庭の中の人

ガーデナーや研究者、植物愛あふれる人たちが伝える、庭にまつわるインサイドストーリー。

第六話「虫との闘い」

2020.11.22

study

庭師が身につけている脚絆(きゃはん)や手甲(てっこう)、腹掛けなどは、藍染のものが多いのですが、それはなぜでしょう。
実は天然の藍には防虫効果があり、虫やヘビを避ける効果があるといわれ昔から庭作業や農作業などで用いられてきました。そして現在でも庭師は藍染の作業着を身につけて仕事をしているのです。

しかし、いくら藍染の作業着を身につけていても虫に襲われるときは襲われます。
特に怖いのはハチです。木の上で作業しているときに、運悪くハチに出くわすことも。幹の内部や土の中に巣を作るハチもいるので、注意していても気が付くのが難しいのです。しかもハチが襲ってきても地上にいるときのように、すぐにその場から逃げることができないため、刺されてしまうのです。

事務所に飾られた大きなスズメバチの巣

私が勤務していた庭園では、新しい仲間が入ってきたら必ず「ハチ毒の抗体検査」を受けているか確認していました。過去にハチに刺されたことがあったり、元々の体質でハチ毒の抗体価が高い人は刺されると最悪の場合、死に至る可能性があるため、病院で「ハチ毒の抗体検査」を受けるのです。

庭師の中には足がすくむような高い木にスルスルと格好よく登っていけるのに「採血時の注射がコワいからイヤだ~!」と、まるでドラゴンボールの孫悟空みたいな人もいましたが、自身の身を守るためになんとか頑張って検査を受けてもらっていました。そしてこの抗体検査で陽性が出るとエピペンを常備することになるのです。

5種類のハチ毒の抗体を調べたときの結果

ハチ以外にも危険な虫はたくさんいますが、特に厄介な虫がいます。それが毛虫です。
特にツバキやサザンカを好んで食べる「チャドクガ」は関わりたくない毛虫ナンバーワン。
体に毒針毛という細かい毛が生えていて、この毛に触れると、かゆみやかぶれ、発疹などの皮膚炎を引き起こします。しかも皮膚を掻きむしるとさらに炎症部分が広がっていきます。成虫や卵、脱皮した後の殻や死骸にも毒があり要注意。
またチャドクガの毒針毛は軽くて風に舞って飛んでいくので、知らず知らずのうちに皮膚や洋服に付着して症状がでることも。毒針毛の付いた服と一緒に洗濯してしまった別の洗濯物にも毛が移り、家族中がかぶれてしまう…なんてこともあるのです。

ほかにも刺されるとビリビリとした痛みが走ることから、通称デンキムシと呼ばれているイラガの幼虫や、放っておくと笹を食べつくしてしまうタケノホソクロバも刺されると腫れあがってしまうので嫌われています。(※インターネットで検索すると目を覆いたくなるような画像がたくさん出てきますのでご注意ください!)

大抵の場合、毛虫たちは群生しているので放置してしまうとすごい勢いで葉っぱを食べ続け、植物が不健康な姿になったり、枯れたりします。そして周辺に卵を産み付けられ、また翌年も同じ被害に合う確率が上がります。
そうならないためにも、普段から異常がないか目を配らせ、見つけ次第なるべく早急に殺虫剤をまいたりして対処します。
そして万が一、毛虫に刺された時のために救急箱には同僚の庭師たちはこれが一番効くという「ムヒアルファEX」と、更にハチに刺された時のために毒を吸い上げる「ポイズンリムーバー」も常備してありました。

最後に、どこの業界にも「あの伝説の人」みたいな人物がいると思うのですが、庭師の中でもそういった「伝説の人」や「武勇伝」のような話をよく耳にすることがあります。
その中でも「チャドクガを肌にこすりつけても、全く平気な庭師がいる伝説」はよく聞く話でした。実際にチャドクガをこすりつけている人を私は見たことがありませんが、刺されすぎて慣れてしまうのか、元々の体質でかぶれないのか分かりませんが、みなさんは絶対にマネしないでくださいね!

はつやま さちこ

高校卒業後、英国へ留学。ロンドン郊外にあるOaklands CollegeのFloristry学科に在籍し、イギリスの国家資格を取得。2008年第一園芸株式会社に入社。ネット事業部を経て緑化事業部へ。各国大使館などを担当していたガーデナー。
現在は子育てのため一旦、退職して家庭生活を満喫中。
好きなことは食べ歩き、無計画旅行。昆虫食推進派。