庭の中の人

ガーデナーや研究者、植物愛あふれる人たちが伝える、庭にまつわるインサイドストーリー。

第四話「お茶の時間」

2020.09.22

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庭師は必ず10時と3時に休憩をします。
寒さ、暑さ、雨、風に関係なく外で仕事をしていると、この休憩時間はとてもありがたい時間です。みんな自分の携帯電話のアラームをこの時間にセットしていました。
休憩時間になっても「きりが悪いし、あとちょっとだから」といってダラダラ仕事を続けずに、スパッと休憩に入ります。体力勝負の仕事だからこそ、しっかり休む時には休むというのが身についているのでしょう。

この時間に気が付かない人には「お~い、お茶の時間だぞ!」と必ず声がかかります。わたしはこの休憩を「休憩」ではなく、「お茶の時間」という言い方をするのが気に入っています。
「お茶の時間」という響き、なんともイギリスみたいで優雅ではありませんか。

さて、このお茶の時間、何をするかというと、水分補給はもちろん、おやつを食べたり、たばこを一服したりして、体を休めます。
木に登って剪定している最中は、水分補給がなかなかできないのでこの休憩時間はまさにオアシス。世間話をしたり、今後の段取りを話したりと、仕事の情報交換なども行われます。

作業に集中していると眉間にしわが寄っていて、一見するとコワそうで近寄りがたい人(※あくまでも主観です!)だったり、ちょっとなじみのない忍者みたいな格好だったりするので、話しかけづらそうなオーラがありますが、みなさん自然を愛するやさしい人たちばかり。
そして、とりわけ甘党が多いこと!庭師は体力勝負。だから体が糖分を欲しているのかもしれません。強面たちがスイーツ男子&スイーツ女子に変わる、それがお茶の時間です。そのギャップがまた、たまらないのです。

現場詰所(作業員などが休憩・待機するスペース)がある場合は、お菓子箱、大抵はお中元やお歳暮でもらった、有名な鳥型のサブレや筒状のクッキーの空き缶などが常設されていて、各自が好きなお菓子を持ち寄ったりして、いつもお菓子が詰まっている状態でした。たまに差し入れにアイスクリームやドーナツなんかをいただくと、みんな大喜びです。

現場も麻布や赤坂あたりの出入りが多かったので、周りには老舗などが多く、そこはみなさん情報通。どこそこの鯛焼きが美味しいとか、あそこの大福がうまいなど。
コンビニでも、新作のメロンパン(アールグレイ味)が出たよ、と買ってきてくれたり、暑い夏の日はお昼休みにモナカアイスを半分こして食べたり…なんだか女子高校生みたいですね。お菓子を作るのが好き、という人もいて、彼が作るパウンドケーキはみんなに大人気。わたしが頂いた「レモンピールとポピーシードのパウンドケーキ」もなかなかの絶品でした。

ちなみち、いつでもお茶を飲んでいる国、イギリスでも、建設現場で働く人たちや大工さん、ガーデナーさんが休憩中に好んで飲む「ビルダーズティー(Builder’s tea)」というのがあります。マグカップにお手頃なティーバッグを入れ、普通より濃い目にいれた紅茶にたっぷりのミルクとお砂糖をいれて飲む、庶民的な飲み物です。私もイギリスのお花屋さんでバイトしていた時はバックヤードでよくこのお茶を飲んでいました。やはり体力勝負のワークマンには糖分が不可欠なんですね。

はつやま さちこ

高校卒業後、英国へ留学。ロンドン郊外にあるOaklands CollegeのFloristry学科に在籍し、イギリスの国家資格を取得。2008年第一園芸株式会社に入社。ネット事業部を経て緑化事業部へ。各国大使館などを担当していたガーデナー。
現在は子育てのため一旦、退職して家庭生活を満喫中。
好きなことは食べ歩き、無計画旅行。昆虫食推進派。