第七十二話 「十一月 立冬 小雪」
2022.11.07
暮life
色は贈り物
今年は冷え込みはじめの日が早かったせいでしょうか。
二十四節気の「立冬」のことばに驚きすぎることなく、季節のリズムに寄り添うよう、自然な変化を楽しんでいます。
冷たいブロック塀を這う蔦の葉色が赤く染まってくれば本格的な紅葉のしるしです。
ぐるりと見回せば、晩夏に早々と紅葉し葉をすっかり落とした山桜を先頭に、頑なな濃い緑色をしていた夏蜜柑や柚子の実もほんのりと黄色に変わりはじめています。
がっちりと硬そうな実も熟成が進んで、柔らかな肌へと変わったようです。
そっと触れるだけで、その様が伝わってまいります。
小春日和の中、色づきはじめたその夏蜜柑のそばに佇んでいると、すべてが緩み穏やかな空気に包まれています。
知らぬ間に少しずつ、あちこち緊張したり頑張ったりして固くなっていた身体や心も、初冬の植物や陽気に習うのでしょう、ゆっくりと緩んで心地よさが戻ってまいります。
色が心にどんな風に素敵にはたらくか、草木花が好きな人なら誰しもが知っていることでしょう。
かたちや香りの華やかさはもちろんのこと、やはり草木花の持つ色の力は、とても強いものです。
初冬になると花だけでなく、紅葉に世界は彩られます。
古く日本人は、草木が色づくのは不思議な力を宿す「露」がはたらくためだと信じていました。
現代においては、気温差が大きいところは紅葉が美しい、アントシアンの色素の働きなど、科学で理解できることも増えました。
それでもなお、なぜ人は花の色や形、香りを見ると嬉しい気持ちになるのか、そしてあちこちに現れる草木花はなんのために作られて誰がこの魅力やまない世界を作ろうと思ったのか謎のまま、不思議な力のままです。
寒く厳しく色の少ない本格的な冬がもう少しでやってまいります。
あちこちに現れる色の贈り物を存分にうけとって、今年も身体と心を十分にあたためながら、冬を迎えるしたくをしたいと思います。
初冬の花
十日夜を過ぎても、今年はススキが目にとまります。
すっとしだれるような穂も凛と今年は抜群に形よく、どの場で見るススキも見事で見入ってしまいます。
造成するために刈り取ってしまうというススキをいただいて「手あぶり」におとし*を入れ、南天、背高泡立草、洋菊などの晩秋の花とともに挿れてみました。
行事を過ぎてからが美しい草花が数多くあります。
かたちに囚われすぎることなく、楽しんでいきたいものです。
*花瓶などの中に入れて使用する器
照り葉
様々に生けた後に残る小花を瓶子に入れて。
初冬の草葉の色を瓶子の陶器の白肌に合わせたくなりました。ちいさな背高泡立草もすっと依代のような顔になります。
枯蓮の花
暑気の間、今年も見事な花と葉を見せてくれた蓮も今は枯れて、寂しげな姿を見せていますが、枯蓮の葉は変わらずに魅力ある形。
くるりと丸まった蓮の葉に野菊やカラスウリ の実などを挿れて、枯れゆくものと旬のもの、両方の心と形を合わせてみました。
広田千悦子
文筆家。日本の行事・室礼研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい教室を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。
写真=広田行正
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