庭の中の人

ガーデナーや研究者、植物愛あふれる人たちが伝える、庭にまつわるインサイドストーリー。

第三話「草刈り」

2020.08.23

study

朝からギュィーーン、ギュィィィーーーンッという豪快な音が響きわたり、眠い目を擦りながらようやく起床の夏。ベランダから見下ろすと、マンションの敷地内で造園業者さんが草刈りをしていました。

ちょっと強面のお兄さんたち。みんな一生懸命作業しています。朝ごはんのあと、日課の散歩の途中で、作業中のお兄さんに「ご苦労様で~す!」と声をかけてみましたが、完全に無視。(変なオバサンきた、と思ったに違いない。)

オールマイティに庭園仕事を任されている庭師たちも夏の間に追われるのが草刈りや芝刈りでしょう。特に芝生のメンテナンスは大変で、すぐに伸びてくる芝生を良い状態に保つためには、1週間に1回ほど芝を刈ります。そして芝生は日光が大好き。夏は日当たりガンガンの炎天下での芝刈り作業となることが多くあります。

こちらが先端に円盤がついている刈払機

ゴルフ場やサッカーグラウンドなど広くて平坦な土地を管理しているなら、人が運転しながら芝刈りをする「乗用芝刈機」が常備されていますが、芝生の面積がそこまで大きくなければ、手押しの芝刈機や、先端に円盤がついている刈払機を使います。
最近では、自走式の芝刈機が各メーカーから出されていて、お掃除ロボット「ルンバ」のように勝手に敷地を回って芝を刈ってくれる便利なロボットなんかもいたりします。東京都新宿区のとある小学校では校庭が芝生のため、芝刈りロボットが活躍しています。でも公園やマンションの敷地ではあまり見かけません。やはり手押し式の芝刈機なんかがまだまだメジャーです。

この手押し式の芝刈機で作業する場合、芝生の生えている敷地の端からはじまで歩きながら機械を押していくので、同じところを何度も何度も往復することになります。万歩計をつけていると1日の歩数が軽く2万歩を超えることも。夏はもう苦行の域です。

さて、うちのマンションの敷地をメンテナンスしてくれた造園業者さんたちも、1週間ほど、晴れの日も、雨の日も、毎日芝生や雑草を刈ってくれました。
すべての作業が終わったあと、外へ出かけると、草丈が高くて足を取られていた芝生広場も、道沿いの雑草も、サツキに絡まっていたツタもすっかり小綺麗に。芝生広場では子供たちが嬉しそうにボールを転がしながら遊んでいます。

造園業者さんがわざと刈り取らなかったミント

ふと道端に目をやると、一か所だけ緑でふさふさのところが。
よく見ると、近所の人が勝手に植えたであろうミントの葉が伸びのびと茂っているではありませんか。しかも摘心(脇芽を伸ばすために新芽の先端を摘み取ること)しているところを見ると、大切に育てている様子。刈りこむ前は、まわりの雑草に紛れていただろうに…

ちゃんと植物を見極めて、必要なものは刈らずに残しておくという、職人さんたちの小さな気遣い。「なんて心優しい人たち。いい仕事しているな~!」と残されたミントを見て、ひとり感心していたのでした。(これであいさつ無視は相殺されました。)

はつやま さちこ

高校卒業後、英国へ留学。ロンドン郊外にあるOaklands CollegeのFloristry学科に在籍し、イギリスの国家資格を取得。2008年第一園芸株式会社に入社。ネット事業部を経て緑化事業部へ。各国大使館などを担当していたガーデナー。
現在は子育てのため一旦、退職して家庭生活を満喫中。
好きなことは食べ歩き、無計画旅行。昆虫食推進派。