパープルファウンテングラスも添えて、秋の気配を演出してみました」
新井本人にブーケを持ってもらうと、かなり大きなサイズであることがお分かりいただけるかと思います。
これから天高く昇る月と、月明りに照らされた稲穂たちの美しさをひとつに束ねた、まさに十三夜のブーケです。
小さなお月見ブーケ
今回、新井がサプライズで用意していたのは、先ほどの花材を使った手のひらサイズのブーケ。スプレー咲きの「カリメロ・シャイニー」を一枝つづ丁寧に分けて、大きなブーケ同様にスパイラルに組み上げたもの。
もうひとつはリモニュームやミシマサイコなど、ごく小さな花を集めて作った極小ブーケです。
二つを並べてみました。手のひらの上にのってしまうほど小さいブーケですが、手数は大きなサイズのブーケと同じです。
特にスプレー咲きの花々は水に浸かる部分や、束ねる位置にある枝をカットしますが、新井はこうした枝をいつも大切に取っておいて、まるで新しい命を吹き込むように、こんな風に花と遊ぶのです。
今回の花材:菊(チスパ、フエゴダーク、オペラオレンジ、カリメロ・シャイニー)、キバナコスモス、パープルファウンテングラス、タカノハススキ、スチールグラス、スモークグラス、キビ、ワレモコウ、ミシマサイコ、センニチコウ、リモニューム、ヒオウギの実、ディアボロ、イタリアンルスカス
十三夜に見立てたブーケはいかがでしたでしょうか。
花の色の組み合わせの中でも黄色~オレンジ色は難易度の高い組み合わせですが、新井は何種類もの黄色やオレンジの花を組み合わせた上に、異なる色や形の草花を合わせてひとつの世界感を作り出しました。
十五夜の満月ではなく、満ちる前の十三夜をモチーフにしているのも、新井ならではの粋な遊び心です。
今回は金色の月をイメージしたブーケでしたが、次のお月見には天に高く昇った白銀の月をモチーフにした新井の花が見てみたいと思うのでした。
「夢の花屋」ではトップデザイナーならではの、鋭い観察眼や丁寧な仕事が形になる様子まで含めて、お伝えしていきたいと思っております。
こんな見立てが見てみたい…というご希望がございましたら、ぜひメッセージフォームからお便りをお寄せください。
第二十話予告
次回は新井光史が担当する夢の花屋。12月15日(金)午前7時に開店予定です。
新井光史 Koji Arai
神戸生まれ。花の生産者としてブラジルへ移住。その後、サンパウロの花屋で働いた経験から、花で表現することの喜びに目覚める。
2008年ジャパンカップ・フラワーデザイン競技会にて優勝、内閣総理大臣賞を受賞し日本一に輝く。2020年Flower Art Awardに保屋松千亜紀(第一園芸)とペアで出場しグランプリを獲得、フランス「アート・フローラル国際コンクール」日本代表となる。2022年FLOWERARTIST EXTENSIONで村上功悦(第一園芸)とペアで出場しグランプリ獲得。
コンペティションのみならず、ウェディングやパーティ装飾、オーダーメイドアレンジメントのご依頼や各種イベントに招致される機会も多く、国内外におけるデモンストレーションやワークショップなど、日本を代表するフラワーデザイナーの一人として、幅広く活動している。
著書に『The Eternal Flower』(StichtingKunstboek)、『花の辞典』『花の本』(雷鳥社)『季節の言葉を表現するフラワーデザイン』(誠文堂新光社)などがある。
- 花毎TOP
- 贈 gift
- 夢の花屋